01 あらすじ
見た目ははかなげでか弱い美少女。
学校になかなか登校しないのは引きこもりのせいだと言われている。
こよなく愛するのは恋愛小説と物語の中に登場する二次元イケメン。
人見知りが激しく大人しい性格。
だが、モード変更のスイッチが入ると豹変する。
あざとさも反撃力も極悪レベル。
メロディ・キュピエイルは極悪美少女と呼ばれていた。
音楽を愛する両親は一人娘にメロディと名付けた。
メロディは幼少時からその才能を開花させ、国際的なコンクールにおける子供の部で初出場初優勝という鮮烈なデビューを飾った。
誰もが認めるほどの可愛らしさに加え、侯爵家の一人娘。将来は女侯爵だ。
多くの人々の注目を集めるのは必至だった。
当然の結果、メロディの評判は急上昇。婿養子の希望者も殺到。
さすがに縁談は早すぎると両親は思ったが、婿探しに苦労はしないだろうと喜んだ。
段々と熱狂的なファンがメロディの身辺を詳細に調査するようになり、ストーカーまがいの行為をするようになった。
ファンが夢中になっている相手のことを知りたがるのは普通。情報収集をするのも普通。贈り物をしたり、何とか言葉をかけて欲しい、せめて握手でもと考えるのも普通。
メロディが子供だからこそ、普通に可愛がっているだけという感覚に変換された。
だが、メロディは普通だと思えなかった。
違和感が嫌悪感になり、恐怖心へと変わった。
触られたくない。近寄って欲しくない。怖い。知らない人は。特に、男性は。
メロディは外出するのを嫌がるようになり、学校さえも行きたがらなくなった。
女性の友人を作ればいいだけだと両親は思ったが、国外で行われるコンクールに出場するためには学校を長期間休まなければならない。
国内での知名度は意図的に抑えているせいで低いが、国外では知る人ぞ知る天才ピアニストであるメロディにとって、ごく普通の友人を作るのは難しいことだった。
そんなメロディに転機が訪れたのは王都の私立高校に入学した時。
ラブ・ウェストランドと知り合い、友人になった。
ラブは様々な意味で稀有かつ貴重な友人だったが、王太子に見初められた女性リーナのブライダルシャワーに誘われたことが、メロディの人生をより大きく変えた。
リーナは王太子と結婚するにあたり、ラブはブライズメイド、メロディはブライズメイドのサポートメンバーに選ばれた。
ブライズメイドの内定者に問題が起きた際、新しいブライズメイドを決めるためのじゃんけんにメロディは速攻で一人負けした。
リーナのことが大好きなメロディは号泣。
そんなメロディを見て、ブライズメイドのメンバーはメロディへの好感度を上げた。
王太子とリーナの結婚式が無事終了。
メロディはブライズメイドのサポート役をしっかりと務めた。
季節は冬。
メロディは飛び級で大学受験をするつもりだったが、両親が突然社交デビューを決めた。
貴族の女性の社交デビューは十六歳から二十代前半程度。
結婚適齢期と同じなのは、社交デビューすることによって結婚相手を探すのが古き時代からの伝統であり慣習だから。
現在は女性の進学率が高くなったため、結婚自体は学歴を確定させた卒業後が多く、恋人や婚約者を探す意味合いが強まった。
一人娘のメロディは婿養子を貰う方だけに、結婚相手を決める判断は慎重でなければならない。
社交デビューは遅くても問題ない。むしろ、男性恐怖症なだけにデビューしたくないとメロディは思っていた。
だが、言い出したら止まらないのがメロディの両親でもある。
エスコートは父親がすればいいが、デビューダンスは独身者でなければ踊れない。
メロディは一緒にダンスを踊れそうな男性を探すよう両親に言われた。
だが、男性恐怖症のメロディに男性の友人は一人もいない。
途方にくれたメロディはリーナのブライズメイドを務めたベルことイレビオール伯爵令嬢ベルーガ・シャルゴットに相談することにした。
ベルは兄のヘンデルに聞いてみるとメロディに伝えた。
ヘンデル・シャルゴットは王太子の親友で側近を務めるエリート官僚。年齢は三十歳。
現在は十七歳、次の誕生日で十八歳になるメロディにとって、ヘンデルは年上の方。
しかし、ヘンデルには妹二人以外にも多くの女性達をエスコートし、ダンスの相手を務めて来た経験がある。
貴族の女性にとって正式なデビューもデビューダンスも一生を左右するといっては過言ではない。
絶対に失敗したくないからこそ、高位で独身のデビュー関連経験者の確保は奪い合いになるのが常だった。
メロディはヘンデルがダンス相手だけでなく条件付きでエスコート役まで務めてくれることに歓喜した。
親友のラブは年齢が離れていることを気にしたが、メロディは最高に安心安全な相手だと主張した。
ヘンデルの手配でメロディのデビューはエルグラード最高のデビュタントと言われる純白の舞踏会に決まった。
しかも、デビューダンスは勝者の中の勝者しか確保できないファーストダンスの組。
メロディにとっては奇跡としかいいようがないほどのお膳立てが揃った。
頑張らないと……お芋のために!
メロディは赤い芋が大好物。
最高品質の赤い芋はヘンデルが領主を務めるヴィルスラウン伯爵領で作られている。
エスコート役を務めて貰う際、さりげなくヘンデルに最高品質の芋をねだろうとメロディは考えていた。
友人のラブ曰く、お芋強奪計画だ。
かくして、メロディはヘンデルのエスコートで純白の舞踏会に向かった。
純白の舞踏会は完璧だった。
デビューをする女性が夢に描く一日そのもの。
すべて、ヘンデルのおかげだ。
大好物の赤い芋も沢山手に入れた。
心の中までホクホクのメロディ。
ところが、それだけでは終わらなかった。
愛の日、休みだったヘンデルは妹のカミーラとベルの三人からということで受験を応援するための花束を届けに来た。
そして、王立大学音楽部音楽科ピアノコースを首席合格できたらご褒美を出すという約束をした。
何が貰えるのかはわからないが、メロディのやる気は急上昇。
絶対に首席合格しようと決意した。
メロディは飛び級受験で首席合格を果たした。
「やったわ! ご褒美よ!」
ヘンデルがくれたのは愛らしい子犬のぬいぐるみ。
マーキス・カットのルビーがあしらわれたペンダントが首輪の代わりにつけられていた。
マーキス・カットのルビーをメロディは大好物のお芋だと思った。
だが、親友のラブは赤い髪でいずれ侯爵になるヘンデル自身のことをあらわしているのだと教えてくれた。
メロディの中でヘンデルへの想いが溢れる。
叫ばずにはいられなかった。
「ヘンデル様と結婚するわ!」
メロディはヘンデルに片想いしていた。
大学に入学した後、ヘンデルのことばかり考えている自分に気づき、これは恋だと思ったのだ。
しかし、親友のラブは手厳しかった。
メロディはまだまだお子様。
小説や情報だけで、現実としての恋愛をわかっていない。
ペンダントは男性恐怖症のメロディが安心して大学生活を送れるように応援するためのお守りというだけ。
王立大学でしっかり勉強するよう助言した。
「そうね。頑張るわ!」
メロディは力強く頷いた。
「四つの領地を管理できる女侯爵になるわ!」
自分の領地が一つ。ヘンデルの持つ領地が三つ。
王太子兼ヴェリオール大公妃付きの側近として忙しいヘンデルの役に立つ妻になりたいとメロディは思った。
「完全に狙いを定めたようね。極悪美少女の顔つきになっているわよ?」
「挑むからには勝たないと。コンクールと一緒よ。ライバルが多くても、気持ちだけは負けないわ。全力を尽くすのみよ!」
メロディは初恋を叶えるため、モード変更のスイッチを入れた。
「後宮は有料です!」におけるメロディの小話。
受験とデビューの話 1001
純白の舞踏会 1047~1055
愛の日 1073
ご褒美 1133~1139
ご参考までに。