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少年は悪魔と出会う


「ん……朝?」


 瞼越しに光を感じて、僕はゆっくりと身体に力を込める。ベッドに手をついて、起き上がろうとした。


「っ!?」


 何時から僕のベッドはこんな刺々になったんだろう。

 余りの痛みに手を引き、ばね仕掛けのように起き上がる。


「ここ……どこ?」


 僕の目にはまるで、地獄のような光景が広がっていた。

 瞼を刺激した光は、炎がまるで川のように流れる光。

 掌を刺した痛みはごつごつとした岩肌の感触。

 蒸し暑い空気は肺腑を焼き、全身から止めどなく汗が流れる。正直、自分がどうしてそんな状況にあるのかわからなかった。

 

 けれど、嫌悪感と不快感がここは人が住む場所ではないと証明している。

 

「そっか……」

 

 これはきっと天罰なのだ、と思った。

 悪魔憑きである自分を、きっと神様はよく思っていない。

 悪魔憑きでありながら、生きて行こうと思ったこと自体が悪だったのだ。

 僕は、生きていてはいけないのだ、とそう思った。


 だからその人の声がするまで、その人の存在に気が付かなかった。

 

「ん~! さいっこうっ! やっぱりここはいいわぁ~!!」


 地獄を楽しむような、明るい声が頭上から降って来る。よく見れば、そこに一人の女性が立っているのに気が付いた。

 まるで銀のような髪の毛は、煌めく星のように見えた。それだけで彼女が人間以外の何かであることを示していた。

 そこから視線を下に下げると、革のベルトなんて、明らかに服とは言えないようなものを身に纏っていて……思わず視線を反らした。


「あら~?」


 彼女がこちらに気が付いた。


「あらあらあら~この私をずっと閉じ込めていた牢獄が、こんな無様に転がっているわ」

「牢……獄?」

「そうよ、牢獄。出たくても出られなかった檻。あなたの所為で私はずっと……でも、もういいわ。この場所に来れて、魔力も戻って、晴れて私は自由の身ってワ・ケ」


 唇に手を当て、煽情的にも見える表情で僕を見下す。

 言葉から、彼女が僕に憑りついた悪魔であることがわかったし、僕の人生を台無しにした存在であることもわかった。

 だからといって僕に何かができる訳じゃない。

 歯を食いしばって、彼女を見上げることしかできない。


「あら、どうしたの? 私を殺したい? 殴り掛かりたい? でも無理よねぇ……だってこの場所は、人間にとって害悪だもの。息をするだけでも辛いでしょう?」


 悔しいことにその通りだ。

 さっきから息をするだけでも身体に痛みが奔る。


「ざぁ~んねん。私を閉じ込めていたことを、後悔しながら死になさい」


 くすくすと、嗤いながら、彼女は手刀を形作る。

 爪の先を黒い靄のような魔力が包み込み、本当の刀のようになるのがわかった。


「あなたはここでさようなら。無意味な人生だったわね。ちょっと、同情しちゃう……でもそれとこれとは別なの」


 目の前に突き付けられた刀は、僕を一太刀の元に切り伏せるだろうことが簡単に想像できた。


「じゃあね」


 彼女の指先が、僕の咽喉へと吸い込まれ――――


 ぞぶり、とそのまま飲み込まれるように消えた。


「……は?」


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