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夜、部屋に一人で座っていると、外から風の音が聞こえてきた。
窓を少し開けると、涼しい夜風がカーテンを揺らし、私の髪を優しく撫でていく。
今日は心桜との言い争いが頭から離れなかった。
心桜の苛立ち、そして自分自身への不満。それらが重くのしかかっている。
「私って、何なんだろう……」
小さく呟くと、その言葉が静かな部屋の中に吸い込まれていった。
私は机の上に置かれた母のノートに目を向ける。
そこには、異世界に迷い込んだ母の体験が綴られている。
ノートを手に取り、ページをめくる。
母は、この異世界で成功を収めた。でも、その裏には多くの試練があったことが書かれている。
『異世界に来た時、私はこの世界の価値観に戸惑いました。でも、自分を偽ることなく、ありのままの姿で生きると決めたの。』
その一文を読んだ時、私は胸が詰まる思いがした。母は、自分を偽らずに生きることを選んだ。
だからこそ、多くの人に愛され、尊敬されたのだろう。
「でも、私は……」
私は、ずっと他人の期待に応えようとしてきた。周囲の目を気にして、完璧でいようと努めてきた。けれど、その結果はどうだっただろう。
心桜との亀裂、そして自分自身への疑問。
ベッドに腰掛け、私はふと、胡桃の言葉を思い出した。
「大事なのは、自分がどうしたいかだと思う。」
胡桃の言葉はシンプルだけど、私にとってはとても重いものだった。私はずっと、自分がどうしたいかを考えずに生きてきたのかもしれない。
外を見ると、夜空には星が輝いていた。その光を見つめながら、私は自分自身に問いかけた。
「私は、本当はどうしたいんだろう?」
答えはすぐには出てこなかった。でも、初めて自分自身に問いかけた瞬間、少しだけ心が軽くなった気がした。
翌日、学校に向かう途中、私はふと立ち止まった。通学路から少し外れた場所に、小さな公園がある。
そこで、私は思い切ってベンチに座り、深呼吸をした。普段なら、遅刻するのが怖くて通り過ぎるだけの場所だったが、今日は違った。
「たまには、こういう時間もいいかもしれない」
私は空を見上げ、青い空と流れる雲を眺めた。時間がゆっくりと流れているように感じた。この静かなひと時の中で、私は再び自分に問いかけた。
「私は、何をしたいの?」
自分の声が心の奥底に響いた。周りの期待や評価ではなく、自分の本当の気持ちを知りたい。その思いが、胸の中で少しずつ膨らんでいく。
一番に思い出したのは、幼い頃の心桜との思い出。
そして、空いている時間に絵を描くことで自分が気持ちを落ち着かせていたこと。
学校に着くと、胡桃が校門の前で待っていた。胡桃は私の姿を見つけると、にこやかに手を振ってくれた。
「おはよう、華恋さん。今日は少し遅かったね。」
胡桃の言葉に、私は笑顔で答えた。
「ちょっと寄り道してきたの。たまには、そんな日もいいかなって思って。」
胡桃は少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかく笑った。
「なんだか、晴れやかな顔をしているね、なんだか私まで嬉しくなってくるな。」
その言葉に、私は少しだけ心が温かくなった。胡桃が私の変化を感じ取ってくれているような気がした。
放課後、私は心桜に話しかけることにした。彼女とはまだぎくしゃくしているけれど、今のままではいけないと思ったからだ。
「心桜、少し話せる?」
私がそう声をかけると、心桜は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いてくれた。私たちは、校舎裏の静かな場所に移動した。
「何?話って。」
心桜は少し警戒した様子だった。私は深呼吸をしてから、言葉を紡いだ。
「ごめんね、心桜。私、ずっと心桜の気持ちに気づけていなかった。」
その言葉に、心桜は目を見開いた。彼女の瞳には、戸惑いと涙が浮かんでいるように見えた。
「私も、ずっと周りの期待に応えようと必死だった。でも、本当は自分がどうしたいのかなんて、考えたこともなかったんだ。私は心桜と友達でいたい、昔みたいに他愛もないことで笑って、面白いことを共有して……そんなことをずっとしていきたい。」
私はそう言って、心桜の目を見つめた。心桜はしばらく黙っていたが、やがて小さく呟いた。
「……私も、同じだよ。」
その言葉は、私の胸に優しく響いた。二人の間にあった見えない壁が、少しずつ崩れていくのを感じた。
その日の帰り道、私は心が少し軽くなった気がした。自分自身と向き合い、心桜とも少しずつ分かり合えた気がする。この小さな一歩が、私にとっては大きな一歩だった。
最初から自分の気持ちに素直になればいいんだ。
親がどうしてたとか、周りの評価とか、そんなの関係ない。期待に応えるだけじゃなくて、私がどうしたいかが大切なんだ。
「私の人生は、私が決めるんだ。」
私はそう呟きながら、空を見上げた。
これからどうなるのかはわからない。
でも、少しだけ前を向いて歩けるような気がした。
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