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閲覧いただき、ありがとうございます。最後までお付き合いいただけますと幸いです。心桜視点です。

朝のホームルームが終わり、クラスメートたちがぞろぞろと廊下に出て行く。

私はその中で一人、席に座ったまま教室の窓から外を見ていた。今日は雲一つない青空が広がっている。

だけど、私の心の中には、いつも暗い影がこびりついている。


華恋のことだ。

華恋は何をしても特別視され、みんなから憧れの目で見られている。

それに比べて、私はどうだろう。

何をしても、誰かの影に隠れてしまう。


「心桜、大丈夫?」


クラスメイトの一人が心配そうに声をかけてくる。

その表情には、本当に心配しているのか、それともただの社交辞令なのか、わからない微妙なニュアンスがあった。


「うん、大丈夫だよ。」


私は笑顔を作って答える。

でも、その笑顔が本物でないことは、自分が一番よくわかっている。


昼休み、私は教室を飛び出し、人気の少ない校舎裏へと向かった。

ここなら、誰にも見られずに一人でいられる。


背を壁に預け、深いため息を吐く。

どうして、私ばかりがこんなに息苦しいのだろう。

華恋はいつも楽しそうに見える。

華恋には、悩みなんてないように見えるから、余計に腹が立つ。


「どうして、華恋ばかり……」


私は小さく呟いた。誰にも聞こえないように、けれど自分にははっきりと聞こえる声で。


ふと、目の前に人影が現れた。

顔を上げると、蓮が立っていた。

蓮は少し心配そうな表情で私を見つめている。


「心桜、こんなところにいたのか。具合でも悪いの?」


蓮の優しい声に、胸が痛くなる。

蓮は私に気をかけてくれる。

それは嬉しいことのはずなのに、私は素直に喜べない。

蓮が私を見る目が、華恋を見る時とは違うとわかっているからだ。


「ううん、大丈夫。ただ、少し考え事してただけ。」


私は笑顔で答えたが、その笑顔は自分でもひどく引きつっていると感じた。


「そっか。でも、無理はしないでくれよ。」


蓮は優しく微笑んだ。

その笑顔は、まるで太陽のように温かい。それが、私には眩しすぎた。


放課後、私は再び華恋に会った。

華恋は図書館ではなく、中庭のベンチに座っていた。スケッチブックを開いて、何かを描いているようだった。その表情は穏やかで、まるで何の悩みもないかのように見える。


「華恋。」


私は少し強い口調で華恋に声をかけた。

華恋が顔を上げ、私に微笑んだ。


「心桜、どうしたの?」


その笑顔が、私には憎たらしく思えた。

私は無意識に拳を握りしめた。


「ねえ、華恋。あんたって、どうしていつもそんなに平気なの?何も悩みがないみたいに見える。」


私の言葉に、華恋は少し驚いたように目を見開いた。でも、すぐにその顔を曇らせた。


「そんなことないよ。私だって、悩んでることはたくさんある。」


「嘘よ。あんたはみんなから特別扱いされて、悩みなんてないはず。私みたいに、必死にならなくても何でも手に入るんでしょ?」


私の声は、怒りに震えていた。

これが本当の私の気持ちだ。

ずっと隠してきた、嫉妬と劣等感の塊。


……違う!こんなことが言いたいんじゃないのに……!


華恋はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。


「心桜、私はそんな風に思ったことなんてないよ。特別扱いされるのは、むしろ重荷だと思ってる。」


その言葉に、私はさらに苛立った。


「そんなのただの言い訳よ。あんたは何もわかってない。」


私は吐き捨てるように言って、その場を立ち去った。涙がこぼれそうになるのを、必死にこらえながら。


自分でも、もう何がしたいのか分からない。


家に帰ると、母が夕食の準備をしていた。

その背中を見ると、私は少し落ち着くことができた。母はいつも優しく、私のことを心から大切にしてくれる。それでも、どこか満たされない気持ちが胸の中に渦巻いている。


「おかえり、心桜。今日はどうだった?」


母が振り返り、笑顔で私を迎えてくれる。その笑顔は本当に優しい。でも、私はその優しさが、時折重く感じることがある。


「普通だったよ。特に何もない一日だった。」


私はそう答え、食卓に着いた。母は私の言葉に疑問を抱くことなく、夕食を並べ始めた。その姿を見ながら、私は自分がどうしてこんなにも苛立っているのか、改めて考えた。


結局、私は誰かに認められたくて仕方がないのだ。華恋に負けたくない。華恋よりも輝きたい。そのために、私は必死になっている。でも、それは本当に私が望んでいることなのだろうか。


夜、私はベッドに横たわりながら天井を見つめた。目を閉じると、華恋の穏やかな笑顔が浮かぶ。その笑顔に対する嫉妬と憎しみが、私の心をさらに締め付けた。


「華恋には負けたくない……」


私は小さく呟いた。

まるで、呪いをかける魔女のような声。

何もしがらみもプライドもなく、華恋と笑い合っていた頃が綺麗な宝石箱のようにキラキラしているように思えた。

でも、その頃には戻れないんだ。

独り呟いた言葉は、自分に対する誓いのように聞こえた。

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