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その後

優美が住むT町と良子が住むK市は、それぞれ管轄が違うため、2人は別々の鑑別所に入れられた。

7月13日、鑑別所に父親が面会にやってきた。


久しぶりに見た父親は顔色が悪く、幾分やつれたように感じられた。

「パパが悪かった。暴力を振るって悪かった。家でずっと監視されて、家にいるのがしんどかったんだろう?。」

優美が黙って頷く。

「2人に対して今はどう思ってるんだ?」

「本当に、申し訳ないことしたと思ってる。私の代わりに、毎日、花供えてくれる?」

「ああ、わかってる。お前はパパを許してくれるか?」

優美がまた頷き、涙ぐんだ。

「ママたちは死んでしまった。自分が何をしたか解るだろう?」

「ごめんなさい。」

「優美が牢屋に入るだけでは、償いにならないと、パパは思う。それは法律上の償いでしか無い。本当の償いは、優美自身がちゃんと更生して、人生をやり直すことだ。優美も自分で、どうしたら2人に謝れるのか、罪を償えるのかを考えて欲しい。」

優美がまた頷く。

父はまだ、何か言いたそうだったが、上手く言葉が出ないのだろう、唇を震わせたまま、目に涙の膜が貼ったかと思うと、がっくりと項垂れた。


「本当に、すまなかった…」

それだけ言うと、父はもう何も言わなくなった。

父の膝にぼたぼたと大粒の涙が次々落ちてきて、父が履いているズボンにたくさん染みを作った。






良子の母と姉も、面会にやってきた。

良子の顔を見るなり、母はわっと泣き出した。

「ごめんね、あんたのこと、何も考えなくて、イライラして、ケンカして、お父さんの悪口ばっかり言って…ごめんね、本当に、ごめん。」

ぐすっぐすっとぐずりながら謝罪し続ける母の姿に、良子は胸が痛んだ。

母が泣いている間、隣にいた姉は黙り込んだままだったがやがて口を開いた。

「家にいるの、嫌だったでしょ?」

良子が無言で頷く。

「私ね、連れ出そうとは何度も思ったの。妹も泊めてくれないか、って友達とかに頼んでみようとは思ったけど、向こうにも迷惑かけられないから、結局、言えなくて、本当に、ごめんね。」

姉の目に涙が溢れて、頬に伝う。

「良子、友達がたくさんいたんだね、クラスのみんな、あんたのこと心配してたよ。佐藤さんと鈴木さんは「良子も優美も、何があっても友達です」って言ってくれてたの。」

良子の目にも涙が溢れた。


家族から逃げてばかりだと思っていた姉は、ちゃんと自分のことを考えてくれていたのだ。



審判の結果、N県家庭裁判所は2人の処分について、この事件の根本的原因は家族の言動により精神的に追い詰められた2人がその状況から脱出しようと結託し、1人は放火、1人は斧による殺害に至ったと認定した。


犯行が残忍で、計画性が認められる重大事案ではあるが、良子のこだわりが強いという特性や、優美の家庭からの逃避を願う気持ちの強さにより、抑うつ症状が強まっていたことに加えて、2人とも謝罪する気持ちがあること、家族からの処罰感情が強くなく、また更生を望む気持ちもあることを考慮し、長期間の矯正教育を施して更生を図るべきだとして、少年院送致の保護処分を決定した。


送致された少年院で、優美は毎朝、自分から教官に「おはようございます」としっかり挨拶し、年長者への言葉遣いも丁寧そのものだった。


良子は幾分、素直になったように感じられ、食事をきれいに食べたことを褒められると「小さい頃からごはんは残さないようにしてます。」と微笑んだ。 


2人とも、離れ離れにこそなったが、いつか会えることを願いながら日々を過ごしている。

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