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閲覧いただき、ありがとうございます。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

胡桃が転入してから、彼女の存在はクラスの中心となっていた。

特に、彼女の自然な振る舞いや笑顔は、周囲の人々を引きつけてやまない。まるで異世界からのオーラが人々を魅了しているかのようだと、私は感じていた。


ある日の昼休み、私は胡桃と一緒に中庭のベンチに座っていた。柔らかな陽光が私たちを包み、穏やかな風が髪を揺らしている。


「華恋さん、この学校ってとても興味深いね。華恋さんと心桜さんのこと、みんながどう見ているのかがよくわかるよ。」


胡桃がふと呟いた。その言葉に、私は少し驚きながら尋ねた。


「どういうこと?」


胡桃は笑みを浮かべ、手のひらで風を感じるように動かした。


「みんなは華恋さんを完璧な優等生、そして心桜さんを華やかなヒロインとして見ている。だから、二人にはそれぞれの『役割』を期待しているんだよ。まるでこの世界が、ゲームの中の物語のようにね。」


その言葉は、私の胸に鋭く突き刺さった。胡桃が言う「役割」という言葉は、私が感じている重圧そのものだった。


「私も、その期待に応えなきゃいけないのかな……」


私は小さく呟いた。胡桃は少し考え込んだ後、穏やかに首を振った。


「期待に応えることが全てじゃないよ。大事なのは、自分がどうしたいかだと思う。」


彼女の言葉はシンプルだったけれど、その中には深い真理が含まれているように感じた。私は、何か大切なことを教えられている気がした。


その日の放課後、私は久しぶりに心桜と一緒に帰ることになった。

心桜はいつも通り明るく振る舞っていたが、時折見せる表情には、どこか疲れがにじんでいるように見えた。


「心桜、最近どう?」


私は何気なく尋ねた。心桜は一瞬だけ私を見て、少し笑った。


「どうって、別に普通よ。いつも通り、楽しい毎日よ。」


ぽつりぽつりと紡がれた心桜の言葉に、私は少し違和感を覚えた。心桜の笑顔にはどこか作り物のような感じがしたからだ。


「でも、本当に楽しんでいるの?」


私がそう尋ねると、心桜は急に立ち止まり、私を鋭く睨んだ。


「……何が言いたいの、華恋?私が楽しんでいないって思ってるの?」


心桜の声には苛立ちが滲んでいた。その表情を見て、私は何も言えなくなった。ただ、心桜の目には明らかな不安が浮かんでいた。


帰り道の途中、胡桃が待っているのが見えた。胡桃は私たちの姿を見ると、にこやかに手を振った。


「華恋さん、心桜さん。帰り道、一緒にいい?」


その笑顔に、私は少し救われた気がした。しかし、心桜の表情は一瞬曇った。


「胡桃さんって、本当にいつも笑ってるよね。悩みなんてないんじゃない?」


心桜は皮肉っぽく言った。胡桃はその言葉に対して、少しだけ考え込んだ後、静かに答えた。


「悩みがないわけじゃないよ。ただ、この世界に来ることを選んだのは私自身だから。悩むことがあっても、それは私が望んだ結果なんだ。」


胡桃の言葉には、どこか達観したものが感じられた。その答えに、心桜は苛立ちを隠しきれない様子だった。


「結局、自分で選んだってことね。じゃあ、私たちとは違うわ。」


心桜は吐き捨てるように言い、その場を去ろうとした。私は思わず彼女の腕を掴んだ。


「心桜、待って。そんな言い方はしないで。」


だけど、心桜は私の手を振り払った。


「華恋、あんたにはわからないのよ。あんたはいつも、特別扱いされてきたから。」


その言葉に、私は胸が痛んだ。心桜の嫉妬と苛立ちが、まるで自分への責めに聞こえたからだ。


胡桃は静かにその様子を見ていたが、やがて一歩前に出た。


「心桜さん、心桜さん自身が感じているその不満は、きっと誰もが抱えているものだよ。でも、それを他人にぶつけることで楽になるわけじゃない。」


その言葉に、心桜は驚いたように目を見開いた。


「私に説教するつもり?あんたには関係ないでしょ!」


心桜は叫んだが、胡桃は動じることなく、穏やかな表情を浮かべた。


「関係ないかもしれない。でも、華恋さんが大切な人だから、君にも伝えたかったの。」


胡桃の言葉は真っ直ぐで、嘘偽りがないように聞こえた。それが余計に、心桜の苛立ちを煽ったのかもしれない。心桜は何も言わずに、その場から走り去ってしまった。


また、私は何もできず、ただ心桜の背中を見送ることしかできなかった。胡桃は私の隣で、少し寂しそうに笑っている。


「また……やっちゃった。ごめんね、華恋さん。私のせいで。」


「ううん、胡桃さんのせいじゃないよ。」


私は言葉を詰まらせた。この状況が、どうしようもなく苦しかった。


「ただ、こういう時、私は心桜になんて言えばいいのかわからなくて。」


私は小さく呟いた。胡桃はその言葉に優しく頷いてくれた。


「きっと、みんなが自分の居場所を見つけようとしているんだよ。だからこそ、ぶつかり合うんだと思う。」


その言葉に、私は少しだけ救われた気がした。そして、心桜もまた、自分の居場所を見つけたいと願っているのだと感じた。

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