3
閲覧いただき、ありがとうございます。最後までお付き合いいただければ幸いです。華恋と心桜の過去編です。
夏の日差しが降り注ぐ庭で、私と心桜はよく遊んでいた。まだ小学校に上がる前の私たちは、何も知らずにただ無邪気に笑い合っていた。
「華恋ちゃん、見て!お花が咲いたよ!」
心桜が、庭の隅に咲いた小さな花を指差して、笑顔で教えてくれた。
その時の心桜の笑顔は、今の心桜のものとは全く違っていた。
まるで、世界に何の不満もないかのような、純粋な笑顔だった。
「本当だ、きれいだね!」
私も一緒に笑って、心桜と花を摘んだ。
その頃の私たちは、いつも一緒で、何をするにもお互いのことを考えていた。
心桜がいなければ、私はきっともっと寂しい子供だっただろう。
でも、ある日、私たちの関係が少しずつ変わり始めた。その日は、心桜の家で遊んでいた時のことだった。
「心桜ちゃん、ちょっとこれを見て。」
心桜の母親が、一冊のノートを持ってきた。
それは、彼女がかつて書き溜めていた日記のようだった。心桜は興味津々でそのノートを開き、ページをめくり始めた。
「これは、お母さんの昔の話よ。私のお友達の小百合さん……華恋ちゃんのお母さんが異世界からやってきた時のことも書いてあるわ。」
心桜の母は優しく微笑んでいたが、その目にはどこか寂しさが宿っていた。心桜はノートを読んでいるうちに、突然顔をしかめた。
「ねえ、ママ。これって、どういうこと?」
心桜は疑問の声を上げた。そのページには、華恋の父親、怜治の名前が書かれていた。そこには「本当は、私が選ばれるべきだった」という言葉が記されていた。
私は心桜の後ろから覗き込み、その文章を見てしまった。意味は理解できなかったけれど、心桜の顔に浮かぶ暗い影に気づいた。
「華恋ちゃん……」
心桜の視線が私に向けられた。その目には、今まで見たことのない感情が宿っていた。
そして、心桜のお母さんの瞳に仄暗いものがあることを感じた。
それからしばらくの間、私たちの関係は変わらずに続いた。遊ぶ日々も、笑い合う時間も変わらなかったはずだ。でも、私は心桜の心に小さな棘が刺さったことを知らなかった。
私たちが小学校に上がると、状況は少しずつ変わり始めた。私は母が異世界から来たという話が町中で広まり、「特別な存在」として扱われるようになった。学校でも先生たちは私に対して特別な期待を抱き、同級生たちも「華恋は特別なんだ」と言い出した。
そんな中で、心桜はいつも私の隣にいたけれど、その表情には以前のような無邪気さが消えていた。
小学校の運動会の日。私はリレーの選手に選ばれ、みんなから応援されていた。心桜もその一人だった。スタート地点に立った私は、背後から聞こえる応援の声に胸が高鳴った。
「華恋、頑張ってね!」
心桜が笑顔で声をかけてくれた。でも、その笑顔は少し引きつっているように見えた。
レースが始まり、私は必死で走った。みんなの期待に応えたいという気持ちで、ただ前を見て走り続けた。ゴールに近づくにつれて、歓声が一層大きくなった。
そして、私がゴールした瞬間、クラスメートたちが駆け寄ってきた。
「華恋、すごい!やっぱり特別だね!」
その声に囲まれながら、私は息を切らして笑顔で応えた。でも、ふと視線を上げた時、心桜が少し離れた場所で俯いているのが見えた。
「心桜?」
私は心桜に近づこうとした。でも、その時、彼女は私の手を振り払った。
「華恋は何もわかってない……」
心桜の声は震えていた。私は何も答えられず、ただ立ち尽くしていた。
それ以来、心桜は少しずつ私と距離を置くようになった。遊ぶ時間も減り、話すことも少なくなった。中学生になった頃には、心桜は私と話すことすら避けるようになっていた。
私は何度も理由を尋ねたけれど、心桜はただ冷たい目で私を見つめるだけだった。その目には、昔の親友の温かさはもうなかった。
そして、高校に入った今、私たちの関係は形だけの親友になってしまった。周囲には「親友」と見えているけれど、私たちはお互いに本当の気持ちを隠し合っている。
心桜が私をどう思っているのか、私はもう聞くことができない。でも、あの日、心桜の母の日記を見た時から、何かが確かに変わってしまったのだ。
よろしければ、ご評価、ご感想いただければ幸いです。最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。




