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あれから数ヶ月が経ち、季節は春を迎えていた。
新しい始まりを告げる桜の花が、風に揺れて舞い散っている。
私は駅前のカフェで一人、ホットチョコレートを飲んでいた。温かな甘さが心に染みる。
ぷかぷかと浮かぶマシュマロが小さな生き物のように見えて思わず口角が上がる。
……ホットチョコレート飲むの久しぶりだな、前はそんなこと考える余裕もなかったのに。
「これから、どうしようかな……」
私は小さく呟いた。進路を決める時期が迫っていたけれど、まだ確固たる答えは出ていなかった。
だけど、以前のように焦りや不安はあまり感じていない。自分のペースで、自分が本当にやりたいことを見つけようと思っていたからだ。
ふと、カフェのドアが開いて、胡桃が入ってきた。
胡桃は私を見つけると、にこやかに手を振って席に着いた。
「華恋さん、お待たせ。」
「ううん、私も今来たところだよ。」
私たちは笑顔を交わしながら、しばらく何も話さずに春の景色を眺めた。
胡桃は新学期から、近くの専門学校に通うことを決めたそうだ。
「胡桃さん、もう決めたんだね。専門学校で何を学ぶの?」
私が尋ねると、胡桃は少し誇らしげに微笑んだ。
「料理だよ。華恋さんのお母さんみたいに、こっちの世界でいう異世界の味を再現してみたくて。私も、少しでも私の故郷を忘れないようにしたいと思ったの。」
いつも笑顔を絶やさない胡桃の目には、これまでにない決意と希望が宿っていた。胡桃もまた、自分の道を見つけたのだと感じた。
そこへ、心桜がやってきた。彼女もまた、笑顔で私たちに手を振った。
「待たせちゃってごめんね。」
心桜はいつものように明るい笑顔を見せているが、以前とは違う穏やかな表情だった。心桜は美容系の専門学校に進学することを決めたと聞いていた。
「私、ずっと他人の評価にばかり気を取られてたけど、ようやく自分の好きなことを見つけられた気がする。」
心桜は少し照れくさそうに笑った。その笑顔に、私は心桜が本当に自分の道を見つけたことを確信した。
三人でカフェのテラス席に座り、桜の花びらが舞い散る中で話していた。胡桃も心桜も、それぞれの選択をして、新たな一歩を踏み出そうとしている。
「ねえ、華恋さん。華恋さんはどうするの?」
胡桃が尋ねた。私は少し考えてから、二人の顔を見つめた。
「私も、ようやく自分のやりたいことが見えてきた気がする。美術の道に進んで、自分の感性を表現してみたいんだ。」
その言葉を口にした時、胸の中にあった重さがすっと消えていくのを感じた。私はずっと自分のことを考えずに生きてきた。でも今は違う。私は自分の人生を、自分の手で選びたい。
「華恋さんらしいね。」
胡桃が微笑んで言った。その言葉に、私は自然と笑顔がこぼれた。
駅に向かう途中、私たちは立ち止まって、満開の桜の木を見上げた。花びらが風に乗って、舞い散っている。その美しさに、三人とも言葉を失った。
「ねえ、華恋。これから、私たちそれぞれ別の道を歩むことになるけど……また集まれるかな?」
心桜が不安げに尋ねた。
私は心桜の手を握り返し、笑顔で答えた。
「もちろん。また会おう。いつでも、どこでも。私たちはきっと、繋がっているから。」
胡桃も手を重ねてきた。
その手は温かく、優しかった。
雪解けのように、数年の確執が嘘のように、ほろほろと溶けていく。
「そうだね。また、新しい物語が始まるんだから!」
芝居めいた口調で紡がれた胡桃の言葉に、私たちは三人で笑い合った。
それぞれの選択が、私たちを新しい未来へと導いていく。
これからも困難なことが待ち受けているかもしれない。
でも、もう私は迷わない。自分の道を信じて歩んでいける。
最後に一度、桜の木を見上げた。
美しい桜の花びらが、空高く舞い上がっていく。
それはまるで、私たちの未来を祝福しているかのようだった。
「さあ、行こう。私たちの新しい一歩を踏み出すために。」
私は小さく呟き、前を向いて歩き出した。その先に広がる未来を信じて。
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