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乙女ゲーム始めます!絶対に攻略してやる!!〜溺愛ルートがあるなんて知らなかった〜

作者:

Twitterを使ったアンケートで短編希望が多く、かつ、時間があったので書きました。

夏季休暇、お盆休みの暇つぶしに読んでいただけると幸いです(*´꒳`*)

自分に()()の記憶があり、この世界が『夢乙女と五人の貴公子〜恋する乙女の夢物語〜』という乙女ゲームだと思い出した。


『夢乙女と五人の貴公子〜恋する乙女の夢物語〜』は『夢オト』と呼ばれ登場する攻略対象の五人が超絶イケメン⭐︎なのに加えて、声優のVoiceが良い!!!悶絶もので、もちろん、前世の私は大ハマり!!


しかもしかも!!


五人の攻略対象は王太子に宰相の息子、騎士団長の息子に魔術師長の息子、王太子の婚約者の義弟で次期公爵だ。


お金持ちだから誰を選んでも安定した将来が約束される。


乙女ゲームの定番設定だが、他のゲームと違うのは何と言っても有名で人気のある声優を起用したところと、絵師様の力ッ!!

元は小説が原作の乙女ゲームというのも他のゲームとは違っていて、原作も大人気。


原作者が惚れ込んだ貴公子たちの姿とスペシャルVoice!大人気間違いなし、で、発売と同時にグッズも大売れ。

もちろん前世の私も買った。全種類集めた。オタクだ。自分がヒロインになりきった。

コスプレだってした。大好きな王太子との撮影だってしたのだ。


夢オトは、幼い頃にヒロインが市井で出逢った男性と再会する、それがゲームの舞台となる学園だ。


最初は気づかなかった二人は、何度か言葉を交わしていくことで幼い頃の出逢いを思い出して距離を縮め.....恋に落ちる。


まさしく夢のような展開


夢オトはオープニングで選択した『夢』を元にしてルートをが変わる。

どの『夢』を選択するかで学園生活やエンディングが変わるのだ。これ、前世の情報を集める......なんて言ったっけ?何か....直接お話ししなくても文字で情報を集められるやつ、ここの記憶は曖昧だけど、前世の社交場みたいなところでは500パターンは用意されているって見たことある。


500パターンだよ?

攻略対象一人につき500パターンなんて凄いよね、毎回、違う学園生活にエンディングが楽しめるって話題になってた。


躍起になって全制覇を宣言していた人も、かなり時間を費やして一年プレイして一人につき200パターン制覇だって。

学園生活での選択肢もエンディングに影響があるみたいで、同じエンディングを迎えることもあるらしい。違う選択肢を選んでも、だよ?鬼畜ゲーかな?


コンセプトは『永遠の夢の世界を』らしいけど夢を見させすぎじゃね?


この夢オト、前世の私は85パターンまでは完全制覇してる。パターンごと、選択肢ごとに何がどうなるのか全て把握済みで、85パターンを記憶している。


大好きな王太子、アーロン・ディアモン殿下とのパターンも記憶済み、前世の記憶と共に思い出しているしノートにも書いて忘れないようにしている。


この事前情報があれば『夢オト』の世界で無双できる、そう、無双できちゃうのよ私。だってヒロインのリリス・ファミニーだもの。


「ふふふ......コレで貧乏貴族生活から抜け出せるわ」


自宅となる邸の自室の寝台で大の字になりながら天蓋を見つめる。これから先のことを考えると笑ってしまうわ。


だって、だってだよ、貴族といえど爵位は男爵で王都住まいだからお金がかかる、領地は小さくて収入は少ない。


元は平民として暮らしていた私は母親が病死して孤児院で生活していたところを父親だと名乗る男爵に引き取られたんだ。


なんでも母親が男爵家で下働きをしていた頃にお手つきした、自分の初めての相手だったらしい。キモチワルイ。

で、母親は私ができちゃって男爵家に知られる前に下働きをやめて市井の食堂で働き始めた。


貴族って面倒よね、身分の差が〜とか、そんなんで結婚できないなんて馬鹿みたい。


で、孤児院から引き取られたのはいいけど、この家には正妻がいて息子もいる、要は他の貴族に嫁がせて金にするために私がいるわけ。だから、うんと金持ちのところへ嫁がないと嫌がらせをする正妻をギャフンと言わせることができない。


男爵子爵はお断り!

最低でも伯爵家!できれば侯爵家がいいわね。お金ある古くからの家柄が理想だわ。そうなれば二度と、男爵家と関わることがないもの。社交界では私の方が身分的には上になるから男爵家の正妻なんて視界に入ることもないわ。


嫌々していたマナーや社交の勉強は、記憶を取り戻してから真面目に受けるようになったわ。元日本人の私からすれば低レベル。そもそもの教養が違うのよね。()()が。


お勉強も簡単。入学前に飛び級できるくらいの成績なんじゃないかしら?と思うくらいだもの。家庭教師も驚いていたわ、先週までとは見違えるようだって。


当たり前よ、日本の教育レベルを舐めんじゃないわよ。この世界のレベルが低いのよ。

王太子妃を目指しても問題なさそうね、だってドレスやアクセサリーに、お茶に噂話、他の女を蹴落とすことを考えればいいんでしょう?この世界のレベルもたかが知れてるわ。

正妻だって少ないお金でそういったことしかしてないもの。


ある程度は基本マナーがあってこそだと思うの。天然を装うにもね。何も知らないのはただのお馬鹿さんだもの。知っているけど知らないことにする、そうすることで相手は満足するし誘導もしやすいわ。女は可愛げがあってこそよね。


前世の私はクッソ真面目な根暗女だった。

唯一の趣味がオタ活。いいじゃんオタ活、経済回してたんだよ。


でもさ、人間観察していて思ったのは馬鹿なふりしている可愛げある女がモテるのよ、庇護欲ってやつ?

あれって生まれ持った見た目も必要だけど最初からキャラ作っていかないとダメなのよ。

二次元美少女だってキャラ設定あるじゃん?アレと同じ。設定してかなきゃ選んでもらうための舞台にすら上がれない。


私は舞台に上がるよ、学園という名の戦場で最高の男に選ばれてみせる。


親同士が決めた婚約者がいても選ばれたもんの勝ち。愛し合っている者同士を引き離すことなんてできるはずないわ。


憧れの夢オトでヒロインの私のためにある世界だもの、きっと上手くいくわ。世界は私のためにあるのだもの。


入学当日、学園の門の前で腕を組んで仁王立ちをしながら底から湧き上がる感情を抑えていたら、突然、後に馬車が止まったの。

この学園に通う女達を馬鹿にしたくて堪らなくて、心の底から湧き上がる感情を抑えるのに必死で、声をかけられるまで馬車が止まったことに気付かなかったわ。


「そこのご令嬢、道を開けるように」


馬車から声をかけてきた侍従のような男に促されて道の端に移動する。

学園の生徒達は私を見た後にヒソヒソとお喋りしている。

目を合わそうとしたら背けられた、失礼ね。


私が道を開けると馬車は玄関前まで移動して横付け。

どうやら王太子の婚約者であるアイリス・フローレン公爵令嬢が乗っていたみたい。


馬車から降りたアイリス・フローレン公爵令嬢、私に嫌がらせをする悪役令嬢の姿を見て驚いた。


夢オトの悪役令嬢と同じ色を持っているのに雰囲気が違うんだもの。


ミルクティーブロンドに翡翠の瞳、腰まである髪はストレート、王太子の瞳の色と同じ青い色の髪飾りをつけている。


馬車から降り立つ際の所作、小さな動き全てが完璧だ。私の目指す淑女の姿、理想系。


夢オトでは縦ロールにした髪に青い色の派手な髪飾りをつけていた。お世辞にも所作は今ほどの完璧さはなく、動きに傲慢さがあった。まぁ、今思えば夢オトの悪役令嬢の所作は高位貴族の令嬢のものだったけど、物足りなさはあったのに、今は完璧お姫様だ。


そういえば夢オトでのヒロインはピンクで背中までの髪、フワフワしたくせっ毛だった。

今の私は......ピンクでストレートの腰まである髪に小柄だけど栄養をとったおかげか出るとこでてるスタイル。

夢オトでは、ここまでボンッキュッボンではなかったはず。


少しでも選ばれるためにしていたことで当初のヒロインのスタイルとは変わってしまったから悪役令嬢にも歪みが出たのかしら?


もしくは今の私は201パターン目以降の姿?

あれ?私の知っている85パターンに詳細なヒロインの見た目はなかったような......


考えながらブツブツと呟いていると周りを見ていなかった!すでに他の生徒がいない!

私は慌ててホールへと向かう。確か裏から回ればコッソリ入れたはずだわ。


そう、ホールの裏手へ行く道すがら、何故か王太子と突然の出会いイベントがあるのよ。

期待しながらホールの裏手へと回ると......あれ?誰もいない???なんで??

ポカーンとしながらキョロキョロと周りを見渡すけれど攻略対象がいない。 


85パターンでは必ず王太子との出逢いイベントをしていたのに。

ため息を吐き、最初の出逢いイベントでフラグを立てられなかったことを残念に思いながらも放課後の図書室に期待を込めて泣く泣くホールへと向かう。


「王太子とのファーストコンタクト、逃したことなかったのに」


出逢いイベントでは裏手で道に迷っていたヒロインを不審に思い王太子が声をかける。学園の新入生であることを告げ、ヒロインに昔、市井で出逢った少女の面影を感じ取り笑顔になる王太子の姿を見て頬を赤らめるリリス。


談笑した後に二人でコッソリと何事もなかったようにホールへと入り、一番後ろの席に離れて座りチラリと視線を王太子へと向けて目が合う、そんなキュンイベントだったのだ。


「くそぅ、なんでアーロンがいないんだよッ」


イベントはこなせなかったがホールの一番後ろの席、夢オトのゲーム通りの場所に座って入学式に参加する。

チラリと横に視線を向けるが王太子はいない。


入学式では在校生と新入生が挨拶をする。もちろん王太子もだ。一番後ろの席に居たことを驚かれて注目を浴びながら壇上へと移動する。リリスは改めて王太子である彼を見るも、先ほどとは違う作られた笑顔に違和感を持つ、そこから次のイベントへと繋がるのだ。


それなのに王太子は中央付近の席にいるではないか。隣には婚約者である公爵令嬢の姿。手の甲にキスなんかしてないでサッサと挨拶済ませろよ。


「なんだ、王太子ルートに入るの失敗しただけか。あの光景は85パターンにはなかった。王太子との婚約者の甘々展開なんて聞いたことない」


私の知らない残り415パターンにはあるのかもしれないけど。そんなの無いのと同じこと!

王太子ルートなら入学式前にイベントあるはずだもの。前世の社交場の情報の通りだとね。


.

.

.

.

.

.


最初のイベントをこなせなかったことが原因なのか、放課後の図書室イベント、放課後の教室イベントに音楽室イベント、食堂イベントなどなど、全く起こらない!!

フラグを立てるための行動は完璧にしているのに全く起こらない。


待ち伏せしても先回りした侍従に校舎に戻るように言われたり道の端に避けるようにと言われたり、全く攻略対象の五人と接点が持てない。


夢オトと違うのが高位貴族と下位貴族でクラス分けされていること。

試験的に三年前からクラス分けされているらしい。なんで?みんなで一緒に学ぼうよー!


どうにか王太子含めた攻略対象五人の居場所を突き止めて、下位貴族の私が居ても不審に思われない場所で偶然を装って強制イベントやってみたけど効果なし。


声をかけられることもなかった。

どうしてか学園なのに侍従がいて、そいつに声をかけられるし。


悪役令嬢にだって出逢えない。

王太子とのイベントもないからイチャイチャできないしで悪役令嬢としての出番なし。私に嫌がらせの一つくらいしてくれてもいいのに全くなし。


先日は思い切って声かけたわよ。食堂で。


「あ、あの!私、リリスと申します」


ドキドキしている様子を醸し出しつつ、ふわっと笑顔でご挨拶。ぎこちないカーテーシーをしたら悪役令嬢はキョトン顔。

悪役令嬢が首を傾げていたら付いている侍女が耳打ちしていたわ。失礼ね!


「どちらのリリスさんかしら?」


ニッコリと微笑んだ悪役令嬢に家名を名乗れと促された。

やったね!!コレで知り合いになれたわ。


「ファミニー男爵家のリリスと申します」


制服の裾をちょこんと可愛らしく持って礼をしたわ。私の可愛らしさは完璧ね!


「ファミニー男爵家の御息女ね、私に何の用かしら」


微笑んだままの悪役令嬢。

アレ?ゲームだともう少し圧があったはずだけど?


「同じ学園で学んでいますので、ぜひアイリス様のお友達になりたくて」


周りが騒ついた。

私が名前呼びしたことで周りが驚いたみたい。そりゃぁ、筆頭公爵家の令嬢を突然、名前呼びしたら驚くわよね。


それでも私は無邪気を装って悪役令嬢の言葉を待つ。

無知に対してなら怒りの感情を出すことは出来ないでしょう?


「ファミニー男爵令嬢、貴方、アイリス様に失礼よ」


悪役令嬢の隣にいた友人、()()()()に叱責される。そうそうコレコレ!待ってましたぁあああああ!!

ココから始まるのね、私の夢オト⭐︎


「エミリー様、私は気にしておりませんわ。ファミニー男爵令嬢、学友として卒業まで勉学に励みましょうね」


何故だろう、悪役令嬢は取り巻きのエミリーを使って私への嫌味は言わずに立ち去った。

学友ってことは友達よね?

コレでイベント起こるといいんだけど。


悪役令嬢に言外に『卒業までにマナーを学び直せ』と指摘されたことには気づいていなかった。後々、とある人に指摘されるまでは。


悪役令嬢とのファーストコンタクトを何とか取り付けた後はイベントを起こそうと躍起になっていたが何も起こらない。

 

学園生活、行事などでもイベントは自然発生するのに何もない。

この夢オトの世界のヒロインである私には何も起こらない。


なのに!!


事あるごとに悪役令嬢と王太子がイチャイチャしてるんですけどー!

 

普通さ、聴衆の面前でイチャコラしないだろ。王太子と王太子妃教育を受けてんだろ?高位貴族だよね???


そこは中庭、私が王太子とのイチャコラする場所ですよー!

なぁんで悪役令嬢と王太子がイチャイチャしてるんですかー!


側近達も遠目で見守ってんじゃ無いわよ、咎めろよ、やめさせろよ、悪役令嬢の貞操の危機だよね???


ヒロインのイベントが起こらないのに悪役令嬢は順調に王太子との愛を育んで......なんで?


三年で卒業になる学園では進級しても攻略対象との接触はできず、ただ、侍従と会話する機会が増えるだけ。

誰だよお前。伯爵家で王宮で働いている?んなもん、私には関係なぁい!!


三年間、近寄れても何もイベントが起きない。私も最初は頑張ったけどさ、好感度が上がらないのに卒業式の断罪イベントを期待するほど馬鹿じゃない。


三学年に進級して三ヶ月後、諦めたわ。


ある日、トボトボと俯きながら廊下を歩いていると中庭が目に入り足を止めた。

あぁ、今日も今日とて二人は仲良し。イチャコラしてますね。


はぁ...とため息を吐いて歩き出そうとすると声をかけられた。


「リリス・ファミニー男爵令嬢」


またあいつか。

この三年と少しで聴き慣れた声。

ジト目になりながら振り向くとやっぱりいた。


「何かしら?というか何故、貴方がここにいるの?」


振り向くと王太子の侍従である伯爵家の男がいた。

侍従なら侍従らしく王太子のそばにいろと思ったが中庭を見直すと他の男が側つきをしているようだ。


「クビにでもなったの?」


学園生活で私が王太子に近寄りすぎてクビにでなったのだろうか、彼には申し訳ないことをした。でも謝る気はない。だってコイツ、本来ならいない人だもの。


「いいえ、クビにはなっておりません。王太子殿下の侍従から文官へと職を変えました」


「そう、部署移動?そんなこともできるのね」


文官ねー、給料はどちらが高いのかしら。

あ〜ぁ、いい男に選ばれなかったせいでパパの正妻とは卒業後も仲良くしなくちゃだわ。


「部署移動なんて言葉は、()()()()にありませんよ」


男の声を聞いて耳を疑った。

コイツ、確かに()()()()と言った。


目を見開き驚いた顔で男を見ると口元が笑っていた。この男も転生者?


「夢オトの高難易度ルート知ってましたか?」


男は私が転生者だと知っている様子を見せ()()()の話をしている。

私が転生者と知りながら、この三年、王太子への接触のみならず、攻略対象へ接触させなかったのだ。


「高難易度ルート?」


隠しても無駄だろうと半ば諦めて男の話に乗ることにした。隠したって転生者バレしたって今後の生活には何ら影響はない。

高位貴族や王族に通報されてもしらばっくれれば問題ないだろう。


「悪役令嬢溺愛ルートがあるんです」


は?ヒロインを差し置いて()()()()の溺愛ルート?馬鹿にしてんの?

この夢オトはヒロインである私のためのゲームじゃない!!


「あ、やはり知らなかったんですね。オープニングの夢は何でしたか?市井で王太子や攻略対象に出会った事は?」


男の言葉で思い出した。そうだ、オープニングで選択する夢は......あ、、、夢、、、覚えていない。確かに見たはずなのに。


幼い頃に市井で攻略対象と......


確かに顔の良い男の子と出会った。一緒にパンを食べたわ。三人で。三人?そうだ、確か隣に女の子が......


そこまで思い出してハッとした。

そうか、あの頃すでにゲームが始まっていたのか。だって攻略対象は一人で市井に来るはずなのに女の子と一緒なんて......


「可愛らしい女の子といらしたでしょ?王太子殿下が。そこで三人でパンを食べた。あれがイベントです。貴方はヒロインであることを放棄して悪役令嬢にルート選択肢を譲ったんですよ」


あそこでヒロインが攻略対象と一緒にいた女の子にも声をかけてパンを一緒に食べるのがイベントで、そのあと、三人で仲良く遊ぶ事でイベント達成になるらしい。


そのタイミングでリリスはヒロインの座を明け渡すことになるらしい。


「どうしてそんなことしたの?」


私は元侍従を睨みつける。この男がいなければ今頃は夢オトのヒロインとして王太子に選ばれていたはずなのに。


「この世界を現実世界として考えたらアーロン殿下に相応しいのはアイリス様です」


現実世界?夢オトなのに?

私は「わからない」という顔で元侍従である男を見続ける。


「夢オトが終わった後も現実として続きます。卒業式の断罪でめでたしめでたしではないんですよ。その後はどうするとか考えたことありますか?」


「ないわ」


だって悪役令嬢が断罪されてヒロインが攻略対象に愛されてハッピーエンドじゃない。そのあとって、幸せに暮らすのでしょう?


「些末なことで筆頭公爵家の令嬢を断罪したら公爵家とその周りは黙っていません。公爵家は王家から離れて独立するか内乱です」


「は?王家に剣を向けるっていうの?公爵家の跡取りだって攻略すれば王家も安心できると思うけど」


「婚約がなくなれば家を継ぐのをアイリス様です。義弟は不要、元の家に返すでしょうね。彼は三男なので成人すれば貴族ではいられない。どこに安心できる要素が?」


なら悪役令嬢と結婚させればいいじゃない。結婚して公爵を継げば王家としても安心。私もあの義弟は好みだから側にいてもらえていいわ。


悪役令嬢を軟禁しておいて私の心を平穏にしてくれるなら相応の対応だってしてあげるのに。


元侍従は私の考えが推測できるのだろうか。深いため息を吐き馬鹿にしたように私を見る。


「貴方が王太子妃になって民から信頼を得られるとでも?」


婚約者のいる男に横恋慕して奪い取る

些末なことで悪役令嬢を聴衆の前で断罪する行為を許す

王太子以外にも好意を向ける

マナーと社交が悪役令嬢以下

勉学が中程度

学園在学中の慈善活動ゼロ

貧乏男爵家で婚姻時の支度金と婚姻後の化粧料の見込みがない


このこと以外も含めてヒロインのリリスが王太子妃や高位貴族に嫁入りするのは現実的に無理だろうって話している。


支度金は無しにしてもらえばいいけど化粧料って?

中程度の勉学やマナーだとダメなの??

語学力が必要?通訳がいればいいじゃない。


そんな私の反論は全て否定された。


「夢オトならヒロインだけが幸せになればいい。エンディングで終わるからね。だけど現実世界ではそうはいかない。この国を発展させて民の暮らしを豊かにするためには相応の覚悟を持った女性に王妃となってもらう必要がある。リリス嬢、貴方は自分のことしか考えていない」


王妃になって贅沢する、攻略対象に愛されることしか考えていなかった。無理でも侯爵家へ嫁げば正妻の嫌がらせから逃れられると思っていた程度。


元侍従からは現実としてこの世界を生きるようにと再三に渡ってキツく説教じみたことをされた。


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あの元侍従の言いつけを守り、私は夢オトを忘れて現実を受け入れることにした。


基本程度しか学ばなかったマナーや社交もやり直した。


勉強だって本腰を入れた。

入学前はチョロいと思っていたのに独自の世界観に合わせた歴史や文化を学び直した。知らないことばかりだからだ。


数学も学び直した。

イベントを起こすことや攻略対象と出会う事ばかり考えていた私は、クラスメイトと学力の差をつけられていたのだ。


このままでは嫁ぎ先がなくなる。

それが余計に私自身を不安にさせた。

どこかの後妻なんてごめんだ。子爵でも男爵でもいい。なんなら商家だっていい。安定した暮らしが出来る初婚の相手と婚姻したい。


この国の未来はイチャイチャしてる二人が良くしてくれるんでしょ?

なら私は私に出来ることを、イチャイチャしてる二人が作る国の一員として役に立とうと思っただけだ。


学園在学中から、あれだけ仲良くしているなら直ぐに後継にだって恵まれるだろう。

最近になって知ったけど、王太子と悪役令嬢は市井に調()()の名目でデートに行っているらしい。


私もこの前見かけたけどバレてるって。王太子と婚約者が市井でイチャイチャしてんの、皆んな、温かい目で見てるよ。

私はドン引きだけどね。


そりゃぁ、民からの支持も高いわ。

みーんな、あの二人の仲が良いことを知ってるし気安く話しかけるし市井で食事もしていて好感度MAXだよ。


私が変わったからなのかわからないけど正妻からの嫌がらせがなくなった。いや、嫌がらせとは思わなくなった。


あの女、私に少しでも良い所へ嫁いでもらおうという思いから厳しくしていたみたい。

男爵家の発展のために多少の支度金が必要でも将来安泰な家へ嫁がせたいって、パパに話しているのをコッソリ聞いちゃった。


どこへ嫁いでも生活に困らないように食堂で仕事を始めた。もちろん学業を優先で。


そんなことをしていたら卒業式まであっという間だった。


私は今、水色のドレスを身にまとい、卒業式の会場へと入場する。

エスコートは婚約者や近親者になる。学園の卒業式なのに王宮で行われるから皆、緊張している。


かくいう私も緊張している。

手のひらに「人」を書いてゴクンとした。


「それって何回か書いてから飲み込むんじゃなかったっけ?」


今、私の隣にいるのはアイツだ。

私にドレスを贈ってきた変わり者だ。

アレから私のことを見張っていたらしい。


「うるさいわねストーカー!黙っててよ」


「その言葉もこの世界にはないよ。寧ろ、望まれていると捉えられて好意的に受け止められる行為だ」


そう、同じ転生者のアイツ。

カミル・イステル伯爵子息で嫡男。

次期伯爵ですって。


この世界が現実でエンディングの後にも生き続けることを教えてくれた男が、今は私の婚約者。


「さぁ、行くぞ。お手をどうぞ、愛しい婚約者殿?」


この世界で生きるのに、この男はちょうど良いかもしれない。私が馬鹿やりそうになったら嫌われる覚悟で目を覚まさせてくれる。

この男、この人がいなければ私は馬鹿なままだった。



卒業式の後のパーティーは思い描いていたエンディングとは違ったけど、欲しかった愛を手に入れられた。


王太子殿下と婚約者が仲睦まじい姿を見せてくれるので安心している。

あの二人は引き裂いちゃダメだったんだ。



悪役令嬢溺愛ルートがあるなんて知らなかった。でもそのルートは舞台の下でヒロインも溺愛される、皆が幸せになれるルートだったんだね。



ありがとう、私の目を覚ましてくれて。


「どうした?」


「なんでもなぁ〜い」


恥ずかしいから、まだ直接は言えないけど。

そのうち前世の知識を使って国に貢献でもしよう。

お読みいただきありがとうございます♥︎︎∗︎*゜

ヒロイン目線でハッピーエンドは初めて書いたかもしれません。

ヒロインバッドエンド予定が、ちゃっかり溺愛ルートにのせちゃいました。

気づきを与えてくれる人って大切にしないといけませんね。


▼盛り込めなかった事

王太子と悪役令嬢はリリスが市井で出逢った女の子だと気づいています。三人で遊んだ大切な思い出で、その頃の経験から度々市井デートを楽しんでいます。


リリスの身分が男爵だから特別扱いをするわけにもいかず貴族としての社交にとどめていた。

悪役令嬢はマナーがあればリリスとも仲良くと考えていたけれど失礼な態度があり取りやめ。

だからこそ、卒業までに学ぼうと伝えています。


結婚後は......どうなるでしょうね?


■完結済み

「男装令嬢は王太子から逃げられない〜義家族から逃げて王太子からの溺愛を知りました〜」

https://ncode.syosetu.com/n4328gm/


「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」

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■オススメ短編

「悪役令嬢はゲーム開始前に王太子に攻略された」

https://ncode.syosetu.com/n8714gg/

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