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ヤタノカラス  作者: えるらんでぃす
6/8

失いし者が繋ぐもの

《国立国際医療センター》


その最上階特別エリア一室に五人の女性たちが榊の寝るベッドを取り囲んでいる。昨日、榊と生死を共にした同じチームの四人。そして内閣特務調査管理局・副局長『一ノ瀬 咲宮耶』


ヤタガラス実働部隊の総司令官であり、別省は『鈴の巫女姫』管理局の実質最高責任者でもある。形式上局長は主に国会議員が歴任し、表面上の役職であるが、この局長のポストには必ず元ヤタガラス又は適正を持った元局員が就くことが殆どである。この副局長にランクSSSのチームリーダーが兼任している。そして、ランクSSSはこの国には二つしか存在しない。

もう一つのSSSは管理局の管轄外として別の任務を遂行しており、この二つがヤタガラスのトップと言える。ただ、その下にはランクSSの部隊が複数あり、このSSが現場での最高戦力として各地に派遣されている。

現在は全国に支局が複数あり、それぞれの支局に必ずランクSSのカラス一つは所属している。その所在は主に色々な庁舎の中に存在するが、神社仏閣、歴史施設、交通機関等、その形態や所在は多岐に渡り、支部や本部各課の分室等も各地に点在している。

この施設もその一つであり、ここの最奥にある病棟はヤタガラスの専用で、任務やクエスト中にけがや感染等の治療施設でもあり最先端の研究施設としても機能している。

榊はかなりの重症で三日ほど死地を彷徨いやっと目を覚ました。


その榊はベッドで横になったまま、バツの悪そうな申し訳なさそうな顔で五人を見回す。

「すまんな、みんな。この体たらくだ…」


榊を挟み五人の反対側に主治医が榊の状態を説明する

「さすが榊さん、驚異の回復力です。ですが…浸食が激しかった右足と左腕は…、もう元に戻りません」

榊が自分で失った、片腕片足を無くした体を五人に見せる。五人は、言葉を失うもの、涙するもの、苦い顔をするものとそれぞれ反応は違った。


「この状態では現役の続行は難しいとしか言わざるをえません。年齢的にも既にピークは過ぎており、引退をお勧めします。不自由な部分も多々あるでしょうが、普通に生活する分には問題ないかと。あの状況で命があり、この程度で済んだ事こそ奇跡に近いと思われます。今後の事は副局長とご相談を。このまま問題なければ、あと二週間ほどで退院できると思います。それでは失礼します」


主治医はそういうと部屋の出口へと歩き、咲宮耶とすれ違いざま軽く耳打ちをし出て行った。

(後で少しお話が…)


その瞬間に被せるよう榊が少し大きな声で話し出す

「まぁ、なんだ。命あっただけでも拾いもんだ。みんなそんな顔をせんでくれ。皆は軽傷で本当によかった」

「それに…。あれは間違いなくランクオーバー。とても、俺たちのランクで処理できるはずもなく、しかも完全に準備不足。あんな状況に対応できるのは、準備万端のAクラス。即応できるのはSクラス以上くでなければ・・・」


「で、榊さん。あの時何があったの?この娘達の報告書では肝心なところがわからないの」

咲宮耶は榊を急かすように先を促す


「それについて…。意識朦朧としていて、俺もよくわからんのだ。ただ、光があたり一面を照らした時、一人の青年が現れた。年はそうだな、副局長と同じくらいだろうか。そして何故か雪椿を彼に託した。何故だかわからない。そうするべきだと直感なのか、ひょっとしたら雪椿自身が選んだのか…。彼に雪椿を渡したあとはほとんど覚えていない。だが、最後に雪椿が俺になにかを言ったような…。神器の声が聞こえない俺に解るわけもないのだが…」


「そう…、そうなのね…」

咲宮耶はそういうと、何か遠くを見つめるように普段ではあまり見せることのない優しい顔をする


「すまぬ、俺にはその程度しか。しかし、その後はどうなったんだ?」


「そうね、ここで皆に説明するわ」

咲宮耶は立っていた五人にそれぞれ椅子にすわるよう促す。

「私たちが到着した時、半径にして約一キロ、あたり一面が氷の世界だったわ」


咲宮耶以外全員の顔が驚きの表情に変わった。


「それを間近で見たとき、同じく絶句したわ。あのおびただしい数の魍魎が全て氷の彫像と化して活動を停止し、瘴気も完全に浄化されていたていたの。そして、その現象は、一瞬でおきた。しかも、あなた達を巻き込むことはなく。さらに、約5分後。何もなかったかのように全て霧散していったわ」


榊は納得したような顔で

「神器解放…」


「そう、あの状況ではそれしか考えられないでしょうね。そして…あの場にあった神器は一つ」


『「雪椿」』

皆が口をそろえて言う


「指揮車のデータログには、雪椿自身からのアクセスが確認されたの。しかも、覚醒プロセスまで許可され、第二形態までいってる。文献を調べると、雪椿が以前に覚醒した時にも似た状況だった記録が残っていたわ」


「その雪椿は?」

榊が聞く


「ヒビの入った枯れたコアだけが残っていたわ…。今は、一応休眠室に」


「調査班の判断は、雪椿自身がホストを変更、ホストのマナを使って強制覚醒。そして固有能力の使用。その負荷に耐えられなくなり自壊。神器は意思を持っているわ、榊さんとみんなを守るために、自らそれを選択した。それを可能にしたマナを保有し供給した人物がいたからできた。しかも、覚醒に至るには神器の声が聞こえなければできない、そんなこと誰がしたのかしら?」

副局長以外のみんな、下を俯いて悔しがるもの、さらに涙するもの。あの時は全員が死を覚悟した。それを救ってくれたのが神器だと知り、自分たちのの不甲斐なさを改めて自覚すると同時に疑問の顔にもなる。


「私が雪椿を渡した、あの青年?なのか?」


「それしか考えられないでしょうね」


「でも、この現代においてマナの保持者は厳密に管理されています。そんな事がありえるんでしょうか?聞いた状況から考えると。マナの量は間違いなくSクラス以上です」

神原があり得ないと口を挟み、他の娘達も同意だとうなずく。


「そうね、まずありえないわね。でも、状況がすべてものがたっているわ」

(そう…間違いない、これだけのマナの量と神器と語れるのは、ひとりだけ…心当たりがある…)


「でも、残念なことに、とても恥ずかしがりやらしく、その後の足取りが全くわからないの」


「それなんだが…」

榊は一瞬思いだした顔をして

「雪椿を託した時、彼の服に発信機を付けたと思う…」


「本当に?!」

咲宮耶は椅子から突然立ち上がり叫んだ。これも普段の冷静な彼女からは想像もつかない挙動だった

(今までマナトレースをしても見つけることができなかった彼をやっと見つけることができる)


「榊さん。ファインプレーです!…そういえば、リーダー不在で手の空いている人たちがここに四人もいるわね。ちょうど良いわ、あなた達四人に副局長権限で特別クエストを発行します。早急にこの重要人物の確保をおねがいします」


エーーーーーーーッ!?


「返事は?」


ハィーーーーーーッ!


四人なにがなんだかわけもわからず、一目散で病室から飛び出していく。

(みんな早く彼をみつけて)


「副局長。いつものあなたらしくもない。そんなに重要人物なんですか?」

残った副局長に榊が問う。


「かぐやシンドローム…」

それは過去に起こった忌まわしき事件・・・、自分の姉や大量の関係者や子供達が死に、民間人までも巻き込ま大事件・・・


「まさか?!そんな」

榊が驚愕の表情にその顔をゆがめると、突然咳き込みだし胸を抑える。それを見て、副局長がナースコールをする


「彼は間違いなくその唯一の生き残り」

(そう…。華宮耶…、私の姉から愛され、力を譲り受けた人…。やっと、やっと、糸がつながった)


榊が詳しい事情を聴きたがっていたが咲宮耶は濁すようにその先は話さず榊の残った足にそっと触れる


「榊さん、みんなに心配かけさせないと無理をしてもダメですよ。まだ完全に闇が抜けきっていなのですから。この件は快方した時に改めて話します。もちろん今後のことも含めて。でも今は、まず安静にして体を癒してください」

そういうと、入ってき看護師と入れ違いで病室を出ていき、外で待機していた秘書に緊急クエストの発行と発信機のトレースシステムの構築を早急に行うように指示を出す。

そのあと、ナースセンターに控えていた主治医と共に奥の一室へと入る。



「早速ですが、榊さんの体から微量のダークマターが検知されました。同様に自衛隊員の体からも検知されました。ダークマターは自然界ではかなり稀にしか検知されない物質です。それが、あの状況で検知されたということは、禍津化した魍魎に二人は襲われたことになります。しかも、それは短時間で急激に成長して禍津化し、大量の瘴気をまき散らした。意図的な何かを感じざるをえません。一体何が始まっているというのですか?それに、微量とはいえダークマターを浄化するなんて、そんな事ができる鴉は限られています」


「私にもわからないわ。でも、文献にあった通り。大きな変遷が始まろうとしてるのは間違いないでしょうね。各方面と奥の院への報告もおねがいします。ただし、重要人物についての報告は、各方面、奥の院ともに私が直接します」


主治医は頷きお辞儀をすると早々に部屋を出ていく。


(姉さん…、私を…、私たちを彼に導いて…)

咲宮耶は窓のない部屋の天井を見上げて心の中で強く願った



◇◆◇



《岐阜県付知峡近郊 山中 深夜》

事件のあった現場に黒い人らしき影が一つ、何やら両手らしきものを地面にかざしている。その先から、さらにどす黒い霧のようなものが地面に浸透していく。その足元には黒い小さな塊が地面の上でうごめいている。その塊を確認するように俯いていた頭らしきものが、天を見上げた次の瞬間。黒い人影らしきものは森の中へ消えていった。と、同時に足元にあった黒い塊は地面の中へと染み込むように消えていった。



…次回『捜索』

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