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閲覧いただきまして、ありがとうございます。

最後までお付き合いいただけますと幸いです。

いつも通りの朝。教室に入ると、クラスメートたちがざわざわと騒いでいるのがわかった。何か特別な出来事があった時の、独特の雰囲気だ。


「華恋、聞いた?今日、新しい転入生が来るんだって!」


取り巻きの一人が興奮した様子で話しかけてきた。私は少し驚きながらも、軽く頷く。


「転入生?この時期に?」


受験を控えた今のタイミングで転入生が来るのは、珍しいことだ。普通なら、この時期に転校してくる生徒などいないはず。


「そうなのよ。しかも、すごく可愛いらしいって噂よ。」


取り巻きたちは楽しそうに話し続けている。

私は少し興味を持ちながらも、あまり関心を示さずに席に着いた。


しばらくすると、担任の先生が教室に入ってきた。

そして、その後ろには一人の少女が立っていた。


「みなさん、紹介します。今日からこのクラスに転入してきた、花野井胡桃はなのいくるみさんです。」


先生の声に、教室中が静まり返った。

胡桃は一歩前に出て、少し緊張した様子で頭を下げた。


「花野井胡桃です。よろしくお願いします。」


彼女の声は少し震えていたが、その笑顔はどこか親しみやすさを感じさせた。

黒髪のボブヘアに、黒い瞳。

服装はシンプルで、少しだけ異国の雰囲気が漂っている。


私は彼女をじっと見つめた。どこか普通の転入生とは違う、特別なオーラを感じたからだ。


授業が始まり、胡桃は私の隣の席に座ることになった。私は少し緊張しながらも、彼女に声をかけた。


「こんにちは。羽月華恋です。よろしくね、胡桃さん。」


胡桃は私に微笑み返し、軽く頷いた。


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


胡桃の笑顔は柔らかく、どこか温かみがあった。その笑顔を見ていると、私の胸の中にあった重さが少しだけ軽くなるような気がした。


休み時間になると、クラスメートたちが一斉に胡桃の周りに集まってきた。みんな、興味津々で彼女に質問を投げかけている。


「花野井さん、どこから来たの?」


「前の学校はどこだったの?」


胡桃は少し困ったように笑いながら、質問に答えていた。


「えっと……ちょっと遠くから来たの。詳しくは言えないんだけど、ごめんね。」


その曖昧な答えに、クラスメートたちはさらに興味をそそられている様子だった。でも、私は何となく気づいた。胡桃は何かを隠している。それが何なのかはわからないけれど、普通の転入生ではないことは確かだ。


放課後、私は胡桃と二人で話す機会を得た。中庭のベンチに座り、穏やかな風が吹く中で、私は彼女に尋ねた。


「胡桃さん、本当はどこから来たの?」


私の質問に、胡桃は少し戸惑った表情を見せた。でも、すぐに柔らかい笑顔に戻った。


「華恋さんには隠せないね。実は、私……異世界から来たの。」


その言葉に、私は目を見開いた。冗談かと思ったけれど、胡桃の表情は真剣だった。


「異世界……?」


「うん。多分ね、華恋さんのお母さんがかつて暮らしていた世界と、同じ場所から来たの。」


「なんで……母のこと……」


「今日一日ずっとクラスメイトのみんなから聞いたよ。華恋さんのお母様の武勇伝。」


胡桃の言葉は、私の中に嵐のような衝撃を巻き起こした。母が話していた『ゲームの世界』。

それが現実に存在していたというのか。


「どうして、ここに来たの?」


私は恐る恐る尋ねた。胡桃は静かに目を伏せ、少し考え込んだ後、口を開いた。


「華恋さんが、私を呼んだんだと思う。あなたが、この世界のルールを試そうとしたから。」


その言葉に、私は思い当たる節があった。

昨日、私は、母のノートを読み、異世界召喚の方法を冗談半分で試してみた時のことだ。

母のいうことが本当なら母の世界から誰か連れてきて……と。

でも、まさかそれが本当に成功してしまったとは思わなかった。


「冗談だったのに……」


私は呆然と呟いた。胡桃は微笑みながら私の手を握った。その手は冷たく、でもどこか安心感があった。


「でも、私はここに来られて嬉しいよ。あなたに会えたから。異世界に来れるなんて……なかなかない経験でしょう?私を拾ってくださったのは、本当に親切なご老人夫婦で、とても優しいし。前の世界に強い未練もなかったしね。」


妖艶に笑う胡桃は異世界からきたミステリアスさも相まって、この世のものとは思えなかった。その言葉に、私は何も返せなかった。ただ、胡桃の瞳を見つめるだけだった。


その日の夜、私はベッドに横たわりながら、胡桃のことを考えていた。異世界から来た転入生。彼女の登場で、私の日常が大きく変わり始める予感がした。


でも、それが良い変化なのか、悪い変化なのかはまだわからない。ただ一つ言えるのは、これまでの私の退屈な日常に、新たな風が吹き込んだということだ。


「胡桃……一体、貴女は何者なんだろう。」


私は小さく呟き、目を閉じた。その瞬間、微かに感じた胸の高鳴りが、私に新しい物語の始まりを告げているようだった。

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