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大したことないボス戦


 僕たちの目の前に、巨大な扉が現れた。

 それは見上げる程に大きく、また悪趣味な程に金色で装飾されており、作った人の趣味の悪さが伺えるようだった。


「……これ、君の趣味」

「違いますぅー! 私がこんな趣味の悪いもの作る訳にないじゃないの! きっと私が留守してる時に潜り込んだ誰かの所為よ!」

「ふぅん」


 どうでもいいけど。

 

「この先にアスモデウスが探してたものがあるの?」

「ええ、それさえ手に入れれば、私の力は完全になるわ」


 それで十分だ。

 そうすれば僕の復讐は確実なものになる。


「そうか」

 

 僕は扉に手を当てる。ひんやりとして冷たい、鉄の感触。押せどもびくともしない。

 

「……開かない」

「もっと、容赦なくやった方がいいと思うけど……」

「頼んだ」

「もう!」


 僕が下がると代わりにアスモデウスが前に出る。僕よりも華奢な少女の手が扉に触れると、びくともしなかった扉がゆっくりと動いた。

 少しづつその向こう側が見えて来る。

 扉の向こうは、暗闇に包まれていた。


「何もない?」

「いえ、いるわ」


 一歩、中に身体を滑り込ませると、アスモデウスが魔法を放ち照らしてくれる。

 煌々と照らされたそこは、まるで広場のように広い。玉座とでも言えばいいのか。かつて読んだ絵本で見た、王様の部屋にそっくりだった。

 綺麗に整地された石畳の敷かれた大広間。

 そこに、のっそりと巨大な身体を横たわらせた存在が、いた。

 横になっている、といっても、その巨大さは少しも霞むことはない。見上げる程の体躯。身体中にびっしりと生えた鱗は堅く、てらてらと滑ったような光を発していた。

 その巨大な咢がこちらを向く。

 よく見ればそれは巨大な顔面で、蛇の様相を呈していることがわかる。


【誰だ。我の根城で騒ぐのは】


 禍々しい声だ。

 言葉一つで心臓を鷲掴みにされるような、ずっしりとした重たい声音。聞くだけで冷や汗が流れてくるような、恐怖の声。

 

「なんだ、バジリスクじゃないの。あなた、たった十年で随分と偉そうになったもんね」

【――ッ! 貴様、アスモデウス……か?】

「そうよ。まったく好き勝手してくれて……あんた、わかってんでしょうね」

【……ふん、そのような脆弱な身体に堕ちた貴様など……それに、貴様の武器もないであろう】

「その尊大な喋り方、止めたら? 正直みっともないわよ?」

【言わせておけばッ!】


 傍から見て、ハラハラした。

 明らかな体躯の差。まるで巨人と小さなスライムのような差。

 それに、僕と比べても華奢な体躯の少女が巨大蛇に立ち向かう。そんなの死ぬしかないじゃないか。未来は見えている。そんな無謀な戦いを、どうして心配せずにいられるだろう。

 押し潰されて、磨り潰されて、死んでしまうのだ。

 

 蛇が迫る。その赤黒く染まった口腔を広げ、ちろちろと舌を揺らして、アスモデウスを飲み込もうと迫る。鋭い牙が、アスモデウスの柔らかな腹部を捉えた。


「だから何よ」


 アスモデウスが蛇の牙を掴んだ。掴んだまま、圧し折った。


【――ッ!?】

「その程度で威張らないの。だから言ったでしょう? みっともないって」


 今度は長い舌に手を伸ばした。掴み、そのままアスモデウスは後退する。握ったままの舌を、引き抜くように引き続ける。

 

「それじゃね」

 

 その場で、アスモデウスは回転する。

 舌が引き抜かれる。それに続いて、蛇の内臓が、ずるずると。


「おぇ……」


 思わず口元を押さえる。

 まさかそんな倒し方をするとは思わなかった。想像以上にエグい。

 目を反らしていても、骨を砕き、内臓を引き抜く音が聞こえてくる。


 そして最後に、何かが爆発するような音がして、静かになった。


「終わったわよ~?」

 

 僕がそっちに顔を向けると、そこにはもう何もなかった。

 巨大な蛇の姿は、どこにもない。

 

 ただ一人、アスモデウスが笑顔を向けていた。


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