少年のスキル・2
「結論から言えば、あんたは悪魔を喰らう能力を持っているの」
先程まで泣き喚いていたのが嘘のように屹然とした様子で、少女は語る。
「私たちは悪魔。人類の信仰する神様に敵対する、この大陸の支配者。私はその一角を担う、アスモデウス」
「……この少しだけで、お前が大概やばい奴だってわかったけど……なんでそんなのが僕の中に?」
「そう、それなのよ……十年くらい前に偶々あの街の上を飛んでただけなのに、何でかあんたの中に引っ張り込まれちゃって……」
「そう……」
「そうなの。それでむしゃくしゃして、つい、ね」
むしゃくしゃして、つい?
僕の十年以上もの苦しみを、そんな一言で片づけるだと?
お前がむしゃくしゃして、僕の両親を殺して?
それで、僕の人生は台無しになった。
そこまで思考して、頭の中が真っ白になった。
「きゃ――っ!?」
少女――アスモデウスの細い首筋を掴んで地面に向けて叩き付けた。
想像以上の力と共に彼女の身体が地面に沈み、激しい爆発音が響いた。
「か――ぁ、な、んで」
「お前が! お前の所為でッ!」
メキメキと首に僕の指がめり込んでいくのが分かる。
このままでは彼女が死んでしまうこともよく分かる。
けれど、どうして止めることができるだろうか。止めることなどできやしない。目の前に、長い間憎んだ相手がいるのだから。
力を込めていく。首をへし折る為に。
ふっとその力が抜けた。掌にあった温もりが消え、アスモデウスの姿が目の前から消えた。
「あー、苦しかった」
僕の背中からアスモデウスの声がする。
「まったく、いくら何でも暴走し過ぎよぉ。殺されちゃうかと思った」
「なん、で……?」
「あなたの力は悪魔を喰らうの。何処でそれを手に入れたのかしらね。ベルゼブブの奴、あなたに喰われたのかしら? ま、いいけど。その力に乗せて喰われてやれば、私はあなたの中に戻れるの」
心底楽しそうに、僕にその理由を語る。
「それにね、あなたの人生を台無しにしたのは私じゃないでしょ? 私はただのきっかけに過ぎないの。あなたの人生を台無しにしたのは別なの」
「別……?」
「そう、あなたの人生を台無しにしたのは私じゃない。あなたに適切な対応をしなかった周りが悪いのよ?」
その言葉は空白になった頭の中にスッと入ってきた。
僕を台無しにしたのはアスモデウスの所為じゃない。僕を恐れた人間の、街の人の所為だ。
そう考えると、ぴったりとパズルのピースがハマる。やること、やるべきことが見えてくる。
そうだ、僕がやるべきこと、それは。
「僕は憎い」
「何が憎いの?」
「人が、あの街が憎い」
「その為には何が欲しいの?」
「……力……力が欲しい」
「よろしい。ならば与えましょう。そもそもあなたの力は強力無比。悪魔を喰らい、糧と為す【暴食】の悪魔、ベルゼブブと同一」
「僕の……力」
「そして私は、そんな彼と並び称される【色欲】アスモデウス……私が力を貸したげる」
「【色欲】……アスモデウス」
「一緒に復讐しましょう……ね、ご主人様♡」
甘い言葉は脳を震わせる。
甘い言葉は僕の中に溶けて形となる。
僕の中のちっぽけな復讐心は、拡大され大きくなる。
僕は……僕は。
「大丈夫……怖いことなんてないの。私が助けてあげるから」
僕はその誘惑に逆らうことができなかった。
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