悪魔憑きは村から追い出された
事件はその夜だった。
街の郊外に建つ一軒家。
『出て行け』
『死ね』
『消えろ』
『呪われた子供』
そんな落書きがあちこちに書かれ、割れていない窓など一個もない。
それが悪魔憑きと呼ばれる少年の家。
幼い少年の記憶に残る、両親とのたった一つの思い出の地。
夜も更けた頃、家の周りをぐるりと魔法使い達が取り囲む。それを指揮するのは、街で一番とされる魔法使いの爺……名をアルバートと言う。好好爺とさえ言われる笑みを称えた表情は、今、険しく曇っていた。
魔法使い達は、その家の住人が寝ていることを確認し、地面に魔法陣を書き終えた。
「終わりました」
「うむ……」
「それでは始めましょう。忌々しき悪魔憑きを時空の彼方へと転送しましょう」
「うむ……」
「御師様?」
「大丈夫だ。始めよう」
アルバートは手に持つ杖で地面を叩くと、魔法陣が光を発する。
光は結界になり、家を一つ、丸ごと飲み込む。
アルバートの言葉を皮切りに、その後を追って他の魔法使いが呪文を唱える。
「我は願う」
『我は願う』
詠唱に詠唱が重なる。
「悪しき悪魔を」
『悪しき悪魔を』
「どうか地平の果てへ追いやって欲しい」
『どうか地平の果てへ追いやって欲しい』
「我が願いの対価は魔力」
『我が願いの対価は魔力』
「ここに果ての門を開く」
『ここに果ての門を開く』
輪唱し、合唱する。
魔法陣が溶けるように、地面に巨大な穴を開ける。その先は、何処とも知らない暗闇が満ちている。
ずるり、と家が傾ぐ。
まるで巨大な生き物に捕食されているようにさえ見える。
魔法使い達が口々に「成功だ」「助かった」と喜びを分かち合う。
これでようやく、懸念材料だった悪魔憑きがいなくなる。そう思うと、彼らの顔から笑みが止まないことは、自明の理であった。
平穏な生活が手に入る。
それを思えば、子供を一人、彼方へと送ることなど造作もない。
互いに抱きしめ合う魔法使い達を見て、アルバートは口元に笑みを浮かべた。
きっと彼らは不安だったのだ。
何時、少年の中の悪魔が顔を出すのかと、怖がっていた。
その不安材料を取り除いたのだ。
アルバートは自分のしたことが間違いではなかった、と確信した。
そして、そのまま。
「御師様!?」
「お師匠様!?」
「どうされましたか!?」
ばたり、とその場に倒れ込んだアルバートの元へ魔法使い達が駆け寄る。
その身体に触れ、彼らは確信した。
アルバートは悪魔を退けた代償として命を支払ったのだと。
自身の命を使い果たし、悪魔に打ち勝ったのだ。
誰もがそう思った。
きっとこの先、アルバートの名は後世へと響き、悪魔を祓った英雄として讃えられるだろう。
しかし死の直前、アルバートはこう考えていた。
――はて、この魔法はここまで魔力を消費しただろうか?
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