魑魅魍魎
◇
すでに辺り一面は暗く、車両のライトのみを頼りに夜の山道を行く。
立花の運転は凄まじく、車両は右に左にと小刻みに揺れる。来た時よりも激しく揺れているのだが、後部座席から先ほどのわめき声は聞こえない。
車両は進むにつれて瘴気濃度が劇的に濃くなっていく。
明らかに危険度が高い証拠だ。
みんなかなり緊張している。
それもそうだろう、立花でも緊張しているみたいだからな。
あれでも元Cクラスだし、それなりに経験は積んでいるだろうが、戦闘経験はそんなに無いはずだ。Cクラスでは基本的に戦闘クエストのオーダーは無い。緊急避難時や遭遇戦になる事はあっても、調査やBクラス以上の戦闘後の露払いがほとんど。しかも、他の娘達は今回が初任務に初戦闘。Bクラスでさえ躊躇する内容だ。
しかし、いくらなんでも立花の案は大雑把すぎる
「いいか。良く聞け!これから現地到着後の作戦を説明する」
「は、はい!」
「現着後。まずは俺と立花が降車。立花は前方と後方上空に向けて照明弾を。俺は周囲の優先度が高い順に魍魎を殲滅する。立花の照明弾発車後、霧島も降車、左右の林に向かって閃光弾を投擲。一ノ瀬は索敵を開始。周辺の瘴気濃度や魍魎のタイプと数を本部に送信。同時にCLPフィールドを俺の合図を待って展開。立花は娘を。霧島と神原は母親を当車両へ移送。次に、霧島と神原が父親を確保。立花は運転席に戻り発車準備。父親は車両の助手席へ移す。2人の乗車を確認後、速やかに発車」
「榊さんは?」
後部座席の三人は真剣な眼差しで聞いている
「俺は、進行方向の確保。その後、後部ハッチの梯子へ飛び乗り、追随する魍魎を牽制する」
「それじゃ、榊さんが危険過ぎます」
大人しい霧島が珍しく声を荒げる
「俺なら大丈夫だ!」
「でも!」
大丈夫な訳はない。危険この得ないに決まっている
だが、誰かが露払いをしなければ。
最悪……。俺が残り、魍魎達を引き付けるだけ引き付けて、この焼夷弾で魍魎どもを焼き払う。
「心配するな、俺だってまだ死にたくはない。娘の成人する姿を見るまではな!追撃してくる魍魎が居れば、この焼夷弾で焼き付くすさ」
「わかりました……」
皆は納得してくれたようだが、立花は俺の顔をちょいと怖い顔で睨んできた。
俺は薄笑いで返す事しかできなかった。
「いいか!町まで戻れれば、応援が間に合うはずだ!決して最後まで諦めるな!」
この娘達を誰1人として未帰還者にはしない
絶対に生きて返す!
「あれだ!光が見える!」
ドン!
立花の声と同時に車両全体に衝撃が走る
一瞬目の前がスローモーションになり、車両に跳ねられた物体がフロントガラスに現れ視界から消える。
「魍魎?!」
その後、何度も何度も衝撃が走る!
一瞬の事で、その正体が何かも確認ができない。しかし、その存在が魍魎なのは解る。それでも、車両は止まらない。立花はさらにアクセルを踏み込み、いくつもの魍魎を跳ねながら突き進む!
「見えた!」
前方から発光が何度も見える!
発砲光!
エンジンの音で発砲音は聞こえないが、火器による発光なのは解る。
(生きてる!)
魍魎らしき塊を跳ねのけながら急停止する。
ライトに照らされた先に、紀村らしき人物が車の外で魍魎に向かって何度も銃を発砲している。
「よし!生きている!作戦開始!」
「はいっ!!」
全員が予定の行動に移る。
俺も車両から降りると三体の魍魎が同時に飛びかかってきた。すかさず『雪椿』を鞘から抜き素早く振り抜くと、刀身と同じ薄紅色の残影が魍魎めがけて飛んでいく。三体とも真っ二つに分かれ勢いを失い地面に落ちる。
『斬影刃』
神器の基本的な能力だ。切れ味は神器の性能と使い手の力量で左右される。『雪椿』は刀身こそ短いが、神器の中でも有数の切れ味を誇る。神器の名に相応しく彼の周りに居た魍魎を次々と黒い靄にかえていく。
「助けに来たぞ!」
車は非常用の防護シートが被せられ、周りには投擲用のピンと薬莢が散らばっていた。
紀村はボンネットの上にいた。
その彼の左腕と右脚は喰い千切られたように失なってもなお
残った右腕で銃を持ち弾倉を口に加えながら撃っていた。
「よくやった!よく頑張った」
「む、娘を……」
俺の顔見るなり涙を流し車を指す
「大丈夫だ!安心しろ!」
すでに、シートを剥がし初めていた、その後ろから魍魎が襲いかかる。俺は速やかに駆逐する
この素早い動きは?
「くそったれ!こいつらはハウンドだ!動きが素早い!気をつけろ!」
ハウンドは生きたまま瘴気に当てられ続けなければ魍魎にならない!人が闇を生み出すなんて、やってられるかっ!
俺は憤りが言葉になる。
しかも、数が多い!
みんな、シートを剥がすのにかなり手間どっている
不味いな!
この娘達の装備で、この瘴気の濃さは長く耐えられない
「一ノ瀬!フィールド発動!」
「はい!」
フィールドが発動すると同時に近づこうとする魍魎を霧散させながら周囲の瘴気濃度が一気に下がる
「今のうちだ!」
母親と娘は気を失っているが息はある
フィールドは5分しか持たない。俺は安全を確認して父親を背負い車両の助手席へ移す。
フィールドの向こうではハウンド達のおぞましいうめき声がひしめき合って聞こえてくる。
あれだけの数で教われたらひとたまりもない。
「榊さん!!集まってくる魍魎の数が100を越えています!」
一ノ瀬が声を張り上げると
車両に移そうとしていた、俺とみんなの顔が氷つく
「いっ、急げ!!」
最後に俺が紀村を助手席に乗せた瞬間
無数のハウンドが重なり合ってフィールドを喰い千切り、フィールドに開いたその穴から次から次へと侵入してくる。みんなが、その光景に恐怖する
「いゃーっ!」
侵入してきた一体が後部座席に乗ろうとしていた神原の背中に襲いかかる。
(間に合わん!)
「せいやぁーっ!」
襲いかかろうとしたハウンドに横から槍が突き刺さり、黒い霧にかわる。
「うぉーっ!」
槍型の疑似神器を手に立花が咆哮をあげる。猛将の血脈は伊達じゃない。
反対側のドア付近では錫杖型の疑似神器を手に霧島がハウンドに打撃を与えている。
「立花!食い止めるぞ!」
「おう!」
「霧島は音浄結界を!」
「はい!護法の伊吹よ我が音に答えよ!臨!兵!闘!者……」
チリリィーン
霧島の錫杖から鈴の音が激しく鳴り響き簡易詠唱が始まる
「一ノ瀬は立花と霧島の神器をコントロール!俺のは必要ない!2人に集中してくれ」
「…!」
「神原!閃光弾を穴に向けて発射。その後、運転席に!」
「了解!」
「全員諦めるな!生きて還るぞ!」
フィールドは残り3分、結界を張れれば合わせて10分は稼げる。
立花が獅子奮迅の活躍でハウンドを殲滅してくれている。
が、しかし。神器を全力で使えば消耗が激しくそんなに続きはしない。この俺も限界が近づいている。情けない。
ある程度ハウンドを減らしたところで、焼夷弾を車両前方に放ち強硬突破する。そうすれば、逃走中に救援隊と合流できるはずだ。
「皆!陣!烈!在!前っ!音浄結界!」
霧島の音域結界が発動する。この結界は侵入を防ぐ事は出ないが、大幅に動きを抑制して瘴気を薄くする
マナの消耗は一番多く使い手を選ぶ。
だが、これで戦闘がかなり楽になる
俺と立花が侵入し続けているハウンド達を次から次へと霧に変えていく
「榊さん!大きい反応が後ろから来ます!」
あの一ノ瀬が叫ぶ。次の瞬間車両後方から結界をものともせず3メートルはある巨大な黒い塊が凶悪な瘴気を撒き散らしながら侵入してくる
「禍津鬼!」
巨大なベアタイプの魍魎集合体!Aランクでも手こずる災厄!しかも…人の手や脚らしき物が口らしき所がら出ている。人まで食らってやがる。
「怨怨怨怨怨怨怨怨!!」
口から瘴気を吐き出そうとする
「せいやぁーっ!」
立花が車両の屋根を踏み台に飛び上がり、槍を突き立てようとする!
バンっ!
禍津鬼は腕で立花を叩き落とす
「ぐはっ!」
地面を何度も跳ね返り口から血をはく
禍津鬼が立花を踏み潰そうとする。俺は間一髪で立花を抱えて横に飛びうつる。
禍津鬼の動作一つ一つが結界を揺さぶる。破られまいと必死に耐えている霧島の背後へハウンドが食らいつこうと襲いかかる。
「だめぇー!」
神原がハウンドに組かかり地面に押さえつけつける。借羽織は既にボロボロになり組み付いた体を蝕む。
「怨怨怨怨怨怨ーっ!」
禍津鬼が口から凶悪な瘴気を吐き散らす。
霧島はその衝撃で弾き飛ばされ、結界は力を失う。
パウダー達は動きを取り戻し、弾き飛ばされた霧島と組み伏せている神原の両手両手脚に食らいつく。
立花を抱えた俺を禍津鬼は容赦なく蹴り飛ばし、車両の側面に叩きつけられ気を失いかける。
体はもう動かない、脳からの命令も出す事すらできない。
目の前には、気を失った立花がつまみ上げられ喰われようとしている。
辺りを悲鳴と怨叉の音が響きわたる……
そして…俺の心は折れてしまった……
紀村くんに偉そうに言えないな……
みんな……すまん……すまん……
意識を失いかけた、その時!
チリリィィィィィィィン!
(鈴の音…?)
「諦めるな!目を瞑れーーーっ!!」
次回『神器』




