11
閲覧いただきまして、ありがとうございます。
最後までお付き合いくだされば幸いです。
胡桃が転入してから数日が経った。最初はぎこちなかった彼女も、今では少しずつクラスメートたちと打ち解け始めているようだ。
胡桃の自然体な振る舞いとミステリアスな雰囲気が、みんなの興味を引きつけている。
「花野井さんって、なんか不思議な感じだよね。普通の転入生とは違うっていうか……」
昼休み、教室の片隅で誰かがそんなことを呟いた。その声に、私は思わず振り返る。胡桃は、クラスメートたちに囲まれ、楽しそうに笑っている。胡桃は特に何か特別なことをしているわけではない。それなのに、みんなの視線は自然と胡桃に集まっている。
心桜はその様子を、少し離れた場所からじっと見つめていた。その目には、明らかに嫉妬の色が浮かんでいる。
「どうして、みんなあんなに胡桃さんに夢中なの？彼女は転入してきたばかりなのに。」
私が近づくと、心桜は苛立ちを隠すことなく言い放った。私は心桜の言葉に少し驚いたが、すぐに冷静を装って答えた。
「胡桃さんには、何か特別な魅力があるんだと思う。彼女の話し方とか、笑顔とか……」
「特別？そんなのただの幻想よ。」
心桜は吐き捨てるように言い、私から目をそらした。心桜の苛立ちは、まるで鋭いナイフのように感じられた。
放課後、私は胡桃と一緒に帰ることになった。いつもの帰り道に、胡桃が一緒にいるだけで、景色が少し違って見える。
「華恋さん、ここってすごく静かで落ち着くね。」
胡桃は周りの風景を眺めながら、穏やかな笑みを浮かべた。その姿は、まるで異世界の住人そのもののようだった。
「胡桃さん、学校にはもう慣れた？」
私は少し気になって尋ねた。胡桃は軽く頷きながら、私の方に顔を向けた。
「うん、みんな親切にしてくれるし、とても楽しいよ。でも……」
胡桃は言葉を切り、少し意味ありげな笑みを浮かべた。
「でも、やっぱりここは私が知っている世界とは違うね。すべてが少しずつ、ズレている感じがするの。」
その言葉に、私は一瞬戸惑った。胡桃が言う「ズレ」とは何を指しているのだろうか。異世界から来た彼女には、この世界がどう映っているのだろう。
「ズレてるって、どういうこと？」
私は恐る恐る尋ねた。胡桃は少し考え込んでから、ふわりと笑った。
「うーん、言葉にするのは難しいんだけど……たとえば、みんなが信じている『当たり前』が、私には不思議に思えることが多いの。」
その時、誰かが来る気配がした。
振り向くと、そこには心桜がいた。
心桜の表情は険しく、その目には明らかな怒りが宿っていた。
「ねえ、胡桃さん。あんた、何なの？どうしてそんなに人気なの？」
心桜の言葉には、嫉妬と苛立ちが入り混じっていた嫌味だった。私は慌てて間に入ろうとしたが、胡桃は冷静に心桜を見つめ返していた。
「心桜さん、別に私は人気になりたくてそうしているわけじゃないよ。ただ、ここでの生活を楽しんでいるだけ。」
胡桃のその言葉に、心桜はさらに苛立ちを露わにした。
「楽しんでる？そんなの嘘よ。あんたは、みんなに媚びているだけじゃない！」
心桜の声が響き渡る。私は思わず心桜の腕を掴んだ。
「心桜、やめて。そんなこと言わないで」
だけど、心桜は私の手を振り払った。
「華恋、あんたにはわからないのよ。あんたはいつも、特別扱いされてきたんだから。」
その言葉に、私は胸が痛んだ。心桜の嫉妬と苛立ちが、まるで自分への責めに聞こえたからだ。
胡桃は静かにその場を見つめていたが、やがて一歩前に出た。
「心桜さん、あなたがどう思っているのかはわからない。でも、私がここに来たのは、ただ華恋さんに会いたかったからだよ。」
その言葉に、心桜は驚いたように目を見開いた。
「華恋に……会いたかった？」
「うん。華恋さんには、私の知っている誰かと同じ温かさを感じたから。」
胡桃の言葉は真っ直ぐで、嘘偽りがないように聞こえた。それが余計に、心桜の苛立ちを煽ったのかもしれない。
心桜は何も言わず、ただその場から走り去ってしまった。
私は何もできずに、ただ心桜の背中を見送ることしかできなかった。胡桃は私の隣で、少し寂しそうに笑っている。
「ごめんね、華恋さん。私のせいで。」
「ううん、胡桃さんのせいじゃないよ。ただ……」
私は言葉を詰まらせた。この状況が、どうしようもなく苦しかった。
「ただ、どうしてこうなっちゃったんだろうね。」
私は小さく呟いた。胡桃はその言葉に、優しく寄り添ってくれた。
よろしければご評価、ご感想いただけますと励みになります。最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
