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胡桃が転入してきてから、学校の雰囲気が少しずつ変わり始めていた。心桜の独特な魅力に引き寄せられるように、多くのクラスメートたちが心桜に興味を持ち、親しげに接している。私もその一人だったが、どこか違和感を覚えていた。
「ねえ、華恋ちゃん。花野井さんって不思議だよね。話していると、まるで引き込まれるような感じがするんだ。」
放課後、取り巻きの一人がそんなことを言った。その言葉には、純粋な驚きと憧れが込められている。私はその言葉に小さく頷きながら、ふと思った。
……もしかして、胡桃には隠れた能力があるのかもしれない。
異世界から来た者は、住民にとって特別な魅力を持っているのかもしれない。
母もそうだったのだろうか。
異世界からやって来た母は、この世界で成功を収め、多くの人々に愛されてきた。だが、その裏には偏見や誤解もあったはずだ。
帰り道、私は胡桃と一緒に歩いていた。夕焼けが二人の影を長く伸ばしている。私はふと、胡桃に尋ねた。
「胡桃さん、異世界から来た人って、この世界では特別な存在なの?」
胡桃は少し考え込んでから、ゆっくりと頷いた。
「うん、そうかもしれない。異世界から来た人は、この世界の人たちにはない独特のオーラを持っているって、この世界の大人たちに言われたわ。もしこれが本当であれば、自然とみんなが引き寄せられるのは、オーラのせいかも、なんてね。」
冗談めかして答える胡桃の言葉に、私は少し驚いた。まさか、本当にそんなことがあるとは思っていなかった。
「じゃあ、母もそうだったの?」
私が尋ねると、胡桃は穏やかに笑った。
「そうだと思うよ。華恋さんのお母さんも、この世界では特別な存在だったんでしょう?でも、それが必ずしも幸せに繋がるわけじゃないの」
胡桃の言葉は、私の心に深く突き刺さった。
母が異世界から来たことで、成功と同時に多くの偏見や誤解も抱えていたことを思い出した。
幼い頃、母と一緒に買い物に行った時のこと。
店の中で、何人かの人が母を指さして、ひそひそと話していたのを覚えている。
「異世界から来た人なんだって」
「どうせ普通じゃないんでしょう」
「何か裏があるに決まってる」
その時、母は何も言わずに微笑んでいたが、私はその言葉がとても嫌だった。どうして母がこんな目に遭わなければならないのか、理解できなかった。
「胡桃さん、異世界から来ることって、リスクが大きいんだね。」
私は静かに呟いた。胡桃は私の言葉を聞いて、少し寂しそうな表情を浮かべた。
「そうだよ。異世界に来ることは、まるで賭けみたいなものだと思う。成功するか、失敗するかはわからないし、何より自分の存在が否定されることもある。」
二人で歩きながら、私は胡桃に尋ねた。
「どうして、そんなリスクを負ってまで、ここに来たの?」
胡桃は一瞬だけ視線を落とし、やがて私の方を見つめた。その瞳には、深い決意が宿っているように見えた。
「言ったじゃない、華恋さんが、私を呼んだから。呼ばれて、そして呼ばれた者が気持ちに答えれば、この世界に来れるんだと思う。私も、ここに来ることで何かを変えたかったんだよ。異世界に行くことは、普通の人にはできない特別なこと。だからこそ、やってみたかったの。」
その言葉には、胡桃の強い意志が感じられた。私はただ、胡桃の言葉に耳を傾けることしかできなかった。
家に帰ると、母がキッチンで夕食の準備をしていた。見慣れているはずの母の背中を見ていると、ふと涙がこぼれそうになる。今までこんなことはなかったのに。母はどれほどの偏見や困難に耐えてきたのだろう。
「おかえり、華恋。今日はどうだった?」
母の優しい声に、私は少し躊躇いながらも答えた。
「うん、今日は……色々と考えることがあった」
その言葉に、母は驚いたように私を見たが、すぐに笑顔に戻った。いつも同じ言葉しか私も返していなかったから、驚いたのだろう。
「そう。考えることがあるのは良いことよ。何かあれば、いつでも話してね」
その言葉に、私は何も言えずに頷いた。
夜、私はベッドに横たわりながら、胡桃の言葉を反芻していた。「異世界に来ることは賭けみたいなもの」。それでも、胡桃はここに来ることを選び、私に会いたかったと言ってくれた。
母もまた、異世界から来た時に同じような決意をしていたのだろうか。母は、この世界で愛される存在になり、成功を収めた。しかし、その裏にはたくさんのリスクと偏見があったのだ。
「母さんも、胡桃も、強いんだな……」
私は小さく呟き、目を閉じた。その夜、初めて母の苦悩を少しだけ理解できた気がした。
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