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磯に香る君のそばに海神  作者: 悠鬼由宇
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第二楽章 Valkyrie

「バカ! バカバカバカ!」

京は激怒した。

顔を耳まで真っ赤に染め、京は怒り狂いながら茶の間を出て行ってしまった。

「バカーーー!」

京の遠吠えが虚しく古家に響き渡る。

顔は血塗れ、枯葉や枝が髪や服にこびり付いている悠人は、青褪めながら苦笑いするしかなかった。

「ったく。こんな夜遅くにあんな所でフラフラ歩きやがって。」

小畑家の信太はムッとした顔で悠人を見下す。

「あの、ホントに助かりましたっ 有難うございました… って、昨日もなんか助けてもらって… 何とお礼を言えば…」

「んな事いいから。お嬢のご機嫌、治しておけや。じゃあな。」

そう言うとシンタは踵を綺麗に返し、京の家の玄関から出て行った。

悠人は大きく息を吐き出し、その場にしゃがみ込んでしまう。


何がいけなかったんだろう。どうして道に迷ってしまったのだろう。昨日通ったばかりだったのに。迷わない自信があったのに。

途中で日が落ちてしまったのが拙かった。自分がどこを歩いているのかがさっぱりわからなくなり、それでもおっとり気質の悠人は(何とかなるさ)と足を前に進めていく。

だが電灯も何もない農道は、夜目が効かない悠人にとっては長野の善光寺の胎内めぐりレベルの徒歩困難状況であった。手摺りもなくガードレールも無く、ただよろよろと道を一歩一歩進んで行くのだが、それによって暗闇はその深さを徐々に増していき、農道から市道に出る道の段差なんて気付きもしなかった。

暗闇にダイブしたかと思った瞬間、顔を強かに地面にぶつけ鼻梁に激痛が走った。辺りをのたうち回っていると懐中 電灯が悠人の顔を照らし、

「ぎゃあーーー」

と言う本気の叫び声と共に腹部に衝撃を受け、気が遠くなった。

頬に刺激を感じ、ゆっくりと意識が戻ってきた。

「お前、こんな所で何してやがる?」

野太い声が妙に懐かしく感じ、思わず涙腺が緩んでしまう。

「し、シンタさん、ですか?」

起きあがろうとするも、脇腹の激痛で顔を歪めていると、

「ったく。仕方ねえ奴だ。」

ああ、どうやら元自衛官の本気の蹴りを受けたらしい……

二日連続でシンタに抱えられながら、八時過ぎに京の家に辿り着いた。そして冒頭に至る…


自室に引き篭もる京に一声かけて、風呂場に向かう。お湯で顔を洗い冷水でしばらく鼻を冷やす。風呂に浸かり体を解す。思い返せば今日は軽い山登りをしたし駅までの往復で三時間近く歩いた。

足は棒の様で、サラサラの湯の中で悲鳴をあげている。

風呂を出て脱衣所に入ると、バスタオルと今日着ていたのとは別の作務衣が置かれていた。

それに着替え茶の間に入ると、京がムスッとした顔で、お茶漬けをちゃぶ台の上に用意していた。それを見るや否や腹がギュルルルと大きな音を立てて鳴った。

「あの、なんか、ホント、ごめんなさい」

それしか言葉が出なかった。

京はプイッと顔を逸らし、体育座りで背中をこちらに向けている。

「やっぱり、俺今のままじゃ駄目だと思って… 東京帰っても、何も変わらないと思って…」

悠人はちゃぶ台の前で正座し、京の背中に話しかける。

「それでも、現実に目を向けて東京に戻って就活やり直さなきゃ、なんて思ったら、心が壊れそうになって…」

京が背中で頷く。

「そしたら、美妙さんの声が聞こえてきて… それから、」

京が半分だけこちら側に体を向ける。

「京ちゃんの声が頭に鳴り響いて… 気が付いたらさ、就活の鞄とかゴミ箱に投げ捨てていたよ!」

四分の一だけこちらに体を向けながら、真剣な表情で悠人の話を聞いている。

「駅前からバイト先に電話してさ。体の調子悪いのでバイト辞めるって言って。」

八分の一だけ体を向け、おおおと呟く。

「国道沿いのワークマンで洋服買って。ははは、あのスーツとか革靴、捨ててきちゃったよ」

十六分の一だけ体を向け、プッと吹き出す。

それから闇の道を彷徨い、すっ転び血塗れとなり、偶然通りかかったシンタに襲撃されたのち昨日同様担がれてここまで辿り着いた事を話すうちに、京は笑いが止まらなくなっており、完全に悠人と正対していた。

「だーかーらー。日が暮れたら絶対歩いちゃダメだって! あぶねーって。ま、遭遇したのがシンタでよかったよ、山猫とか首無しライダーじゃなくて良かったな、ブヒャヒャヒャ!」

笑い過ぎてひっくり返った拍子に可愛いおへそが見えてしまい、悠人は再び鼻梁を冷やす羽目になってしまった。


「じゃあ、当分、ここに、いるんだよね?」

サッパリとした梅干し茶漬けを瞬息の間でかき込んだ悠人の後片付けをしながら、京は恐る恐る伺う。

「うん。て言うか、いいのか、俺がここに居て?」

「いいよ。別に。」

食器のぶつかる音が大きくなる。

片付けを終え、茶の間に戻った京は心なしか嬉しそうに見えた。

「でさ、明日から俺もなんか手伝おう、かと…」

「おおーー、じゃあ掃除と洗濯と、買い出しと、あとはー」

「随分、無慈悲じゃねえかよ」

悠人は吹き出しながら、

「後は?」

「んーーー、ああ、じゃあさ、明日からアタシと一緒に磯で貝採りでもする?」

成る程。この集落で海産物を扱う磯部家。俺は釣りはした事がないし、船酔いが酷いので漁船には乗れそうもない。 だから、貝や海藻くらいならなんとかなるかも。

「あと、港の漁協の手伝いとか、一緒にする?」

何故か京はウキウキしているように悠人は思え、

「うん、やろう、やろう。」

と気軽に応じてみた。すると京が

「わあーい、やったあー」

と言って悠人にしがみついてきたではないか!

女性経験に乏しい若い男性にしてはならない女子の行為、第三位。密室でのハグ。

悠人は女性経験が無くはない。それはバ先の店長や先輩に連れられて、所謂風俗の女性と数回関係を持った事がある。ただそれだけである。

プロではない女性と関係を持ったことのない悠人は、必然的に硬直して意識が遠のき頭は真っ白になっていく。

これ迄にバ先の後輩女子や先輩中年女性に、忘年会や新年会での酒の勢いで抱きつかれたことやハグされたことはある。なんならデートした専門学校生の女子と、お台場で接吻したことすらある。

だが。

今、相手は、京である。

悠人が生きてきた中で、最も美しいと感じている女子である。

その京が自分に密接にしがみついている。体の細さに比して決して貧弱でない二つの山が押し付けられている。京の頬が自分の首筋に当たっている。潮まじりの柔らかい若い女子の匂いが自分にまとわりついている。

この三時間で、三度目の出血を止める手立ては悠人には皆無であった。


     *     *     *     *     *     *


けたたましい鶏の鳴き声で悠人は目が覚める。一瞬ここはどこだ、と考えるも、すぐに京の家だと気付き、大きく背伸びをする。

と、左の脇腹に激痛を覚え、思わず呻いてしまう。あと、鼻梁も。

庭に面した障子戸が優しく開き、

「おっはよー。よく寝れた?」

今日も元気に京が顔を出す。その顔を繁々と眺め、この子は何一つ化粧を施していないのに、何故にこんなにも美しいのか、と考え込んでしまう。

そんな悠人に首を傾げつつ、

「布団片してなー。もーすぐ朝ご飯だぞおー」

昨日の失態を思い出し、今朝はキチンと、

「はいよ。任せとき」

よろしい。及第点だ。悠人は自己採点に満足し、悠々と布団を片し始める。

朝食を終えて片付けを二人で行い、

「今朝は磯で貝採りすっか。」

と言うことで、庭先の作業場からバケツだのスコップみたいな道具だのを一式持ち出し、砂利道を肩を並べて歩き出す。

肩に背負ったクーラーボックスを持ち替えたときに脇腹に激痛が走り、暫くその場にしゃがみ込む。

「ああそっか。シンタの一撃受けたとこか」

「そうなんだ。さっき見たら、真っ青になってたわ。あの人本物だよ。陸上自衛隊? それとも海上自衛隊?」

「んーー、何だっけ。後で聞いてみ。って、絶対教えてくんねーけど」

「そうなの? 昔から知ってるんだろシンタさんの事は?」

「おー。昔は真面目なガリ勉くんだったんだぜ。高校では成績上位だったしな。」

悠人は話の興味に脇腹の痛みを忘れ歩き出す。

「そうなんだ! え、それで?」

「んで、大学はさ、近いし学費ゼロで小遣い貰えるから、防衛大に行ったんだわ」

「スッゲーじゃん! 防大! エリートじゃん!」

「ん? ユートの大学の方がエリートなんじゃね?」

二つのことに意表を突かれ、立ち止まってしまう。

一つ目。自分の大学は偏差値的にも世間体的にも、防大には歯も立たない。

二つ目。今、「ユート」と呼んだ? アンタじゃなく?

「い、今、何て言った?」

「ああ? だから、ユートの大学の方がー って、おい、何鼻血出してんのよ! 意味不明!」

そこで「いみふー」と言わない京に、未だかつて味わったことのない心のときめきが心に込み上げ、それに大いに戸惑いながら鼻血を拭いてもらう悠人なのであった。


磯場に着くと、丁度干潮であり沖の方まで岩場が見えている。朝の磯場は干潮のせいもあるのか殊更潮の匂いがキツく、でも逆にそれが悠人の気持ちを穏やかにする。目を細め水平線を眺めると、遠く魚が飛び跳ねている様が現実とは思えない。

潮をたっぷりと含んだ重い風。胸いっぱいに吸い込むと、肺胞が活力を増しかつてない力で全身に血液を押し出している気がする。

水面ギリギリに飛び交う海鳥の白さと深い藍色の水面のコンストラクトは、どんなに有名な絵画よりも悠人に感動を与えている。

「おーい、ユートー、そろそろ採るよおー」

ハッと我に帰り、京に向かって頷く。改めて磯場を見渡す。彼方此方に潮溜まりが出来ており、簡単に採取出来そうだ。

それにしても良く干上がっているなあと、海のことを良く知らない悠人が、

「へえ、朝はこんなに潮が引くのか」

と感心していると、

「アンタほんとに大学生? 干潮と満潮は月の満ち欠けに従って毎日変わるんですけど」

アンタに格下げされてしまった。

落ち込んでいると、京が

「さー、採るよお。いい、こっち来て良く見ててよ」

そう言って目の前のタイドプール(潮溜まり)にしゃがみ込むと、突如生物の授業が始まった。

「これがイシダタミガイ。こっちがイソニナ、これはマツバガイ。マヨネーズつけると美味いんだよ。んで、このちょっとキモいのがヒザラガイな、後で煮付けて食わしてあげる。」

ナウシカに出てくるオームを小さくした様な姿で、何処を食べるの、と悠人は戦慄している。

それにしても、貝採りと言うからには、ムール貝や牡蠣をイメージしていたのだが、どれもこれも小粒の小さな貝だったので、

「こんな小さいの、売れるのか?」

「売る? はあ?」

「いやだってさ、これらを港や魚屋に持っていって売るんじゃねえの?」

「売らないし。売れないし。コイツらはみんなの酒のつまみ、な。」

そうなのか。あれ、それではこの子は何処で現金収入を?

「んんー、港の漁協の手伝いとか。後はこの辺で釣った魚を持って行ったりとか。かな。」

それではとても普通に生活できないのでは?

「まあ、じーちゃんの残した金があるし。それにそんな金使わねーし」

そうなのである。彼女は実に質素な生活をしているのである。化粧っ気は全くなく髪の毛も最近カットされた形跡はない。今来ている服もロゴが擦り切れて読めない程古い物だし、部屋の中のものも金がかかりそうなものは一才置かれていない、P C、タブレット、スマホ、テレビ。そう言えば電話機を見ていない…

「あー、使わないから一昨年じーちゃんが止めちゃったわ。」

バケツとクーラーボックスいっぱいの小貝を持ち帰りすがら、悠人は京の生活ぶりを信じられない思いで聞いていた。


家に戻ると京の指示に従って小さな貝達を塩茹でに。

「え? 海水を沸騰させて煮る? いやいやそれじゃ濃過ぎるし。おう大学生、海水の塩分濃度知ってっか?」

「ングっ えっと、5%?」

「ブッブー。約3%でしたー。アンタの大学、ひょっとしてアホ大?」

何も言えず下を向く。

「ま、まあいいじゃない。アタシなんて中学中退だし。アンタは学士様でしょ? 大したもんよ、うん。」

とても若い女子の言葉とは思えない物言いに、

「そう言えば。どうして中学、途中で行かなくなったんだ?」

言ってから後悔する。そんなの、イジメとかに決まってんだろうが。思い出したくない過去の筈だ、俺はなんてことを……

「あー、父ちゃんが死んで、母ちゃんが出てったから、誰も煩く言わなくなったから行くのやめたっ」

「ハア? 友達とかいたんじ…」

「だって、行くのに四十分だよ。給食はクソ不味いし。男も女も色気付いて気味悪いし。いーわあんな学校、行きたくねーって感じ。」

そうなんだ… 最近の若い子の考えは良くわからん。

だが、それにしても、だ。遠足、運動会、文化祭、修学旅行などなど、中高生にとってそれなりに思い出となるイベントも多々あるし、それでも学校を拒否するのか?

「そんな事よりも。一日一日生きてくことに必死だったから。台風が来たら漁に出れないし貝も採れない。畑も田圃もメチャメチャになるし。家もぶっ壊れて直すのスッゲー大変。台風だけじゃないよ、日照りや長雨。毎年、毎日が自然との戦い。そんなチャラついて学校ごっこしてる暇なんてないし」

自然と戦ったことのない悠人は、ただただ彼女の言葉に頷くしかなかった。

なんて話しているうちに塩水が沸き立ち、十分程して貝を掬い上げて完成である。

オーム以外は塩茹でのままに、オームは殻をとり醤油や味醂などで煮物にし、出来たものを四つのタッパに入れ、

「よーし出来たあ。さ、一緒に持ってこ」

二人はタッパを抱え、砂利道を並んで歩き出した。


     *     *     *     *     *     *


「あーら、これはこれは。いつもありがとねー」

香の家に行くのは、と言うよりもこの集落の他の家に行くのは初めてだ。二階建てのしっかりした造りの木造家屋だ。柱がやたら太く屋根瓦が昔ながらの重たそうなやつだ。愛媛の実家の近くにも似た造りの家があったが、昭和初期に建てられたそうだ。この家は築何十年なのだろうか、なんて思う。

「とーさーん、京ちゃんがおつまみ持ってきてくれたよおー」

香が奥に叫ぶと、

「おー、おー、それそれ!」

と言いながら、禿頭の老人がニコニコ顔で玄関に出てくる。

「ユート、この人が善じい。水田善治。善じい、コイツがユート。綿積悠人。」

ぞんざいながら的確な紹介に互いにペコリと頭を下げ合う。

「おおお、神様。って京ちゃんよ。あまり神様っぽくねえなあ、おおお? ほれ、朝鮮ドラマのよ、キムチョンチャン、って感じじゃぞおおお」

朝鮮ドラマって… で誰だよキムチョンチャン?

香が爆笑していると、その後ろから、

「あーらあらら、神様って言う子! イ・サンイにそっくりじゃない! ちょっとなよってしたところなんかさ! あらあらら!」

善じいのお奥さんの洋子さん、との事。で、誰ですか、イ・サンイ?

「きゃー、ソックリ! 誰かに似てると思ってたの! お母さん、やるー」

「でーしょでしょ! 京ちゃんにお似合いじゃない、あーらあらら」

後ろから足音がし振り返ると、人の良さそうなキャップを被った男性がニコニコ顔で、

「京ちゃん、ありがとなー、はいこれ。さっき脱穀したやつ」

そう言ってビニール袋に入った白米を渡してくれる。

「僕、水田洋一。四十四歳です。昨日は大変だったね?」

わお。この集落でやっとまともに会話できそうな人物登場だ。

「綿積悠人です。二十二になりました。大学四年生です。しばらく彼女の家に世話になろうと思います、今後もよろしくお願いします。」

と、就活風に決めてみた。

「ウチ、もうすぐ二十歳になる娘が一人いてね、東京の学校に通っててね。ここからじゃ遠いから一人暮らしさせてるんだけど、ちゃんとやっているか心配で心配で…」

ふーむ。女子大か短大、専門生かな。でもこんな素敵な両親、祖父母に育てられ、その子は幸せだなあ。悠人はちょっと羨ましくなる。

「ヒナは正月は戻るんだろ? 久しぶりだなあ、会うの!」

京が嬉しそうな笑顔で洋一と話しているのを見てふと気づく。あれ、京ちゃんっておいくつですか?


「え? アタシ? 十七だよお」

持っていたタッパをずり落としそうになる。

何ですと? この子、まだ高校二年生、くらいなの?

てっきりもう成人していると悠人は思っていた。ワンチャン、同じ歳かちょっと上、位に思っていた、だのに彼女は…

「どお、J Kっぽくない?」

口角をキュッと上げ、ウインクしてみせる京は別に女子高生っぽくは見えない。寧ろ妖艶な魅力を振り撒く高級クラブのホステスの様な感じである。

それを素直に口にすると又これだからFラン大学生はクソだ、とか叱られそうなので黙っていたが、これで色白だったなら確実に芸能プロダクションにスカウトされるだろう、いや逆に健康そうな色黒を売りにしたアイドルの線もアリだ、悠人は一人頷く。


「おーい、シンター、つまみ持ってきたぞおー」

水田家の斜向かいの立派な木造住宅。これはこの十年以内に建てられたものではないか? 居間に暖炉か薪ストーブでも有るのだろうか、立派な煙突が屋根から曇り空に聳え立っている。間違いなくこの集落で一番立派な家と言えよう。庭には黒のレクサスのSU V、それに白のクラウンのセダンが埃をかぶっている。

畑を持っていると言っていたが、三浦半島の野菜は東京では『三浦野菜』とか言うブランド野菜で人気が有る、とファミレスの店長が言っていたのを思い出す。さぞや儲かっているのだろうな、なんて思いながら京の後から玄関に入る。

「あらあら、京ちゃん! わざわざありがと。で、そちらがー、神様! きゃは」

初老の少し丸目の女性が目を見開いて喜んでいる。

「ユート。綿積悠人な。初枝おばちゃん。シンタのおっかさんな」

「あの子、畑に出てるの、お爺ちゃんとお婆ちゃんと。後で畑に寄ってあげて!」

「おう、これ琴ばあん家置いたら、行ってみっか!」

ああ、これ畑仕事手伝わされる予感しかしない… 悠人は苦笑いするも畑仕事なんて経験がなかったので若干興味が湧いてくる。


朝、悠人を起こした鶏を何十羽も飼っているのが、琴ばーちゃん、こと鳥山琴音さんだ。去年喜寿のお祝いをしたのでもうすぐ八十になると言う。雰囲気がちょっと昨日会った美妙さんに似ているが、琴音さんは悠人を見つめ嬉しそうに微笑んでいる。

「嬉しいわ。神様が本当に来てくれたなんて。卵いっぱい食べてね」

穏やかな口調が心に沁み入る。感謝の気持ちを込めて深く頭を下げる。

「ここは本当に落ち着ける良いところなの。良い気が流れてるからね。ゆっくりしていくのよ」

良い気、か。確かにこの集落にはこれまでに感じた事のない穏やかな雰囲気を感じる。そして琴音さんの言葉からも良い気を感じる。悠人は琴音さんが好きになる。

「でも京ちゃんはまだ子供だから変なプレイはダメよ、ハメ撮りとか電マを使ったりとか。優しくノーマルに、ね」

思わず鶏と遊んでいる京を振り返る。どうやら聞かれてなさそうだ。そして琴音さんを凝視する。穏やかに恐るべきことを呟かれ、悠人は呆然となる。

「もうあの子も十七だし。生でいいわよ。神様もたっぷり精をつけて、思い切り出しなさい。」

満面の笑顔で悠人に言い放つ。ゴクリと唾を飲み込み悠人はカクカクと首を縦に振る。それにしても、ハメ撮り? 電マ? 聞き違えたかと思ったが、どうしてこの八十近いであろう老婆がそんなことを…?

「ネットに良く出てるじゃない。あと動画もよくアップされているし。」

唖然。

こんな田舎の寒村の喜寿を過ぎた老婆が、ネットでエロ動画を?

「4Gが入らないから有線L A NひいていてWi-Fiルーター接続しているの。誰も使わないからそこそこ速いのよ。香ちゃんとこもウチのWi-Fi使って貰っているわ。良かったら神様もどうぞ。」

いやいやいや、下手したら自分よりもITに詳しい? それでもWi-Fiを「ワイハイ」と発音している所に惚れてしまう悠人である。

「おつまみ、ありがと。今度うちに飲みにいらっしゃい」

実は悠人は酒が強い。貧乏学生なので毎日飲むことは不可能なのだが、飲み放題の店で宴会をすれば、周りが驚き呆れるほどの酒量を誇る。そしてあまり酔わない。

「それは、是非!」

「一人、でね!」

おいおいおい……


     *     *     *     *     *     *


琴音さんの家を出て、そのまま砂利道を登って行く。田圃と畑は集落から少し離れていると京は言う。砂利道の両側は鬱蒼とした樹々が茂り日没前にはすっかり暗くなりそうだ。

秋の気配の樹々を感じながら十分ほど歩くといきなり眼前が開け、かなり広目の田畑が広がっている。

こちらから見て手前に畑。パッと見た限り、やはり三浦野菜を栽培しているのだろう、大根、ネギ、ニンジンなどが植えられている。

その奥に水の抜かれた田圃が見える。区画が二つに区切られているので毎年交互に稲作をしているのかも知れない。

「おおーい! おつまみ家に置いてきたぞおーー」

田畑は両側が小高い山に囲まれているので、京の声が木霊する。

すると老夫婦が腰を上げこちらに大きく手を振る。シンタらしき男性はこちらを一瞥しすぐに農作業に戻っている。

京の後をついて畦道を進んでいき、老夫婦に挨拶をする。

「おおお、神様じゃねえか。何でも一昨日昨日とウチの信太の世話になったらしいな。」

「おじいさん、恩つけがましいこと言わないの。神様困っちゃってるじゃない、ねえ」

ああ、二人目のまともな人物だ。悠人はちょっとホッとしながら、

「先日、先々日と息子さんには大変お世話になりました。綿積悠人です。今後ともよろしくお願いします。」

「ご丁寧にありがとう。私はみつ、この人が照夫。よろしくね、神様」

だが、先程の琴音ショックが大き過ぎ、悠人は警戒を降ろす事ができない。

「あれが信太。三十過ぎなのにまだ独身。ねえ神様、あの子に合う女性紹介してくれないかしら」

おおお、まともだ。真っ当な母親の愛だ。どうやらみつさんは、間違いないようだ。

「そうですね、誰かいたらお知らせしますね」

「さすが神様。期待しちゃいますね、オホホホ」

うんうん、実に普通で良い。これからは洋一さんとみつさんと、良いお付き合いをして行こう、そう悠人は決心する。


小畑家のお誘いを受け、畑の畦道で昼食をご馳走になる。

採れたての三浦大根〜初めて見て、その大きさと太さに愕然とする〜を短冊に切って辛味噌を付けてそのまま食べる。歯応えがシャッキリして瑞々しい。体の隅々まで浄化される感じがする程美味い。美味過ぎる。

用意されたおにぎりは勿論奥の田圃でこの秋に採れたもの。冷たくてもモチモチして柔らかく美味い。中の具は大根の葉を胡麻油で炒め味付けしたものとの事。こんな美味い握り飯をこれまで口にしたことがあっただろうか?

「ね、美味しいでしょ。ぜーんぶこの辺で採れたものなの。」

「本当に美味しいです。それに身体にも良さそうですし」

「そうよ。いっぱい食べてもっと元気になってね」

悠人はニッコリと頷く。

「おいシンタ、猪鍋が食いたいよー 採ってきてくれよお」

京が空恐ろしいことを言うので、無茶言うなと言いかけると、

「ああ、猪鍋の季節、だな」

と信太がポロッと言うので悠人はのけぞる。信太はそんな悠人を一瞥しニヤリと笑いながら、

「お前も手伝え」

いや無理ですから。あれ結構ヤバい生き物ですよね、俺の実家の近くによく出ましたが誰も捕まえて食べる人なんていませんでしたが。

「よし後で迎えに行く。」

ねえ人の話聞いてます? 絶対無理ですから、本当に勘弁してくださいって……

「これ、美味かっただろ。食ったよな。お前、ウチの大根、食ったよな!」

た、食べました……


「……俺、役立てるとは思えないんですけど」

「仕留めた奴を担いでもらう」

「あの、その銃って、本物…… ですよね?」

「ああ」

信太のやたら姿勢の良い背中を追いつつ、足元に気をつけながら悠人は山にわけ行っている。

昼食後京の家に戻り一息付いていると、信太が猟銃らしきケースを背負って悠人を連れ出し、京も激しく同行したがったのだが、信太の

「ダメだ」

の一言で瞬殺した。

三十分は登ったであろうか。それにしてもこんな山奥に猪はいるのだろうか。もっと畑の近くとかにいそうなのだが、などと悠人は考えていると、

「山から降りてくるんだ。」

と一言教えてくれる。

どうもこの人は言葉が少なく、コミュニケーションが取りずらいな。悠人はそう思い、

「あの、その銃は元自衛官だから持っているのですか?」

と話を振ってみる。

「いや、関係ない。」

会話終了。悠人はめげずに、

「確か、猟銃を持つのって免許がいるんですよね?」

「いる。」

めげるな俺。悠人は踏ん張る。

「どうやって猟銃を手に入れるんですか?」

これなら話は長く深く進展することだろう。そう悠人は信じていた。

「講習会を受ける」

ほう。

「認定書を申請し、交付してもらう」

ふむふむ。

「射撃教習を受ける」

へえー。それ、けっk……

「試験に合格すると証明書が貰える」

は、はあ。

「鉄砲屋に行って、譲渡許可証を貰う」」

え、それってどk……

「警察に所持申請書を出す」

そ、そうなんだ。

「所持許可証が交付される」

やっと、ですか!

「それ持って鉄砲屋で、買う。以上。」

空を仰ぎ見るも、色を変え始めた木々の葉で覆われ、何も見ることは出来なかった。

自分を信じた俺が馬鹿だった……


いや。これで挫けていては今までの俺そのままじゃないのか? 俺は変わりたい、自分を変えていきたい。何事にも熱中することなく、執着する事のなかった自分を変えてみたい、変えて行きたい。

「それなら、俺もそのステップを踏んでいけば猪を撃てるんですね?」

いきなり信太は立ち止まり、

「それではダメだ。狩猟するならば、狩猟免許が必要なのだ!」

半分怒ってます? 悠人はギョッとしながら

「へ、へえ、それってどうやって取得するんですか? 俺でも手に入れられますか!」

そうだ。挫けるな俺。こんな事で激怒するような人ならば二日に渡って俺を助けてくれる筈はない。

「いいかよく聞け。狩猟免許には四種類あるのだ。網猟免許、これは網を使った猟をする際に必要な免許だ。」

おおおおお! なんだ突然?

「網を使った猟、ですか?」

「ああ。雀、鴨、ガンなんかを捕まえるのに投げ網やむそう網を使うのだが、それにはこの免許が必要なんだ。」

「へーーーー、知りませんでした。」

「次に。わな猟免許。言葉の通り、括り罠なんかを使って猪や鹿を捕まえるのに必要な免許だ。」

「え… 勝手に罠仕掛けたら、いけないんですか?」

「ダメだ。以上二つは銃を使わない狩猟免許である。」

なんか、教師か教官みたいだ。自衛隊でも教官職についていたのだろうか。

「銃を使う猟には二種類ある。一つ目がコイツのような銃を使う猟に必要な、第一種銃猟免許である。」

「第一種、ですか、へえー」

「第二種銃猟免許は空気銃を使って猟をする時に必要な免許なのである。では次に第一種銃猟免許取得の手続きについて述べるっ」

「ハイっ 第一種銃猟免許取得の手続きを教えてくださいっ」

「うむ。まずは各自治体、ここならば神奈川県に狩猟免許申請書を提出しなければならない、その際に注意すべき点が幾つかある。まず、かかりつけ医による診断書が必要なのだ、従ってーーー」

小畑信太教官による講義はその後一時間は続き、その間山中をぐるぐる回っていたので悠人は頭も身体もヘトヘトになってしまった。


     *     *     *     *     *     *


「……そんな訳でだ、円滑な狩猟のためには猟友会に入るのが一番無難なのだg…… 止まれ。」

疲労困憊していた悠人の足がピタリと止まる。

信太が何やら指や顔の表情を使い悠人にサインを送っている。その半分も理解しないまま悠人は信太から三歩ほど離れ、大きな木の影に身を潜める。

信太はケースから銃を取り出し、動作確認を素早くすると、前方の茂みに向かい銃を構える。その姿はまさにハンター、いやスナイパーを思わせるものである、悠人はこれまでに感じた事のない胸の動悸に戸惑いながら、信太と茂みを交互に見比べる。

十メートルは先の茂みが一瞬揺れた気がするーその刹那、

ダーーーーン

ドサッ 

全てが一瞬のうちに完結した。


茂みに近づくと、大型犬程の猪が倒れている。

その額に銃痕がくっきりと残され、猪はピクリとも動かない。

悠人は言葉を失い、呆然と猪と信太を眺めている。

あの距離からこの小さな生き物を一撃で仕留めた。

信太に対して、恐怖よりも畏敬の念を感じ、

「凄い、流石です。自衛隊仕込みですね」

信太は無表情で悠人を振り返り、

「コイツは撃ち返さないから。楽なもんさ。」

その言葉の裏に、悠人は恐怖を思える。

この人は、撃ち返す相手を撃ったことがある? まさか、今の日本でそんなことが有り得る筈はない、これは何か言葉のあやなのだろう。いやそれでもこの人のこの眼力。普通の人のものとは明らかに違う。やはり過去に何か……

それをこの場で問う訳にはいかず、ただ呆然と立ち尽くしていると、

「ほれ。コイツを担いでもらおうか」

見ると縄で縛られそれでいて担ぎやすそうな縛り方をされた猪が横たわっている。

悠人はカクカク首を縦に振り、信太に手伝ってもらいながらそれを担ぐ。意外に重たい、いや相当重たい、ってか、メッチャ重たい!

「まあ三十キロくらいかな。若い雌だ。肉が柔らかくて甘いぞ。今夜は楽しみだな」

ようやく信太が表情を崩しニヤリと笑う。同時に悠人の不安の心も解き放たれ、

「俺、猪鍋って初めてっす。猪の肉食うの、初めてっす」

「おおそうか。じゃあガッツリ食え。精がつくぞお。今夜はお前ら朝までコースか、畜生!」

笑いながら信太が悠人の尻を軽く蹴飛ばす。

「いたっ てか、信太さん、昨日の蹴り、チョー青痣になってんすけど」

「ああ、わりいわりい。でもよ、真っ暗闇で血塗れの奴が向かってきたら、誰でもああすんだろうが!」

「いや、フツー逃げるって。攻撃しないって」

山を降り集落に戻るまでずっとこんな調子で語り合っていた。砂利道で井戸端会議をしていた老若男女が二人の姿を見、皆唖然とした顔となるのであった。


「これは丁度良い、神様の歓迎会って奴だね、なんかお祭りみたい!」

香が火にかけられた大きな鍋に味噌を溶かしながら、浮かれた様子で叫ぶ。

日もすっかり暮れた頃、小畑家の庭先に集落全員が集い、これから始まる猪鍋会の準備に勤しんでいる。

悠人がビックリしたのが、一升瓶に入った白い液体だ。

「それ、何ですか?」

洋一が笑いながら、

「ああこれ、いわゆるドブロク。自家製のお酒だよ」

おおお、これがあのドブロク… って、あれ、お酒って勝手に作っていいのだっけ?

「ダメダメ。だからこれ、他の人には内緒だよ、あはは」

……洋一さん、ちゃんとした人だと信じていたんですが…

「飲んだことない? じゃあ、どうぞ」

コップを差し出され、いや法律に反した行為に加担する訳には、なんて言えずに目を瞑り一口ゴクリと……

何これ、爽やかでフルーティー。これが日本酒、いやドブロク?

「あらら。一気飲みしちゃうとは。お酒強いんだね、悠人君。」

洋一さん、ダメだよまた継ぎ足すなんて。これ、ヤバいよまずいよ、止まらないよ……

「ははは、ホントに酒好きなんだ、水みたいにくいくい呑んじゃうし。どれ、もっと持ってこようかな」

この集落で最も悪魔的存在なのかも知れない、洋一さんは。悠人は自ら一升瓶を傾けコップに注ぎ込みながら、これからは彼には細心の注意を払おう、そう決心した。


これはなんだ!

この美味過ぎる鍋は、何なのだ!

味噌で味付けされた鍋は、新鮮な野菜やキノコ類もさることながら、捌きたての猪肉の野生的な味と旨味が悠人の味覚をこれでもかと薙ぎ払っていくのである。

とても一杯では収まらず、お代わり、さらにお代わりを重ねていく。

「どうだ、テメエで担いできた猪はうめえだろう?」

「あ、信太さん。もう、止まらないっす、マジ美味いっす」

「酒も止まらねえみたいだな、また洋一のおっさん、裏に取りに行ってるぜ」

「この酒、止まらないっす。何この鍋と酒の組み合わせ、神ですか?」

「神はオメエだろーが。バーカ」

信太に頭を叩かれ、悠人は大笑いする。

そんな二人を遠巻きに見ている皆の衆は、

「歳が近いからかねえ、」

「シンタがあんなに打ち解けてる姿、帰ってきてから見たことねえ」

「いや。餓鬼んちょの頃からも、見たこたねえ」

「いやいや、餓鬼ん頃は素直ないい子だったべ?」

「そーだったっけ? ま、何にしろ、これも神様のお陰だべ」

「そーそー。あの子がこんなに嬉しそうに話してるなんて… うそ、みt… ヒック」

「初枝さん、泣くなって。あとは嫁さんが来てくれりゃ、言うことねーんだけどな」


何度も述べるが、悠人は酒が強い。四国生まれの男故、強い。産湯は焼酎に浸かり… そんな話はどうでも良い。

さて、宴たけなわとなる頃になっても、悠人は平然とくいくい呑んでいる。洋一は唖然とし、

「神様… 一人で二升は飲んでるよ、こりゃもっと作っておかないと…」

と更なる犯罪行為を決意させたことまでは悠人は知らない。

京を除き悠人にもっとも歳が近いのが信太であるせいか、或いは猟を共にし連帯感が培われたのか、悠人の側には信太がどっしりと腰を据え、こちらはちびりちびりとコップを舐めている。

周囲が驚愕した通り、信太がこれほど人に打ち解けている姿はかつてない。それを知らぬ悠人は自然体で信太に接する。それも相当馴れ馴れしく。側から見れば、兄弟のように。

「女しょーかいしろ、女。女子大生。都会のピチピチのJ D。」

「だからー。俺、女友達なんていないって言ってんじゃん。」

「だいじょうぶ。おまえなら、出来る。お前は神様なんだから、出来る子なんだ!」

周囲の人々は暖かく二人を見守りつつ、片付けを済ませそれぞれの家に帰って行く。

「おーい。アタシ先帰ってるぞー。あんま遅くなんなよおー」

京が悠人を後ろから羽交い締めにしながら言う。

「わーってるって。ちゃんと俺が送ってくからよ。とっとと帰って寝てろ」

すっかり酔いの回った信太が頭をフラフラさせながら京を追い払う。

やがて目の前の小さな焚き火の周りには、悠人と信太だけになる。

「よおーし、今夜は呑むぞお。とことん、飲むぞお。ちゃんと付き合えや、神様よお」

「あは、さっき洋一さんが(これで最後なんだ)って言って、これ置いてってくれたから、これ空くまで、ね」

悠人は一升瓶を目の前に置き、蓋を開け自分と信太のコップに並々と注ぐ。

「よおし。乾杯―」

「ハイハイ。かんぱーい」

二人の夜は始まったばかりであった。


     *     *     *     *     *     *


揺れる焚き火の焔が爆ぜる。

辺りは光一つささない闇黒。悠人はこれ程の暗がりに身を置いた経験が無い。闇は心を開かせるのか、それとも目の前の小さく揺れる焔が心の内を全て吐き出させるのか。

悠人は信太に、これまでの生き様を全て語っていた。無惨な結果に至った就活の事さえも。

「お前、ホント大変だったんだな。ヒック」

信太はコップ酒を一口啜り、ぽつりと呟く。

悠人はこれ程心が軽くなったことは無かった。否、これ程心を開けられる相手に出会ったことが無かった。

「ま、そんな訳で。しばらく厄介になります。それより信太さんは、防大出なんですって?」

焔に照らされた信太の顔が苦笑しているのが見える。

「見ての通り、今はこんな立派な家がたっちまったけどよ。俺が高校の頃は、京の家と大差ねえ程ショボい家だったんだ。親父は俺が産まれる前に死んで。家計も苦しくてな、とても大学行きてえなんて、言えなかった」

悠人は言葉を出さず、頷いた。


高校三年の時だ。担任の先公が「お前、防衛大受けてみないか」って言ってよ。先公が言うに、受験料、入学金、授業料が無料で学生手当っつう小遣いまで貰えるって。俺は飛びついたね。学費払わなくっていい、即ち親に迷惑かけないでいい。高校の成績はこう見えて中々良かったんだわ。だから楽々入学できたよ。入ってみてビックリさ。毎月八万円近く貰える上に、夏と冬にボーナスも貰えるんだぜ。天国かと思ったよ。ま、授業も特殊だし訓練もキツかったけど、俺は元々体力には自信あったからな。餓鬼の頃から親を手伝って畑耕してたからな。それに信用できる仲間も大勢いたし、中々いい学生生活だったよ。卒業したら当然自衛官さ、それも幹部クラス。卒業してすぐ陸自に配属となって、福岡の幹部候補生学校に入ってな。そこで色々訓練してその後習志野の部隊に配属になって。いきなり曹長だからな。そしたらそこの上司が「お前空挺部隊に入ってみないか」って言って。空挺部隊っつうのは陸自の花形部署でよ、訓練は激キツ、頭も馬鹿じゃ務まらねえマジで狭き門な訳よ。しかも候補生の殆どが高卒からの叩き上げの強者達。防大出の幹部生なんて殆どいなかったんだわ。それでもなんとか歯を食いしばってシゴキや訓練に耐え、第一空挺団に入れたんだわ。え、空挺団とは何かって? 輸送機からパラシュートで降下して敵陣の背後を突く、そんな仕事。だから訓練の半分は対人格闘技や射撃。だから猪仕留めるなんざ、楽勝楽勝。それから二、三年経って、丁度中国が尖閣諸島にちょっかいかけ始めた頃によ、四、五年前に新設した特殊部隊の小隊長にならねえか、って話が来てよ。そりゃ舞い上がったさ、この俺が、三浦の貧乏農家の倅のこの俺が、日本の最前線を守る小隊長かよ、ってな。集められたメンツがこれまたスペシャル凄え男達でな。世界各国の首都を言いながら懸垂百回する奴。十メートル先の落下するビー玉を撃ち落とす奴。英語と中国語がペラペラの奴。まさに選り抜きのエリート部隊だったわ。あの頃が俺の、人生の頂点だったのかも知れねえな……


心なしか辺りが暗くなった気がする。空を見上げるも雲がかかっているせいか星一つ見られない。

信太は弱く細くなった焚き火に細い木の枝を何本かくべる。すると焔の勢いが元に戻り辺りは明るさも取り戻す。

静まり返った辺りには虫の音一つ耳に届かず、ただくべられた木々の爆ぜる音だけが風に乗って辺りに広がっていく。


その特殊部隊、正式名称は『特殊作戦群』、略して特戦群、っつーんだけど知ってっか? まあフツーの人は知らねえよな。まあそれぐらい特殊な任務につく部隊だったんだよ。因みにこの話は内緒だからな。絶対誰にも言うなよ。京にもだぞ。もし喋ったら、お前はあの猪と同じ運命を辿ると思え。それ位防衛機密だったんだわ、俺たちの部隊は。アメリカのデルタフォースと共同訓練やった時は実弾で撃ち合ってな、死ぬかと思ったぜ。そんな訓練してるって国民に言えねえだろ、言ったら速攻国会で大問題になるわな。そんなこんなで鬼のような訓練を重ねていって、その部下、いや仲間達とは切っても切れねえ縁となってな。俺の小隊の部下は八人、もう互いに互いの全てを知り尽くして。俺の貧乏農家の話も勿論、県道を走り回ってうるさかった暴走族を叩きのめした話もみんな知ってて。まあ色んな人生送ってきた奴がいたけどな、ああコイツ程酷え人生はねえ、よくここまで来れたな、って奴がいてな。そいつはガキの頃に自分の父親をぶっ殺したんだよ。それも四つか五つの頃に。後ろから包丁でグサってな。なんでもお袋に暴力ふるってた父親を許せなくてやっちまったんだと。で、母親はそれ見てこんな怖え子供は育てられねえって育児放棄して出て行っちまって。その後施設に入って高校まで行って、そっから自衛官になって、訓練頑張ってここに来れましたってよ。参ったわ、タツのヤツには。それがよ、タツは最年少で俺の小隊に来たんだけど、射撃、格闘技、戦術、語学、どれもピカイチで。ちゃんとした親だったら、間違いなく東大に行ってたな、あれは。そいつがよ、何故か俺に懐いて。俺も一人っ子だったし弟分みたいな感じで可愛がってたんだ。まあ俺以外のおっさん連中も相当可愛がってたけどな。そんな俺の部隊に、ある日召集がかかってな。これから特殊任務に入ってもらう、三十分後に準備を整えて再集合だと。皆はまた唐突に米軍と特殊訓練ですかねえ、なんて呑気なこと言ってたけど、俺はその時ピンと来ていた。中国だ。尖閣じゃねえか、ってな。その数日前からニュースで中国の漁船があの辺にウロウロしているって報道されてたから。でも何故そんな大事件に俺らの部隊が? なんて思わなかったね。俺の小隊は当時、自他ともに特戦群随一の精鋭集団だったからな。まあ小隊長の俺が防大出身のいわゆるエリートだったから、それだけの人材を集めたのかも知れねえ。だがそれだけに何か有事があれば真っ先に対処すんのはウチだ、とは日頃から考えてたから、あん時は「ああ、とうとう来やがったか。まあ見てろや」位に考えた訳だ。それが、まさかあんな惨劇になるなんて……


もはや悠人は息をするのも忘れていた。今から十年前位か? 一体何が起きていたのか? マスコミはそれをニュースにしたのか? いや、政府はその事態を国民に知らせたのだろうか?

そんな大事件のど真ん中に、目の前の男が関わっていたなんて…

恐らく信太は話したかったのだろう、誰かに。だがそれは決して許されず信太の心の枷となっていたのだろう。

今日の昼までの信太の挙動がそれを証明していると悠人は推察する。言葉足らず、鋭い目付き、人を信用しないオーラ、男盛りなのにこんな寒村で祖父母と母親の手伝いに没頭。

弱まった焚き火に悠人は細く切った薪をくべ、信太の一人語りにエールを送る。


改めて集められた作戦室には、海自から江田島が来ていた、ああ江田島っつうのは海上自衛隊の特殊部隊、『特別警備隊』な。海自のエリート中のエリート。そう、あの夜、陸自と海自の最強の少数精鋭が一同を会したんだ。それにしてもあの作戦室での部下達の落ち着きは見ものだった、だって明かされた作戦内容に俺は心底驚いていたんだからー 本日フタフタマルマル(二十時)頃中国国籍の漁船二隻が尖閣諸島魚釣島に上陸。漁民を装った海兵と思われるその数およそ三十名、その全てを殲滅排除せよ。確かに今までマスコミに出なかった事件事故は多々あったさ、だがこれ程大きな作戦行動、三十名近くの敵を殲滅、なんて事態は自衛隊創立初の出来事にちげえねえ。俺は内心動揺して部下―と言っても、年下はタツ一人だけだったが、を見渡したんだ。どいつも無表情で、だけど目がギンギンに光っていて。誰一人ビビってる奴はいなかった。寧ろ早く出動させろオーラがドボドボ出てたよ。俺はそれを見て人生で一番の高揚感を得たんだーコイツらとならやれる。この国を守れるっ、てな。支度はあっという間に済まされ、俺たちは空自の用意した輸送機で那覇へ、そこから海自の輸送船で尖閣に向かったんだ。月の無い、星が満天の空に無数に揺れていたのをよく覚えている。俺たち特殊部隊で最も大事なスキルが、精神統一、マインドコントロールってやつだ。島到着まで三十分を知らされ俺は部下達にマインドレッド、即ち最高警戒を指示した。腕時計は二時を指していた。次々入ってくる情報を元に、江田島の保田、向こうの隊長な、と作戦を決め、こっちから四人、向こうが二人上陸し、後は敵の逃走兵の始末やこっちの退路を確保するって決めてな。ウチは俺、副隊長の千倉、富永、タツ…千葉って言うんだ。その四人。向こうは副隊長の城島、山瀬。どいつもこいつも精鋭中の精鋭、本物の一騎当千だ。俺が一番邪魔者じゃねえかと思ったもんだ、いや実際に…


信太は不意に言葉を止め、一心に焔を見ている。

余りに集中して聞いていたので悠人のコップの酒は全く減っていなかった。丁度喉が渇いたのでそれを一気に煽り、半分ほど残っている一升瓶からコップになみなみとつぎ、一口啜る。

やがて意を決したかのように、信太は話を絞り出し始める。


輸送ボートから海に入り、小一時間かけて島に近づいたんだ。敵に感づかれねえようにな。上は月の無え真っ暗な空。下も真っ黒な海。気を確かに持ってねえと、発狂しちまうような闇だったよ。だから最初に上陸した瞬間は敵への恐怖なんかより、フワフワした闇から生還したって、ホッとした気持ちの方が強かったよ。それでも陸に上がった六人はすぐに警戒態勢に入り、俺、江田島の城島、タツが西から、千倉、富永、江田島の山瀬が東から回っていく事に決め行動開始した。すぐに見張の敵兵を見つけて。俺が合図する前にタツがそいつの後ろに回って一瞬で締め殺したよ。ナイトスコープ越しにも何が起きたのかわからねえ位に瞬殺だ。ああ、コイツ味方で良かった、部下で良かったと心底思ったぜ。江田島の城島も目を丸くして驚いてたな。それから俺たちは島の西側の要所で警備している民兵―想定していた通りコイツらは俺たちのような特殊部隊ではなく、金で雇われた民兵もどきな奴らだったから倒すのは容易だった。三時に作戦開始し、四時には島の西半分は完全に制圧した。どうやら敵は東からの千倉達の小隊の侵入に気付き、そっちに向かったらしかったので、俺たちは逆にその背後から追撃することにした。徐々に銃声が聞こえ始め、中国語の怒鳴り声があちこちに響いてくる。中国語に堪能なタツが「奴ら退却するらしい」と伝えてくる。事前調査で奴らの漁船が東側に泊められていたのは知ってたから、海上の補助部隊の保田にそれを伝え漁船の撃沈を依頼した。一人も逃がさない、生かさない。これが与えられた任務だった。俺たちは高揚も焦りも感じず冷静に冷徹に一人一人を始末していった。やがて島の東斜面の中腹まで来ると全く中国語の叫び声や銃声が無くなり、千倉達が漁船で逃走しようとする民兵を壊滅させたと報告を受ける。日の出は六時五十一分、時計を見ると五時五十分。あと三十分程で明るくなってくる、それまでに退却しなければならない。俺たちは耳をそばだて目を凝らし残存兵を探した。最後の生き残りをタツが仕留め、俺は撤収命令を出した。完全に明るくなる前に上陸地点に隠しておいたボートに戻り撤収しなければならない。東の空がぼんやりと明るくなってきた頃、上陸地点に俺達は戻った。江田島の山瀬が首を撃ち抜かれ絶命していた。その亡骸を千倉が背負ってきていた。俺は徐々に明るくなる景色に焦りを覚え、普段なら絶対する確認行為をせず隠していたボートに向かった。ボートには生き残りの敵が隠れ潜んでいた。そいつは俺を見つけると、狂ったような大声を出しながらサブマシンガンを俺に向けたー


信太はコップ酒を口に持っていきゴクリと飲み込んだ。

そして大きな大きな溜息を吐く。まるで心につかえていた物を全て吐き出すかのように。


俺のすぐ後ろに富永が来ていたんだ、俺が確認もせずにボートに近づいて行ったから。俺は胸に何発も衝撃を受けながらすぐに地面に寝転がり反撃しようとしたが、腕も何発か食らいすぐに反撃できなかった。俺が避けたせいで後ろから来ていた富永に流れ弾が数発当たり、その場に崩れ落ちたのを見て、俺はマインドコントロールが出来なくなったー自分の受けた傷の所為でない、自分の失態により部下が撃たれた衝撃と恐怖によってだ。俺は決してしてはならない行為、すなわち大声を上げた、怒りと恐怖に駆られ我を忘れて叫んでいた! 敵は弾が尽きナイフを取り出し俺に向かってきた。俺は叫び続けた、反撃も出来ないまま。部下を失う無情、これから死するであろう無常に向かって叫ぶことしか出来なかった。俺に馬乗りになり敵も叫びながらナイフを振り下ろす。畜生、もう駄目か。その時目の前が真っ赤に染まりー敵の頭が吹っ飛んでいた、頭の無い敵が俺にゆっくりと覆い被さってきた。後で知ったのだが、敵から鹵獲した狙撃銃でタツがそいつを撃ったというー 味方が駆け寄り、首無しの敵の死体を俺から剥ぎ起こし、俺を担いでボートに乗せ、あっという間に俺達は魚釣島から離脱した。防弾チョッキのお陰で胸や腹部は殆ど無傷だったが、腕と足に十発程食らい、出血も相当だった。富永も顔や首に多数銃弾を受け、ほぼ即死状態だった。ボートから輸送船に戻り、中で応急処置を受けながら作戦の報告を口頭で告げる。上陸した実行部隊六名中死者二名重傷者一名。敵兵はほぼ壊滅、島からの脱走者ゼロ。後で知るのだが、敵は全部で三十六名、うち死者三十三名。重傷者三名。俺たちが撤退後、秘密処理部隊が上陸し、死者と負傷者を収容したらしい。作戦としては大成功だ。もし敵兵が一人でも残存していたら、その救助の為に中国軍が動員され翌日には島は中国により実効支配されてしまうところだった。俺たちはヒーローだった。あの島を、あの海域を中国から守ったヒーローだったんだ。それを知っていたのはごく一部の政治家と自衛隊幹部だけだったんだけどな。死んだ山瀬と富永の家族には訓練中の不慮の事故として伝えられたよ。俺は一ヶ月入院し完全に回復した後上官に呼ばれ、東京の市ヶ谷にある陸自幕僚監部に栄転となったぞと言われた。だが感慨は無く、あるのは心の傷〜あの中国兵の叫び声と富永の死。俺のせいで、俺のやってはならない不注意の所為で優秀な部下を死なせてしまった、いや殺してしまった。江田島の奴らや部下達は、気にするな、あの戦闘で死者二名なんて有り得ない、お前は良くやった、と言ってくれるがそんな事はない。山瀬の死は仕方ない、正に「犠牲」と言えよう。だが富永の死は俺が規定通り、訓練通りしていれば決して有り得ない死であったんだ。俺がフラフラボートに向かわなければ、索敵を訓練通りしていたなら、富永が心配して俺の後ろに続く事もなく俺に向けられた銃に撃たれることもなかったのだ。それでも仲間は俺を讃えてくれる、魚釣島のヒーローとして。

違う! 違うんだよ!

俺は、人殺しなんだよ! 


信太の絶叫が集落を木霊する。木で寝ていた山ガラスがバサバサと羽ばたき闇に去って行く。悠人は頭を抱えブルブル震えている信太を眺めながらコップのドブロクを一気に飲み干し、ゆっくりと口を開く。


「信太さん。客観的に言うよ。俺はその部隊にいた訳でもないし、その部下達も知らない。自衛隊のことも知らないし、戦闘のことなんて一ミリも知らない。でもね、信太さん。富永さんの死は、あなたのせいじゃないよ。それだけはハッキリ言える。仲間の言う通り、信太さんの所為ではない。うん。」

信太の震えが止まり、焔越しに悠人に顔を向ける。

「よく言うじゃない、「死に場所」って。残念だったけど、富永さんはそこが死に場所だったんだよ。彼はそこで死ぬ運命だったんだ。もっと言えばー富永さんはそこで中国人に撃たれて死ぬ為に生まれてきたんだ!」

信太は悠人を睨みつけ、

「お、お前、何言ってん……」

「でね、信太さん。その中国人もだよ。彼もそこで撃たれて死ぬ為に生まれてきたんだよ。他の中国人もそう。山瀬さんもそう。その島で死ぬ為に生まれてきて、そして死んでいったんだよ!」

困惑と怒りの表情で、だが口をポカリと開けて信太は悠人を凝視する。

「人ってみんなそうだと思う。京のお爺さんは去年死ぬ運命だったんだよ。信太さんのお父さんも、然り。生き死にだけじゃない、人の行動はそれそのものが運命なんだよ。」

「なんだ、そりゃ?」

「俺が今ここにいるのも運命なんだよ。一昨日、溺死しなかったのも運命。就活に全滅したのも運命。あの両親の元に生まれてきたのも運命。だから、」

悠人は信太に向かい合い、

「俺は今、信太さんの心の叫びを聞くために、生まれてきたんだよ。そして、」

信太は唖然とした顔で悠人を眺める。

「その叫びを受け止め、肯定する為に生まれてきたんだよ!」

信太はゆっくりとかぶりを振るも、言葉が出てこない。

「そして。信太さんはその時に部下を殺し心に傷を負い、今夜俺にそれを話し、最後に救われる為に生まれてきたんだよ!」


気がつくと悠人も叫んでいた! ほんのりと東の空の闇が薄らと晴れていく。二人は気づかなかったが、間もなく夜明けなのである。

信太はそれに気付きゆっくりと立ち上がった。そして目を凝らし辺りの景色をゆっくりと見回していく。

「ああ、あん時もこんな景色だった。真っ暗闇がうっすらと明るくなっていく中で、俺は…」

その薄がりに向かい信太はゆっくりと歩き出す。

「富永…… トミさん。あんたホントいい奴だった、年は三十過ぎだけど若々しくて駄洒落が大好きで… いつも年少の隊長の俺を気遣ってくれて。「あんま気負わないでください、禿げますよ」なんて言ってよ。会いてえよ、トミさん。また一緒に飲みてえよ、トミさん…」

目に溢れんばかりの涙を湛え、片手に持ったコップを高々と抱え、やがてそれを東の空にパッと振り撒いた。その拍子に一筋の大粒の涙が頬を伝った。


「なあ悠人。俺はいつどこで、死ぬ運命なのかなあ」

「知らねえよ、神様じゃねえし」

「いや。神様だろ? 海神だろ?」

「チゲーし。てか、信太さん、もうじき朝かも…」

「な。あ、やべ。お嬢に叱られるわ、神様を朝まで監禁してたって」

悠人はスッキリした顔で、


「ははは。俺は後で京に怒鳴られる為に、この世に生まれてきたんだね」


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