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閲覧いただき、ありがとうございます。最後までお付き合いいただければ幸いです。

朝の光がカーテン越しに差し込み、私の部屋を照らす。目を覚ました私は、ベッドの上でしばらくぼんやりと天井を見つめていた。何も考えたくない気持ちと、考えなければならない現実が交差する。


この世界の朝は、いつも同じように始まる。学校へ行き、周囲の視線を感じ、取り巻きに囲まれながら過ごす日々。それでも私は、ただの「羽月華恋」でしかないのに。


「華恋、起きた?朝ごはんができてるわよ。」


母の小百合が、階下から声をかけてくる。

彼女の明るい声は、いつもと変わらない。

まるでこの世界が完璧であるかのように振る舞っている。でも、それが私にとっては息苦しいのだ。


「うん、今行く。」


私は返事をし、ベッドから起き上がった。鏡に映る自分の姿を一瞥する。

黒髪のストレートロングに、少し冷めた表情。

母とは似ていない。父とも違う。

私は、私でしかない。


制服に着替え、階段を降りると、食卓にはいつもの光景が広がっていた。

母の作った朝食が並び、父が新聞を広げている。


「おはよう、華恋。」


父が笑顔で声をかけてくる。その笑顔は完璧だ。周囲の期待を裏切らない、理想の父親という印象そのものだ。


「おはよう。」


私は短く答え、席につく。母はいつものように、私のためにバランスの取れた朝食を用意してくれている。


「今日は少し肌寒いわね。温かいお味噌汁を作ったから、たくさん飲んでね。」


母の言葉に、私は頷くだけだった。母はいつも私のことを考えてくれている。だけど、それが重荷に感じることがあるのは、私が贅沢なのだろうか。


「華恋、今日の予定はどうだい?」


父が新聞を畳みながら尋ねてくる。まるで私の一日が特別な出来事で満ちているかのように。


「特に何もないよ。いつも通り、学校に行くだけ。」


私は淡々と答える。それが私の日常だ。特別なことなんて何もない。ただ周囲が勝手に私を特別視しているだけ。


「そうか。無理しないで、ゆっくりやればいいんだよ。」


父の言葉はいつも優しい。それが、時折私の胸に刺さる。父は私に期待していないのか、それとも、期待しないことでプレッシャーを軽くしようとしているのか。


学校へ向かう途中、いつものように同級生たちの視線を感じる。私のことを「羽月さん」と呼ぶ声が聞こえる。私は彼らにとって、ただの「羽月華恋」ではなく、「あの羽月家の娘」なのだ。


「おはよう、華恋。」


すぐ隣から、聞き慣れた声がする。心桜だ。心桜はいつも完璧な笑顔で私に話しかけてくる。だけど、その笑顔の奥にある感情は、私にはわかる。


「おはよう、心桜。」


私は返事をする。彼女の笑顔に、私も笑顔で返さなければならない。それが、この世界でのルールだから。


「今日もいい天気ね。学校が楽しみ。」


心桜の声は明るい。でも、その瞳には不満と焦りが見え隠れしている。私たちの関係は、かつての親友という言葉では片付けられないものになってしまった。


教室に入ると、周囲のざわめきが一層強くなる。私を見る視線が増え、何人かの生徒が私に話しかけてくる。みんな、私の周囲にいることで、少しでも自分の価値を高めようとしているように感じる。


「華恋、おはよう。今日も可愛いね!」


取り巻きの一人が私にそう言ってくる。私は笑顔を作りながら、軽く会釈をする。それが、私に求められている対応だ。


「ありがとう。おはよう。」


でも、心の中では、早く一人になりたいと思っていた。そんな思いが表情に出ないよう、私は気をつける。


授業中、私は窓の外をぼんやりと眺めていた。教室のざわめきも、教師の声も、どこか遠くに感じる。


この世界がゲームの世界だとしたら、今の私は何の役割を果たしているのだろう?主人公ではないことはわかっている。だけど、脇役にしては注目を浴びすぎている。ならば、私はただのモブキャラなのだろうか?


ふと、隣を見ると、心桜が真剣な表情でノートを取っていた。心桜は、私と違って努力家だ。周囲の評価を気にしながら、常に自分を高めようとしている。その姿が、私には羨ましくもあり、時には眩しすぎる。


放課後、心桜と一緒に下校していると、心桜がふと立ち止まった。そして、私をじっと見つめる。


「ねえ、華恋。聞いてもいい?」


心桜の瞳は真剣だ。その問いかけが何なのか、私はすぐにわかる。


「何?」


私は淡々と答える。でも、心の中はざわついていた。


「あなたのママ、本当はうちのお母さんが結ばれるはずだったんじゃないの?」


その言葉は、私の胸に鋭く刺さった。心桜の瞳には、憎しみと悲しみが混ざっていた。


「……どうして、そんなことを今さら言うの?」


私は震える声で答える。それが私たちの関係の溝を一層深めることは、わかっていた。それでも、心桜は言わずにはいられなかったのだ。


「ずっと、言いたかったのよ。」


心桜の声は冷たく、鋭かった。そして私は、その言葉にどう答えればいいのかわからなかった。ただ、立ち尽くすことしかできなかった。

よろしければ、ご評価、ご感想いただけますと励みになります。最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

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