晩秋の森で
古い樹皮を重ねた厚着が
剥がれかけた森で
雨上がり木々の隙間
青く香る風が
静かに流れている
日常にかかる雲の灰色
厚くなれば雑踏に不在届け
踏み出せば沈む
獣道は赤く落ち葉で染まって
朝霧のように滲む
木漏れ日は揺れる
白く吐息をなぞりながら
ねじれた木々から
点々と透明な雫
降り注ぐ川の底で
色とりどりの小石は
水面の影を映して
宝探しするみたいな
理由のない足に
行き先はないけれど
行き止まりなら越えられる
対岸へ渡るように
影重なれば
澄んだ沢は
深く暗い
解き放たれた対価
前払いは見えないものへ
そっと陰から悪戯したがってる
陽は何時しか高く昇って
身の丈ほどの切り株に
絡んだ蔦
照らし出して
見えないもの
見えていくように
消える
雲は風に
心臓が跳ねる
時々の異音に
雑踏から踏み出すことは
人に守られないこと
見えないものに
見られるということ
ぼんやりとわかっていた
ここが居場所でないこと
コンクリートと曇り空の
日常を離れた対価
前払いは見えないものへ
そっと陰から悪戯したがってる