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悪魔の武器


「あったあった」

 

 先程のことなどなかったかのように、アスモデウスは辺りを探っていた。

 どうにも蛇――バジリスクというようだけど、その蛇のいた辺りは、丁度玉座があったらしい。彼女の座っていた玉座。ただし、今はその巨体に圧し潰されて粉々になってしまっているが。

 その瓦礫を投げ捨てて、アスモデウスは何かを掘り出した。

 それは槍のように見えた。

 いや、槍と言うには肉厚が過ぎた。ひし形の刀身を持ったそれに、長い柄が接続されている。槍と言われればそうであると言える。そんな不思議な武器。刀身から発せられる薄ぼんやりとした光が、優しく網膜に届く。


「あーん! よかったぁ! 私のクラウソラスー!」


 アスモデウスは槍――クラウソラスというらしい――を抱き締めて、頬擦りをしている。


「アスモデウスが探してたのって、それ?」


 僕はそちらに近付きながら聞く。


「そうこれよこれ! これさえあれば私、完全復活ってね!」

「そうなんだ」


 僕は瓦礫を登り、さらに近付く。


「ね、ねぇ……ちょっと……?」

「見せて」


 アスモデウスはこちらに視線を向け、きょとんとした顔をしている。

 掌を差し出し、アスモデウスにもう一度。


「見せて」

「……わかったわかったわよ!!」


 僕に向けてクラウソラスを差し出し、軽く押しのけるようにして突き放す。

 危ないなぁ、と思いつつも、それを受け取り、僕は地面に着地した。

 どうも僕の身体能力は随分と成長しているらしい。前までは、きっとこんなこと出来なかった。

 自分の能力に感動しながら、手元のクラウソラスに目を落とす。

 

 すると、手の中にあった筈の槍は僕の中に吸い込まれるようにして消えた。


「……あ」

「あーっ!? 私のクラウソラスー!?」

 

 大慌てでアスモデウスは僕の所まで走ってきて、思いっきり僕の肩を掴んだ。


「ちょっと、痛い」

「んなこたぁーどーでもいーのよ! 私のクラウソラスどうしたのよ!?」

「えっと」


 どうしたのよ、と言われても。


「僕の中に喰われたのかな?」


 それしかないだろう。僕の中の悪魔喰らいが発動したのだ。驚きなのは、それが武器にも有効だということ。


「そんなことわかってんのよ!? 早く吐き出しなさい!?」

「はいはい……」


 出てこいと、そう願うと僕の掌からにゅっとクラウソラスが現れる。

 少しばかり暴食気味な所はあるけど、だいぶコントロールできるようになってきた。

 僕の手からクラウソラスを奪いとり、アスモデウスは抱き締めた。まるで自分の半身だとでも言わんばかりの抱擁。


「それで、それを手に入れたらどうなるの?」

「ふふーん、私の真の姿が見られるわ!」


 へー、そうなんだ。

 僕のそんな思いは、恐らく態度に出ていたのだろう。

 アスモデウスはこちらをきっと睨め付け、クラウソラスを胸の前に掲げた。


「見てなさいよ!」


 アスモデウスが目を瞑る。

 同時に、魔力なのであろう、黒いモヤのようなものがアスモデウスを取り囲む。

 カーテンの向こうの影のようにぼやけた中で、アスモデウスの姿が変わっていくのが目視できる。

 影が伸び、女性らしいシルエットを作り出していく。

 そして、黒いモヤが晴れた。


「どうよ、ご主人様?」


 傲岸不遜な表情。僕の知っている彼女の要素はそれだけだ。背が大きくなり、胸もお尻も大きくなったアスモデウスは、正に大人の女の人だった。

 こちらに向けて、片目を瞑って、アピールしてくるアスモデウスを見て僕は。


「なんかムカつく」


 アスモデウスの胸を鷲掴んだ。


「あんっ!? ちょ、ちょっと?」

「その姿、ムカつく」


 頭の上から見下ろされるのも、自分よりも大きな存在も。気に入らない。気に喰わない。


「ちょっと、喰われてろ」


 悲鳴の残響を残して、アスモデウスが僕の中に消える。

 なんだかアスモデウスに見下ろされるのは腹が立つ。

 それにしてもーー


「柔らかかった……」


 掌に残る温もりは、ちょっと惜しいな、と思った。

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