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放課後の夕方、学校を出た私は、蓮と一緒に歩いていた。
二人で並んで歩くことは珍しくはないけれど、今日の蓮はいつもと少し違う雰囲気だった。
普段の明るくて爽やかな彼ではなく、どこか思い詰めた表情をしている。
「蓮、何かあったの?」
私は少し心配になって、蓮に問いかけた。
蓮は一瞬、私の方を見てから、ふと遠くを見るように目をそらした。
「いや、大したことじゃない。ただ……最近、考えることが多くてさ。」
その言葉には、どこか重さがあった。
蓮がこんな風に弱音を吐くのは珍しい。
私は少し戸惑いながらも、蓮の話を聞くことにした。
二人で少し歩いた後、蓮が立ち止まった。
私も足を止め、蓮の顔をじっと見つめた。
蓮は小さくため息をつき、口を開いた。
「華恋、俺のこと、どう思ってる?」
突然の問いに、私は驚いて目を見開いた。
蓮の意図がわからず、何を答えればいいのかわからず、しばらく黙ってしまった。
「どうって……。蓮は学年トップの成績で、運動もできて、誰にでも優しい。みんなから尊敬されてるし、まさに『王子様』みたいだと思うよ。」
私がそう言うと、蓮は苦笑いを浮かべた。
その笑顔には、普段のような輝きはなく、どこか寂しげだった。
「それが、俺の悩みなんだよ。みんなが俺を『王子様』って言うけど、俺はそんな完璧な人間じゃない。」
蓮の言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるようだった。
蓮の瞳には、影が宿っているように見えた。
私たちは近くのカフェに入った。
夕暮れの光が店内に差し込み、温かい雰囲気が広がっている。
私たちは窓際の席に座り、蓮はカフェラテを、私はホットチョコレートを注文した。
「実はさ、俺の家って複雑なんだ。」
蓮はカップを手に持ちながら、少しずつ話し始めた。私は黙って耳を傾ける。
「幼い頃、両親が離婚したんだ。母さんは家を出て、俺と姉だけが父さんと暮らしてる。父さんは厳しい人で、俺にはいつも期待をかけてくるんだ。勉強も運動も、完璧でなきゃいけないって。」
蓮の声は淡々としていたが、その中には深い悲しみが込められているのを感じた。
「それで俺は、周りの期待に応えようと必死だった。勉強も、スポーツも、みんなの前では完璧でいなきゃって。でも、本当は疲れてるんだ。」
蓮はそう言って、小さく笑った。
その笑顔は、今まで見たことのない、儚いものだった。
「蓮……」
私は何も言えず、ただ蓮の顔を見つめた。
蓮もまた、私と同じように、他人の期待に押しつぶされそうになっているんだと気づいた。
「華恋、君も似たような感じだよね。特別扱いされて、周りからの期待が重くて。」
蓮がそう言った時、私は少しだけ涙が浮かびそうになった。
蓮は、私が感じている重圧を理解してくれている。それが嬉しくて、でも同時に悲しかった。
「そうかもしれないね。でも、私たちはただの普通の人間だよ。特別なんかじゃない。」
私はそう言って、蓮の目を見た。
彼もじっと私を見つめ返してくる。
その瞳には、共感と、そして少しの寂しさが滲んでいた。
カフェを出た後、私たちは再び歩き始めた。
夕日が沈みかけていて、空はオレンジ色に染まっている。その光が、蓮の横顔を美しく照らしていた。
「華恋、ありがとう。君と話して、少しだけ楽になった気がする。」
蓮はそう言って、私の手を取った。その手は温かく、優しかった。
「こちらこそ。蓮が話してくれて嬉しかった。」
私はそう答えて、蓮の手を握り返した。その瞬間、私たちの間にあった見えない壁が少しだけ崩れた気がした。
家に帰ると、父がリビングに座って新聞を読んでいた。私が入ると、父は顔を上げて笑顔を見せた。
「おかえり、華恋。今日は遅かったね。」
「うん、友達と少し話してたの。」
私はそう言って、ソファに座った。
父はいつも通り優しいけれど、その優しさが今は少しだけ重く感じられる。
「何かあったのか?」
父がそう尋ねてきた。私は一瞬迷ったが、正直に言うことにした。
「ううん、何も。ただ、少し疲れただけ。」
外で少し特別なことがあっても、家では、毎日毎日変わらない景色、変わらない会話が続く。
もうこの家にはうんざりだ。
家族と会話するたびに、胸の中に重さが残った。
でも、蓮と話せたことで、少しだけ光が見えた気がする。
望みはあるはずだ。気持ちの折り合いもつけれるはず。
私は、そう自分に言い聞かせながら、母が記したノートを開いた。
母の言っていることが本当なのか、今なら試せる、そんな気がしたのだ。
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