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ヤタノカラス  作者: えるらんでぃす
8/8

再会


◇◆◇◆◇◆


内閣特務調査管理局・副局長室


副局長席、咲宮耶の前で後ろ手に手錠をされた男が一人立たされていた。


男の名は『草薙一真』


この部屋には現在、男の他には咲宮耶とその右隣に立っている秘書官の小日向のみである。


(おいおいおいおいおいおい!どうして俺はこーなってるんだ?電車が緊急停止したかと思ったら、いきなり小銃持った自衛隊員に囲まれて銃突き付けられて、変なお姉さん達来たかと思ったら、麻袋被せられて、地下鉄の外に出たと思ったら、なんか乗せられて、多分あのローター音はオスプレイの新型だよな?で、この部屋に入ってやっと被ってたの取られたと思ったらこれよ。ここどこだ?)


「あのぉ・・・」

男が恐る恐る言葉を言おうとすると


「黙りなさい!話してよいとは言っていません」

小日向が男の言葉を遮り、男を冷たい視線でみつめている。

咲宮耶が初めに口を開くまで、五分ほどこの状況が続いている


咲宮耶が手元にある資料から男に目線を映して、やっと口を開く

「今までどこにいたのですか?」


一真はやっと口が利けると安堵して返事をする

「えっ?あ!はい!昨日の夜は明け方まで居酒屋でバイトしてまして。今日の昼は、お城でイベントのバイトをして…」


「違います。その前です」

咲宮耶と小日向の表情がきつくなる


「えっと、その前は…、バイトをしながら色々な県であちこちを…」

咲宮耶と小日向の表情がさらにきつくなる


「違います!その前。この日本に戻ってくる前です。国を転々と…」


「国とは?」

咲宮耶と小日向の表情が怒りに染まり始める


「初めは…、スペインで、フランス、スイス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、イギリス。アイスランドから北極へ、で、カナダ、最後はアメリカかな…はは」


一真は指折り数え少しおどけながら話しているが、咲宮耶の口は限界とばかりに、わずかだが震えている

「18年間ずっとですか?」


「あー、実は子供の頃の記憶がおぼろげで、物心ついたと時はもうスペインに居てたんです。そこからの記憶ははっきりとしてるんだけど…」

「記憶が・・・。龍蔵さん…。あなたの祖父は?」

「あー…、じっちゃんなら去年アメリカで死にました」

「そうですか・・・」

「と、言うか…。やっぱりお二人とも政府の人ですよね~?」


咲宮耶が軽くため息をつく

(そうですか…、覚えていなんですね…)


「はい。私は内閣特務調査管理室・副室長。通称ヤタガラスの一ノ瀬咲宮耶です。そして彼女が…」

小日向が咲宮耶が言い終わるまえに被せて、はっきりとした口調で答え軽く会釈をする


「私は。咲宮耶さまの筆頭秘書を務める。小日向と申します」

(この男があの事件の生き残り…だなんて)


「ヤタガラスの事はわかりますか?」

「えーと…。カラスの親戚かなんかでしょうか?」

一真は間の抜けた返事をする


「おじい様から何も聞かされてないのですか?子供の時の事や私たちの存在等を」

「ん~、じっちゃんはあまり昔の事や難しい話とかしたがらなかったんで。わからないです」


咲宮耶と小日向が揃って、大きなため息をつく

「では、質問を変えます。あなたは先日岐阜の山中で得体のしれない物から人を助けましたね?」


五秒ほどの沈黙の後

「えーと…。さて、なんのことでしょうか?」

一真は目を泳がせ額に汗をながしながら答えるが、咲宮耶と小日向は目を細め鋭く一真をにらみつける

「えーと…」


さらに沈黙が数秒続くが、痺れを切らした小日向が口を開く


「あなたが何故頑なに話さないかの意図が私にはわかりかねますが、姫、咲宮耶さまはとてもお怒りです」

一真は(姫って…)一瞬咲宮耶を見るが、咲宮耶は瞬きもせず一真をきつく見つめる。一真はの額から汗の量が益々増えていく


「貴方の襟には超小型の発信機が付いています」

一真は自分の襟を触ると小さな粒上の何かが、確かについているのを確認すると、先ほどまでの大量の汗が一瞬で引いていく


「それは、先日あなたが助けた男性が、意識の消える前にその発信機を付けました。その発信機のおかげで、こうしてあなたを確保できたと言うわけです」

「さらに、現場に残されていた映像からあなたが同一人物であることが確認されています」

小日向が端的ににことの経緯をしかたなく説明している


「いやぁ、なんのことやら…」

それでも、目を泳がせながら否定する


「この期におよん…」

「やっと、やっと会えました…かず君」

それまで沈黙していた咲宮耶が小日向の言葉を静止するように口を開く。その目には涙が滲み声は少しふるえている

その言葉を聞いて一真と小日向は驚く。小日向は今まで見たこのない姫の素顔に

一真は背筋に電撃が走り、走馬灯のように何かを思い出す。そして思いがけずに口にだしてしまう


「さくちゃん?」

咲宮耶の顔が一瞬明るくなる

「あの!やんちゃな、さくちゃん?!」


ガン!

咲宮耶が机のグラスを一真に投げつける

その顔は一瞬で怒りの形相にかわる


「思い出しましたか?」

「あ、うん。小さいころ。女の子とよく遊んでた時の記憶が、さくちゃんにはいつも頭を小突かれた。でも、もう一人…」


咲宮耶の顔が怒りの形相から期待のまなざしに変わる。そのとなりでは、いつも無表情の小日向も珍しく口がパクパクしている


「んー、、、。・・・。あっ!かぐちゃん!かぐちゃんはいつも優しくしてくれてたな。さくちゃん、よく、かぐちゃん怒られてたような…。でも、他はなんかおぼろげで、もうひとつ…ごめん」

「そ、そうですか…」

「かぐちゃんは?」

一真が尋ねると、咲宮耶は一層悲しげな顔になり、首を横に振る

「亡くなりました…」

(そこはおもいだせないのですね…)


「そうなんだ…」

そういった瞬間、一真の目から涙が次から次へとあふれてくる


「あれ?あれ?なんで涙が…。あ、ごめん知らなかったから」


それにつられる様に咲宮耶も目が涙で潤むが、すぐに表情を繕う

「いずれ、すべて思い出すかもしれませんね。で、助けた後何故逃げたのですか?私たちが急行した時には、もう居ませんでした」


一真は涙をぬぐいながら、観念したのか話し出す

「実は、昔からじっちゃんに、日本の政府や軍の人間に捕まると人体実験される。って聞かされてたんだよね。だから絶対に捕まるなって」


「龍蔵さん…。まぁ、当時はそう言われても仕方ありませんでしたね。否定はしません。ですが、今はそんな事はありません。あなたは、ある事故がきっかけで、龍蔵さんと共に国外へ行かれてたと言うことですね?」

「そういうことになるのかな?じっちゃんが死ぬ間際に『自分のルーツがどうしても知りたければ、日本に行け』と。あれだけ日本には近づくなって言ってたんだけどな。で、いざ来てみたはいいけど、右も左もわからないし、お金は無いし、バイクで走っても、道を間違えて山の中を走り回るハメになるし、ガス欠にはなるしで。で、あの山小屋を見つけてバイトをさせてもたってお金とガソリンを分けてもらって。あとは、その時々の日雇いかな」

「なるほど、その時あの事件に遭遇したと?」

「山をおりていたら、戦闘音が聞こえてきたし、なんとなく状況は分かったんで」

「状況は分かった?」

「一応、じっちゃんに教えてもらって、あの手の輩とは向こうで何度も戦ったことがあったからね」


「そうそう!あの人たちは無事だった?」

一真はもう自分が助けたのがバレた事よりも、ずっと気になっていた


「ありがとう。あなたのお陰で全員助かりました。男性二人はかなり重症でしたが…。それでも、あの状況で助かったのは幸いでした。本当にありがとう」

(龍蔵さから戦闘訓練は受けてきたんですね、それならある程度は納得できます。ですが、あのマナの量…、やはり姉さんが)


一真はもう自分が助けたのがバレた事よりも、ずっと気になっていた

「日本ではあれは日常茶飯事なんて、ことはないよね?」

「あんなことが、日常茶飯事なんてことはありません。かなり稀な状況です」

(確かに増えてはきているのですが…)

一真は『よかったよかった』とウンウンうなずいている


「さて、あなたのおかれている状況ですが。お礼を言いたかったのも事実ですが。その力、とても見過ごすわけにはいきません」


一真は『えっ!?』と驚いている。これで何事もなく開放されると思っていた


「この日本は法治国家です。事象改変する程の力を持っている人はごくわずかです。これだけの力を持っている人を野放しにするこができないのです。放置することは国家安全保障上考えられません。そこは理解していただけるかと思います。あなたと危惧している人体実験は決して行いません。ですが、各能力等の数値、適正等の身体検査は受けて頂き、今後の進退については我々の組織の一員になってもらいます」一真はさらに驚きの表情とやってしまった事への後悔の表情が一緒になっている


「もちろん、ランクや内容にも寄りますが、報酬もしっかりと出しますので衣食住も確保されます。色々と覚えていかなければならない事も多くとても大変ですが。満足いただけるかと思います。それに、あなたのおじい様、龍蔵さんは我々組織の重鎮でしたし、あなたの言うルーツもここに有り、失われた過去や記憶も取り戻せるのではと思います。ですので…、今後の選択はこれ一択です!」


「えっ!?少し考えさせていただくには…」


「「ありませんっ!」」

咲宮夜と小日向が同時に言う。そして咲宮夜が続きをいう


しかし、一真は次の咲宮夜の一言であきらめの表情になる


(姉さんはきっとそんな事望んではいないと思うけど。ごめん、きっと怒られるよね…。でも彼が必要なの…)

咲宮夜の心は罪悪感でいっぱいになりながら、その一言を口にした


【神楽耶もきっとそれを望んでいます】


一真はこの『神楽耶の望み』と言う言葉の重みを無意識で強く感じていた


・・・次回『一真』

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