捜索
《国立国際医療センター・駐車場》
4人娘達が車両の前で皆どうしたものかとうなだれている。
柚子はブツブツとぼやき、立花はやれやれといった感じでたばこを加え、美甘にいたってはウトウトと今にも瞼が閉じそうになっている。
玲は生成AIが作った写真をみながら(30代男性…30代男性…)と繰り返しつぶやいている。
そこへ、車内の通信機に本部からの連絡が入る。
「第7調査隊に通達。緊急クエスト発行完了。トレースシステムに対象の位置を表示できます。ただ、シグナルが微弱な為、トレース範囲は半径約一キロです。ただし、地下道などではさらに反応は弱まりますので注意してください。先ほど対象の反応を名古屋市内にて確認されました。情報は常にそちらに送ります。調査隊は速やかに対象の確保をお願いします。速やかに確保をお願いします。重要なので2回言いました。それでは健闘を」
「了解!みんな、行くよ」
弥生が運転席に乗り込み、他の三人をうながす。
名古屋なら、先日の事件があった場所からもそれほど遠くはない。
四人が乗る車が高速に向かって走り出す。
四人が出発してから、ほどなくして咲宮耶が連れを伴いエントランスから出てくる。すると一台のリムジンが咲宮耶の目の前で止まる。運転手が後部座席を外から開けて咲宮耶が中に入る。咲宮耶の隣には既に女性が座っていて、携帯で話している相手に「姫が戻られました。では、後程」と早々に携帯を切る。彼女は『小日向 楓』副局長付け筆頭秘書官であり咲宮耶のカラスチームでのサブリーダーである。そして、この車両に乗る者も含め彼女の秘書官は全てチームとして兼務している。彼女らは咲宮耶の事を敬称である『鈴の姫巫女』。そう、姫と呼ぶ。
「おかえりなさい姫。容体はどうでしたか?」
「良くはないわ。もう現役復帰は難しいと思う」
「でしょうね。あの状況ですから。問題はあの班の今後と、謎の人物ですね。それにしてもさすが榊さんですね、鈴をつけてくれて」
「ええ、これでやっと動き始めれる…」
咲宮耶は少し遠くを見つめながら言うと、それを引き戻す要に小日向が被せる
「それで、このまま局にもどりますか?」
「いいえ。鈴木の東京本家へお願い。調べたいことができたわ」
黒のリムジンは走り出す
《名古屋市内高速道路》
都心を出たころ、弥生以外はみんな車両の中で眠ってしまっていたが、みな何かを感じるのか、名古屋市に入ったころ、おもむろに目を覚ましだす。
「すみません、眠ってしまいました」
柚子一番初めに目を覚まし、弥生に謝る
「気にしなくていいさ」
美甘は目をこすりながら、受け取ったデータから対象の位置をモニターに写しだす。
「範囲広すぎ。もう少し狭める」
美甘がパタパタと指でキーボードを叩き始めると。
助手席に座った柚子がモニターを見ながら目標地点を弥生に指示する。
「ちょっと遠いねぇ、移動されるとやっかいだ。ちょっと飛ばすよ。みんなつかまんな」
車両が勢いよく走りだす。
柚子が手すりをにぎりしめながら後部座席の二人の様子を伺うと、二人とも必死の形相になっていた。ほどなく車両高速をに出ると柚子が、みんなで助けた紀村一家のその後を話しだす
「そういえば。病棟で確認したんですが、理花ちゃんとお母さん助かったみたいです。でも紀村さんは重症らしく…、どうなるかはまだわからないそうです。3人ともまだ集中治療室で面会ダメみたいです」
「あの状況じゃあね、あたしらだって本当によく無事でいられたと思うよ。まちがいなく全滅しててもおかしくない。生きて…しかも、こうやって五体満足でいられるのが奇跡さ」
やよいは背筋が凍るおもいで、あの時の状況を思い浮かべながら話す
「私たちがこうしていられるのも、そのなぞの人のおかげなんですよね?どんな人なんでしょうか…」
柚子がそれに答え、柚子と弥生二人の会話が続く
「見つかればわかるさ。それに…、みつけないと、マジでわたしらの今後はヤバイだろうしね」
一番年長であり、みんなの中でカラスの経験が長い弥生が続ける
「榊さんがのあの状態じゃあ生きてるのが奇跡。回復しても、もう現場復帰は無理だと思う。そうなるとこのチームは調査班の規定から人数と能力不足で解散ってことになりかねない。いままでは、神器所有者の榊さんが居てくれたおかげでギリギリこクラスでとどまれてただけさ。だから、この緊急依頼をこなないと。解散保留にすらいけない。逆にいえば、これを早急にこなせれば副室長も残す方向に考えてくれるはず」
「ただ…それもいちじだけだけどね」
他三人の表情が一瞬明るくなりかけてすぐに小さな驚きの顔になる
「アタッカー不在…」
「今さぁ、カラスじゃ慢性的にアタッカーが不足してる、適正を満たす人間が圧倒的に少ない。養成所では常に青田刈りが始まってて。うちらみたいなとこに来てくれる、もの好きはほとんど居ないのが現状さ。副局長のお墨付きでもありゃあいいんだろうけど。正直それも難しい」
「あたしらは、真剣に今後のことをそれぞれが考えないといけない。ま、今は目の前の緊急クエストだけどね。なんか、辛気臭い話しちまって悪いね。おっと、このあたりだ。さぁ、着いたよ」
《名古屋城》
徳川家康が関ケ原の戦いの後、豊臣家の備え、江戸から今日への交通の要衝、巨大経済圏の要として築城された城・・・と一般の歴史ではそうなっている。が、じつはそれだけではなく、有事の際のこの名古屋が江戸の代わりをする為でありもあり、闇の脅威に対しての基地的要素もあったらしい。
そして、当時は本丸を含む四隅の櫓が要となって強固な結界を張り、要人を本丸御殿で守りながら戦えるようになっていた。
今では、アメリカの空襲で東北櫓が焼けて、その機能を失って、観光の要になっている。
車両は鴉の中部支局にではなく、城の正門前駐車場に止まり、中に美甘だけを残し残り三人が出てくる。
「しかし、極秘扱いってどうなんですかね?」
柚子がいぶかしげに弥生と玲に問う。
「さぁてね。そんなん、私だってわからないさ」
「わたしも、まったく・・・。でも、あれだけの事をやってのけたのが本当なら、わかる気はするんですが・・・」
「まぁね。ありゃ間違いなくSクラス以上の人間でないとできない・・」
ただ、はっきりしてることは。その野郎はとんでない奴だって事と、このミッションを成功させないと、私らのチームは間違いなく解散ってことだね」
はぁ・・(三人がほぼ同時にため息をつく)
「さて、気を取り直して。美甘ちゃ~ん!ガイドよろしく~」
「・・・ん」
車両に残った美甘がマイクのスウィッチをオンにして短くうなずく。
「正門入って右。二の丸広場」
「「 りょ~かい! 」」
三人は駆け足で正門をくぐる。
門をくぐると、目の前に大きな人だかりがあり、その先ではご当地武将によるイベントが催されていた。
イヤホンから美甘の声が届く。
「その先に反応・・・」
「これだけ人が多いと、どれだかわからんぞ」
やよいの言葉に柚子も同意する
「さすがにこの中からさがすのは、ちょっと・・・」
「30代男性、30代男性、30代男性、30代男性…」
玲はオウムのようにぶつぶつとつぶやいている
すると人だかりから大きな歓声が舞い上がり拍手が巻き起こる
そして、三人は人だかりが四散していく波に飲み込まれていく
「うわっ!!ちょっ!ちょっと!!」
人だかりにもまれながら三人のイヤホンから美甘の声がかすれて聞こえる
『信号が移動・・・その先の小さな建物に入った・・・』
三人はかすかに聞き取った場所を目指して懸け分けていく
が、その人だかりから三人が抜けて建物まで辿り着くのに四~五分はかかってしまう
ようやく建物にたどり着くと入り口には警備員がおり、柚子が身分証明書(環境省職員)を見せて、事情を説明し中に入れる。
中は更衣室になっていて、先ほどのイベントで武将に扮していたイケメン達が着替えをしていた。
弥生が「ひゅぅ~っ♪」と口を鳴らし
玲は手で目を覆い
柚子は慣れたものなのか、玲が握りしめていた写真をイケメン達に見せながら人を探していることを説明する。
すると、信長の扮装をしていた男性が代表と言わんばかりに近づいてくる
「あー、その兄さんなら…」
奥をのぞき込みながら仲間に
「あれ?足軽やってくれてたエキストラの人は?」
奥で同じく足軽の恰好をしてお着換え真っ最中な男性が返事をする
「とっとと着替えて、挨拶して出ていきましたよ!」
「だ、そうです」
信長の恰好に扮していた男性はぶっきらぼうに答えると
「お姉さん方どう、この後俺ら打ち上げするんだけど一緒に行かない?」
「はいはぁ~い!ありがとぉ、じゃぁ、さよならぁ」
まんざらでもない顔の弥生と顔を真っ赤にして今にも湯気が噴き出しそうな玲と二人の腕をつかんで建物から出ていく柚子
「まったく~…仕事!仕事!」
するとイヤホンから少し慌てている感じの美甘の声がする
「対象はこっちに…向かって高速移動中!どうしよ~来る来る!」
「確保っ確保っ!すぐ行くからっ!」
三人が元居た駐車場へ走り出す
「えっ?待って!どれどれっ!」
美甘はイヤホンを脱ぎ捨て慌てて車両から飛び出る。すると駐車場の出口付近に向かって走ってくる男性を見つけるが、自分達の車両とは反対方向。美甘も走っていくが、男性はバイクに乗り込み、そこへ正門から、慌てて走って出てきた三人とすれ違いながら走り去っていっていしまう。
ぜぇはぁと息を切らした美甘と三人は合流する
「どんだけ早着替えなんだよっ!」
「もぉ~!早すぎ!」
弥生と柚子は文句を漏らし
「30代男性…30代男性…早すぎです…」
玲は息をきらしながら相変わらず繰り返し
「お…お…こっ…た…」
美甘も息をきらせながら言葉になっていない
四人は急いで車両にもどると、美甘が何も言わず自分の席に座る。おもむろにポーチから棒のついた丸い飴を紙包みからだして口に咥える
それを見て、同じく席についた他の三人は揃ってため息をつく
そして…
美甘が腕まくりをすると、高速でキーボードを弾き始める
「あたしゃ知ぃ~らないっと」
「あちゃぁ、美甘ちゃんスイッチ入っちゃいましたね」
三人は見守っていると、数分も経たずに美甘が口を開く
「対象は現在位置から南へ逃走、車両とナンバーを特定…、各所の監視カメラと追跡信号をリンク、予測AIでサポート、画像に表示、ナビゲートします」
「おー!きたきた。走らせるよー」
「車両所有者情報で本人特定、草薙一真35歳住所職業不定、一月にアメリカから入国。事件当日映像資料から体格車両から同一人物と認定」
「あちゃぁ、色々ハッキングしちゃってますね」
「ま~、結果おーらいでってことで」
弥生と柚子は他人事のように話しているが、生真面目な玲は顔面蒼白になっている
「玲もそろそろ慣れないとね」
車両が赤信号につかまらないよう、裏道を走りながら対象においついていく
「おっと、そろそろ追いつくよ。ん?地下駐車場?」
地下駐車場に入るとバイク置き場の近くに車両を止め美甘を残し、三人は駆け出していく。
「バイクはこれだね」
「そのナンバーで間違いないです」
辺りを見回し、階段を見つけ先をいくと美甘からまたも通信が入る。
「対象が高速で動きがしました!」
弥生が『しまった!』
と慌てて走り出す。階段を上った先の目の前に地下鉄の改札口があった。
「柚子と玲はこのまま地下鉄で。私は車両に車両に戻る」
と二人に指示をだす。が、美甘からすぐに通信が入る
「対象をロスト・・・」
次の行動をとろうとしていた三人がうなだれる
「とりあえず副局長に報告。私らはこのままバイクに戻ってくるまで待機だね」
弥生が仕方なく…と、皆に伝える。
「ここで地下鉄に乗り換えたとなると、結構遠くまで行くかもね。こりゃ数日ここで張り込みってこともありえるかも」
「車両の中で数日かぁ…、さすがにきついねぇ」
柚子が手を広げ指を親指からひとつづつ折って数えていく
「バイクの燃料が少なかったから、最悪数週間ってことも・・・。これは副局長とも要相談で人員を増やしてもらわないと」
「まいっちゃいました」
弥生と柚子がそう話していると玲が
「副局長からそこで待機…と」
『『えっ?』』
外で各種緊急車両の音が激しく鳴り響き出し地下鉄の改札口の方から大きなアナウンスが聞こえてくる。
そうこうしてるうちに、この地下駐車場にも緊急車両が次から次へと入ってくる。
美甘と玲を車両に残して二人が地下鉄の改札口にかけていく。
『みなさんっ!職員の指示に従って速やかに避難してくださいっ!』
何がおこったのかと、弥生が身分証を見せて鉄道職員に事情を聴く。すると
『先ほど出発した車両に爆弾が仕掛けられているとの通報を受け大騒ぎです』
『自衛隊の爆弾処理班の方がこちらに向かっています』
「ばっ爆弾!?」
二人は思わず声を荒げる。そこに玲から通信が入る。
「…えっとです。私たちはこのまま自衛隊の爆弾処理班の方たちと一緒に地下鉄の車両に向かい、対象を確保せよ。・・・とのことです…」
???
四人は口を開けて絶句してしまう。美甘に至っては飴だまを床に落としたまま固まってしまう
「あ~…、そういう事ね」
弥生が最初に口を開く
「誤報さ。煮えを切らした副局長がやっちまったって事だね。全く美甘といい・・・血はつながってなくても、間違いなく親子だね」
「なるほどぉ」
柚子も納得した顔になっている
玲はまだ固まっている
自衛隊が到着して隊長から事情を聴き、防護服を身に着けた弥生と玲が地下鉄の車両に到着すると、既にそこは全ての乗客が避難完了しており、自衛隊員から銃を突き付けられ後ろ向きで立たされている男性が一人だけ居た。
(あ~、爆弾魔犯人にされたんだ)
弥生は先ほどまで二の足を踏まされた怒りもどこかに飛んでいく
二人の到着を見て、隊長が男に振り向くよう指示をする
『こちらを向け!』
「貴方は、草薙一真さんで間違いないですね?」
そこには、情けない困った顔で立たされていた男は涙目で二度首を縦に頷いた
・・・次回『再会』