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第一章:第三話

ちょっと仕事で三話目の改稿が途中でした申し訳ありません。

7/24の24:00に改稿完了しました。

次回は7/24の正午に投稿する予定です。


 僕がアワナから相談を受けてから三日後。

 当初こそ彼女の住むアパートの周辺で聞き込みをしたが、有力な情報はなかった。

 なので今日はアワナの家に防犯グッズを設置する予定である。

 アワナのアパートは大学から離れた場所にある、二階建ての小さな集合住宅だ。

 最近建てられたらしいが、業者が手でも抜いたか白いペンキの剥げが目立つ。

 そんなアパートの階段を上っている途中で、突然アワナが騒ぎだした。

「本当にやるのっ!?」

「本当にってなんだよ。昨日やるって、言っただろ?」

 僕が持ってきた防犯グッズをアワナに見せたら、突然これである。

 近所のおばさんも彼女の騒ぎっぷりに、顔を出して笑っている位だ。

 アワナは僕の服を引っ張り、部屋に入らせまいと妨害してきた。

 僕は彼女の要望を無視して、ズンズン階段を上る。

「ソレを見てたら、頷かなかったよっ!」

 騒ぐアワナだが部屋を隔てる鉄扉の前で、攻防を繰り返す事五分。

 遂に諦めた彼女は汗をだくだく掻きながら、荒く息を吐く。

「分かったよぉ、んもぉ変な所漁らないでよね」

「誰が小娘の家なんて漁るか。さっさと鍵を開けろ」

 鍵が空いたら、早速作業開始である。

 アワナも最初こそ嫌々だったが、途中から諦め気味に手伝いだした。

 三十分程作業をして一段落着いた時、来客を告げるチャイムが鳴る。

「おーいアワナっ。客が来たぞー!」

 反応が無い。アワナは風呂場で作業中だったか。

 僕は彼女の近所付き合いが破滅しようがどうでも良い、だが客に罪はない、

「仕方ないな。はいはーい、どなたです……お?」

「えっ?」 

 親切な僕が扉を開けて来客対応をしてやると、見知った顔が現れた。

 同じ大学の高内 庄司たかうち・しょうじ教授だ。

 彼こそがアワナを僕に紹介した犯人であり、ジャガイモ顔野郎である。

 僕は騙された恨みもあって、皮肉たっぷりに要件を聞く。

「おや高内教授。どうしましたか?」

「君こそどうしたんだい、干泥さんの家に居て?」

 高内教授は目玉が飛び出したじゃがいも顔で、頭の毛が薄い中年男性だ。

 トレンドマークの人懐っこい笑みと丸眼鏡は今日も健在である。

 彼の問いに答えてやろうと僕が口を開くと、アワナが風呂場から飛び出してきた。

 普段の学生服ではなく、Tシャツに短パンというラフな格好だ。

「ちょっと、何で先輩が勝手に出てるのっ!?」

「君が風呂に籠ってるから出てやったんだろ。親切だよ。親切」

 客の前で怒鳴り合うものだから、高内教授は目を白黒させている。

 それに来客を立たせるの悪いと、僕は高内教授を部屋に招き入れた。

 後ろからギャンギャン騒ぐアワナが続くが無視する。

 部屋は今日の作業で改装されており、高内教授も部屋を見渡して驚く。

「干泥さんの様子を見にきたんだけど……部屋が凄い事になってるね」

「生霊対策の刀印護符ですよ。僕のコレクションの一つです」

 元々は薄橙色の壁紙のワンルームで、窓際にベットと少々の家具だけの部屋だ。

 具体的には白樺のローテーブルとカーペット。ミニタンスとその上に置かれた薄型テレビ。

 窓辺には床との間に隙間があるベット。それだけだった。

 だが今は違う。和紙に描かれたハイセンスな陰陽護符が壁一面に張られている。

「うぅ。友達に見られたらどうしよう」

 アワナは部屋の様子を見て、顔を覆って嘆いている。

 だが高内教授は興味津々だ。

「これは凄いね、窓にまで張られてるのかい?」

 正確には風呂場の窓硝子にも張っているし、窓にも張っている。

 床にも何枚か張ってあるが、トイレはアワナが拒否するから辞めておいた。

「君の為だろぉ? 僕のコレクションを放出してやったんだ。有難く思えよ」

「感謝するけど……いや感謝する所かな? あっ、先生も座って下さい」

 僕達はアワナに誘われて、ローテーブルの三辺にそれぞれ座った。

 教授は部屋をキョロキョロ見ているが、部屋の荷物は大した物はない。

 僕は手帳を取り出すと、教授に事件の質問を投げかけた。

「高内教授は近所に住んでいるとか、今回の事で何か知りませんか?」

「ご近所というか隣部屋だけど、特に見てないなぁ」

 他の住民の聞き込みと同じだな。彼らも知らないと言っていた。

 だがこの家のセキュリティは良くはないが、悪い訳じゃない。

 もし部屋に侵入する為に鉄扉を開ければ、近隣住民が気づくだろう。

 僕達が会話を交えていると、アワナが嫌そうに壁の護符を見る。

「だからって護符……?」

 ああだこうだ、言いやがるなぁ。このガキは。

 僕みたいに優しい奴でなかったら、怒られているぞ。

「この護符は陰陽術にも用いられる、由緒正しい護符なんだぞ? 死んでも剥がすなよ」

 僕がアワナに言うと、文句と遜色無い返事が返ってくる。

 カチンと来て文句を言ってやろうとするが、高内教授が慌てて分け入ってきた。

「護符はともかく……捜査に進展はないみたいだね」

「いいや、進展はありましたよ。進展が無かったという進展がね」

 この部屋の窓から、部屋を盗撮できる背の高い建物はない。

 鍵は去年の年末に変えたらしく、鍵を盗まれた訳でもないだろう。

 その上でこの家をピッキングで開けている不審者もいないならば……密室だった訳だ。

「だから幽霊対策かい?」

 高内教授もアワナもその顔は半信半疑でさえない。

 完全にインチキだと思っている。

「最初は霊道……霊の通り道かと思ったけど霊障が違う。モノや君に執着するなら生霊だろう」

 僕の言葉にアワナは納得しがたいようだ。僕はカチンと来て口を開こうとするが……。

 高内教授が話を逸らす為、タンスの上で倒れている掌大フレームを指で指した。

「あの写真建てが倒れているのも、幽霊対策かい?」

「アレはさっき倒したんだけど……」

 アワナが座りながら写真立てを手に取る。

 写真には景義大を背景に、珍妙な格好のアワナが映っていた。

 紫色のレースをあしらった、肩が丸出しの純白ウェディングドレス姿だ。

 他にも手にはウェディンググローブ、頭には半透明のベール。

 他には優勝の文字が書かれた、安っぽいタスキを肩に結んでいる。

「干泥さんが去年優勝した、ミスコンの写真かい?」

「うん。ボクの事情を話したら、同期の皆が手伝ってくれて……」

 アワナは懐かしそうに写真を眺めている。

 高内教授も腕を組んで、目を閉じて天上を仰ぐと思い出に浸っている様だ。

「私もスピーチを聞いていたよ。母子家庭で育ったから、実の父を探してるとか?」

「探して何かするって、訳じゃないけどね」

「ルーツを知りたいのは、民俗学者なら笑う人は……相倉さん、どうかしたのかい?」

 高内教授が顔をそらした僕を見て、不思議そうに問いかけてくる。

 僕は写真が視界に入らない様に、手で視線を遮っていた。

 僕の肌は蕁麻疹が浮かんでおり、背筋に悪寒が走っては目頭が乾いてしまう。

 全身の不快感に悲鳴をあげる様に、二人に怒鳴った。

「僕が元も苦手なのは、悪夢と女なんだっ!! 頼むから写真を下げてくれっ!!」

「ボク。女の子の部屋で、それ言う人初めて見た……」

 アワナは肌を見せない服を着ており、スレンダー体型だから平気なだけだ。

 ケバい香水や化粧の匂いがしてたら、そもそも手伝って居なかっただろう。

 僕は女体が嫌いとか、憎んでる訳じゃない。生理的な嫌悪があるだけである。

 そんな僕にとって、肩を出して女を前面に出した写真はキツい。

「先輩って……うぅん、やっぱり良いや」

 僕と知り合いのほとんどが、同じ反応をするな。

 何を言いたいかは分からないが、気になる発言があった。

 アワナが写真立てを倒すと、僕も姿勢を正して肌を掻く。

「父親を捜してると言ったな。父親が生霊を飛ばして、君を見ているとかどうだ?」

「流石にそれは無いと思う」「ボクも無いと思うな……」

「分からないぞ。刀印護符の力で被害が起きなければ、推理が合ってる事になる」

 その時、二人はボクをアホを見る目を向ける。

 そして刀印護符について、効能を結論から言おう。

 その日の夜。アワナがコインランドリーに行っている間に、部屋が荒らされていた。



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