表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

第一章:第九話

次回は明日の12時を予定しています。


 ◇ ◇ ◇ 六月 四日 午後二時 一七分


 初夏のだるい休日の午後。

 僕はアワナ君が引っ越した、元の部屋から二つ隣の部屋で段ボールを漁っていた。

 既に家具は設置されており、彼女の洋服は新品に入れ替わっている。

 引っ越し作業も無事終わった……という時に珍客が来た。

 初老の警官……北川 亮介きたかわ・りょうすけ部長だ。

 彼は僕が引っ越しが終わった後も段ボールを漁っている姿に目を丸くする。

「坊主……お前、何をしてるんだ?」

「えぇっ、見て分からないのかい!?」

 部屋の床にアワナの荷物を並べているんだよ。

 冬服に夏服、筆記用具から調理器具という生活用具。荷物は全てだ。

 一見すると警察が押収品をテレビに見せる時にも似ている。

 北川部長は僕の煽りに首を傾げると、唸った。

「ワシが見るに、女の子の引っ越しの荷物を漁っては床に置いとるな」

「分かってるじゃないか。アワナの荷物を漁っているんだよ!」

 

「お巡りさん、ごめんね……先輩。きょーてん?を探しているらしくて」

 僕が気づかない内に北川部長を招き入れた、アワナが何か言っている。

 だが僕はタンスの戸棚を引き出し、調べる作業で忙しい。

 夏の風が窓から吹き込む中、僕は湿気の匂いに包まれて作業に戻る。

 だが僕は善良な一般市民だ。警官に事情を説明するのは吝かじゃない。

「高内教授は民族学科の教授だった。その彼が探す教典となればマイナーカルトだろう。西アジアの平原に居ると言う少数民族の地底信仰だろうか……それともアフリカ東部の密林で起きた人身御供事件の魔女教かもしれない」

 僕の懇切丁寧な説明に、二人は喜ぶかと思ったが反応は真逆。

 まるで友達の居ない、趣味にかまける変人を見る目で見てくる。

「先輩はここ数日。ボクの家に来ては、こんな調子なんだ」

「うーむ、傍目には嬢ちゃんを、ストーカーから守った男には見えん」

 北川部長が作業中である僕の隣に腰掛けてきた。

 忙しいから後にして欲しいが……警察への協力は市民の義務だ。

 僕は漁っていたタンスに紛れていた、アワナのパンツを放り投げる。

「ッチ、何ですか。この部屋には小娘の、ションベン臭いパンツしかありませんよ」

「ちょっ!?」

 アワナが犬がフリスビーを捕まえる様に、空中でパンツをキャッチする。

 するとわーわー騒いで、僕の背中を叩く。

 一度、二度と叩かれるまでは無視したが五度目の拳に流石に僕も怒鳴る。

「止めろっ! 北川部長が礼儀知らずっぷりにドン引きしているぞ」

 僕の正論にキレたアワナがキレて、掴みかかってきた。

 応戦して取っ組み合うと、北川部長に引き剥がされる。

「坊主、お前大丈夫か? 病院には行ってるんだろうな」

「病院ねぇ。紹介された精神科なら睡眠薬をいただきましたよ、飲んでませんが」

「後遺症があるのか? あんな事があったなら、そりゃあるか」

 北川部長は僕の目の隈を見て項垂れるが、酷いお門違いである。

 僕の不眠症は子供時代からで、今回の件には関係ない。

 何故か眠ると悪夢を見るから、眠らないだけだ。

「放っておいて下さい。それより何しに来たんですか?」

「お前達の様子を見に来たんだよ。ワシが担当した事件だからな」

「ふぅん。何か分かった事は有ります?」

 北川部長が力無く首を横に振る。僕は「だろうな」と内心で呟いた。

 オカルト事件なんて、秩序の守護者たる警官にはタヴーそのものだろう。

 北川部長も僕がタンスを漁る姿に、懐疑的な表情を浮かべている位だ。

 彼は正座して僕に身を乗り出すと、両肩を掴んで優しく揺すってきた。

「坊主、深入りしない方が良い。こういう事件は人を狂わせる」

 北川部長は本気の顔をしているが、僕は逆に冗談にしか聞こえない。

 目を大きく見開き、彼の手を払うと跳び退った。

「おいおいおいっ!? そりゃないぜっ!」

 遂に見つけたオカルト事件を前に、このスカタンは何を言い出すんだ。

 僕は信じられないと北川部長を睨むと、彼も心配げに見返してきた。

「お嬢ちゃんも事件の後だ。心に傷が残る前に忘れちまった方が良い」

「それはお門違いだぜ。アワナも一緒に調べるんだ」

 僕が代わりに答えると、警察は弾ける様にアワナに振り返った。

 彼はまさか僕が無断で家にあがり、勝手に家を漁っていたと思ったのか?

 ちゃんと朝一に、マンションの前で電話を入れたに決まってるだろ。

 僕の怒りを余所に、アワナはパンツを握り締めて答えた。

「先輩の性格はともかく、ボクも高内教授が何を探してたのか知りたいんだ」

「高内教授は昼間は健常者として過ごしていた。その彼が何かを探していたなら……」

 ストーカー被害は夜中に行われていたが、彼は何かを探していた。

 それがきょーてん……教典をアワナが持ってると、確信があったに違いない。

 だが北川部長の意見は違う様だ。

「ガイシャを悪く言うのは御法度だが、陰謀論が頭にあっただけだろ?」

「だから僕が、そうなのか調べてるんですよ」

 僕は正直に言うと、アワナの協力は欲しいが真実以外はどうでも良い。

 アワナは何故自分が巻き込まれたのか、その理由を知りたがっている。

 北川部長はこれ以上、僕達に関わって欲しく無いそうだ。

 だが北川部長も僕らの意思が硬いと見るや、肩をすくめて折れてくれた。

「危ない事をして、警察の仕事を増やすんじゃねぇぞ」

「ボクの家を調べたら、実家に行く予定だから。危ない事はしないよ」

「警察こそ高内教授の自室で何か見つけたら教えてくれよ。オカルトは専門外だろ?」

 三者三様にお互いの顔を睨む。

 暫くして僕は話は終わりだと感じて、アワナのクッションを調べる事にした。

 柔らかな生地には綿が入っているが、他に音もしないな。

 僕が改めて荷物を漁り出すと、北川部長のげっそりした声がした。

「犯罪だけは起こすなよ。ワシも大学生カップルなんて、捕まえたく無いからな」

 僕が驚いて北川部長に振り返ると、彼は僕の肩を叩いた。

 後ろではアワナが顔を赤く染めており、僕達の顔を反復往復している。

「男なんだから守ってやれ、坊主」

「ちょっと待ってよ。ボク達はそんなんじゃ」

 二人が何か言ってるが、僕は怖気に耐える事で精一杯だ。

 皮膚の下を這いずる感触が、脳まで這い上がってくる。

 この感覚は高校のプールで、女子生徒の水着姿を見させられた時以来だ。

 僕は声が震えるのを抑えながら、何とか北川部長に反論した。

「あのなぁ。何か勘違いしてないか?」

「年頃の娘が自室に招いてるんだから、付き合っているんだろ?」

 はぁ~? 僕は思わず口を開けて驚いた。

 アワナはあわあわしてるが、初心なねんねじゃあるまいし何をしてる。

「何だ違うのか。青春の思い出にするんだと思ったが……」

「この相倉家長男、相倉有馬がっ! 世紀の大発見を前にうつつを抜かすかぁっ!?」

 熱い部屋で警察部長の襟を振り回す。

 カッカと笑う所長はともかく。アワナが複雑そうな顔で、僕を睨んでいるのが気になった。


今回で第一章は終了です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ