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最後までお付き合いいただければ幸いです。
学校の廊下を歩いていると、耳に入ってくるのはいつも他愛もない会話や噂話。
それでも、その中に時折、私の名前が出てくるのを感じる。
「羽月華恋って、やっぱりすごいよね。あの家の娘だし、何をやっても成功するんだろうな。」
「そうだよね。でも、なんか冷たくない?なんか近寄りがたい感じがする。」
背後でそんな話をしている女子生徒たちの声が、私の耳に届く。
聞こえないふりをして歩き続けるけれど、心の奥底では、その言葉が鋭く刺さっていた。
教室に入ると、いつもの取り巻きが集まってきた。
彼女たちは、私に気を使っているようで、どこか距離を置いた態度を取る。
「華恋ちゃん、おはよう!今日も可愛いね。」
取り巻きの一人が笑顔で挨拶してくる。
私は薄く微笑んで返す。
「ありがとう、おはよう。」
形式的なやり取り。
それが、私の日常になってしまっている。
ふと、視線を感じて振り向くと、心桜が私を見ていた。
心桜はすぐに視線をそらし、ノートに目を落としたが、その目には明らかに不満が浮かんでいた。
昼休み、私は人気の少ない中庭に逃げ込んだ。
ここなら少しは静かに過ごせると思ったからだ。
ベンチに腰を下ろし、ノートを開く。
だけど、集中できない。
頭の中では、さっきの噂話が繰り返し再生されている。
「何をやっても成功する」「冷たい」――そんな風に見られているのだと考えると、息が詰まる。
「ここにいたんだ、華恋。」
突然、心桜の声が聞こえた。振り返ると、心桜が立っていた。その表情は険しく、怒りが滲んでいるように見えた。
「心桜、どうしたの?」
私は少し驚きながら尋ねた。心桜は私の前に仁王立ちして、こちらを睨んだ。
「どうして、あんたばかりが評価されるの?」
その言葉に、私は思わず言葉を失った。心桜の声は震えていた。心桜の中にある、嫉妬や不満が溢れ出しているのがわかった。
しばらく私を睨みつけた後、心桜は俯いた。
「私だって、頑張ってるのに……」
心桜の目には、涙が浮かんでいた。心桜は普段、そんな弱さを見せることはない。だからこそ、その姿は私にとって衝撃だった。
「心桜、私だってそんな風に思われたくないよ。私が特別だなんて、思ったことない。」
私は真剣に言った。でも、その言葉は心桜には届かなかったようだ。
「嘘よ。あんたはいつも特別扱いされてきた。みんな、あんたのことを羨ましがってる。それがわからないの?」
心桜の声は、怒りと悲しみが入り混じっていた。私は何も言えずに、ただ心桜の顔を見つめていた。
心桜が去った後、私は深いため息を吐いた。心が痛い。心桜の言葉が、まるで刃のように私を傷つけたからだ。だけど、心桜の言うことは間違っていない。私は、周囲から「特別」と見られてきた。それが重荷であることを、誰にも言えないまま。
「また噂話か……」
ふと、誰かの声が聞こえた。顔を上げて、周りを見渡すとフェンス越しに、宙翔さんが立っていた。宙翔さんはスケッチブックを手に持ちながら、反対側の手で大きく手を振っていた。
「宙翔さん!?なぜ、ここに……?」
「近くの公園でスケッチしようと思って通りがかったら、言い合いのような声が聞こえて気になって見てみたら、華恋ちゃんがいたから。」
にこにこといつものように優しく笑う宙翔さん。
「噂話なんて、気にすることないよ。人は勝手に話したいことを話すだけだから。」
宙翔さんの言葉は、いつも通り穏やかだった。
でも、私にはその言葉が救いのように感じた。
「でも、私はその噂に振り回されてる。心桜も、私のことを誤解してる。」
私は小さな声で呟いた。宙翔さんは私の顔をじっと見つめ、少し考え込むようにしてから、笑顔を見せた。
「それでも、自分を信じるしかないんじゃないかな。他人の評価なんて、所詮は他人のものさ。自分がどう思うかが一番大事だよ。」
その言葉に、私は少しだけ涙がこぼれそうになった。誰かにこんな風に言ってもらえることが、こんなにも嬉しいなんて。
その日の放課後、私は再び心桜に会った。心桜は廊下の端で、一人で立ち尽くしていた。その背中が、どこか寂しげに見えた。
「心桜……」
私は心桜に近づき、そっと声をかけた。心桜は振り返り、少し驚いたように私を見た。
「何よ。」
その言葉には、まだ冷たさが残っていた。でも、私は少しだけ勇気を出して言った。
「ごめんね、心桜。私が特別扱いされてるのは、私も辛いんだ。心桜に誤解されたくない。」
心桜はしばらく私を見つめていたが、やがて視線をそらした。
「わかってるよ。でも、私だって、あんたみたいになりたかったんだ。」
その言葉には、心桜の本音が隠されていた。
私は何も言えず、ただ心桜の背中を見送ることしかできなかった。
噂話は、私たちの関係をどんどん壊していく。
評価という見えない鎖が、私たちを縛り続けている。でも、そんな中でも、少しずつ自分を信じることができるようになりたい。
そう思いながら、私は夕日を見上げた。
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