悪意
誰もいなくなった広場の中心。
天使がいなくなった魔物たちの群れを追うように視線を動かした。
まだ、生きている。それはよろしくない。排除しなければならない。できるのなら、早急に。
天使の背後から、影が這い出るように現れた。
漆黒を体現したかのような服装は、ペーターの前に現れた、あの男だ。
天使は、視線を動かすだけで、その男の到来を察知する。
「アズール」
「はいよ」
「どうなっている。まだ悪魔がいたぞ」
「俺なんてただの雇われですよ。見落としの一つや二つ、あってもおかしくない」
「言い訳は聞かん」
「はいはい」
言って、天使の傍を離れる。
現れた時と同様に、影に消えていく。
後を追う天使の視線、ため息。
「これでいい。これで世界は悪意から解き放たれる」
人間も魔物も、大小の差はあれど悪意を持って生きている。
それはこの地上で生きている限り、逃れられることはないのだ。
ならばその根源、甘言を弄し、全ての生物を堕落させる悪魔を潰す。
生物が悪へと偏る術を、一つ一つ摘み取っていくのだ。
「そうすれば、世界は平和になる」
世界の平和。
悪意のない世界へと。
それが神の望んだ世界。
あらゆる善性が支配する完璧な世界。
「一つ、一つ。小さな一歩だ」
天使は踵を返す。
後は任せるがままだ。
◇
路地裏で息を潜める。
街の騒動は収まらない。一歩たりとも動くことはできない。
いや、けれど、動かなければ見つかってしまう。
それは、わかりきっている。
けど、動けば見つかってしまう。
まるで袋小路に追い込まれたネズミのようだ。
「アルティ、どうする?」
「どうするって……どうしよう……」
彼女は震えている。
彼女を頼ることはできない。
きっと、罪悪感で震えている彼女を頼ることだけは、できない。
そう、罪悪感だ。
彼女が僕をあそこに連れて行かなければ大丈夫だったかもしれないから。
けど、それは過ぎたことだ。
今更嘆いても仕方がない。
なら、どうする。
「アルティ」
「……なに」
今にも泣き出しそうな、悪魔の少女。
悪意など持っていそうにない彼女を、殺させるのは如何ともし難い。
ならば取ることのできる手段は一つだ。
「アルティ、僕に食べられてくれるか?」
「はぇ……? はぇ……ッ!?」
アルティが目を見開き、顔を赤くしてわたわたと両手を振る。
「な、なななななななっ、何を!?」
「何って……言葉通りだけど……」
「いいい!? そんな!? こんな時に!?」
「こんな時だから、だ」
「こんな時だからぁっ!?」
うるさいな。
僕は問答無用に彼女の身体に触れる。
瞬時に、アルティを捕食する。僕の中に吸い込まれていく。
「さて……逃げよう」
僕は路地裏の暗闇に身を隠す。
何時までもここにいる訳にはいかない。
踵を返し、大通りから逃げるように走り出す。
ここから出るにはどうすればいいのだろう。考えられるパターンは二つ。
上空か……地下を通る。
上空は目立つ、ならば、地下だ。
どちらにせよ、あの高い城壁の近くに行かなければならないのだ。
「どこに行くんだ?」
「……っ!?」
目の前、暗闇の中から這い出るように、漆黒の男が現れる。
あの、アルティを探していた男だ。
「悪魔は……殺さないと、な」
男は巨大な杖を僕に向ける。
先端の宝石から、何か、膨大な魔力が渦巻いている気がしている。
それは――ッ!
「そうだ。悪は、殺戮しなければならない」
ドンッ! と爆発音と共に、魔法が撃ち出され、僕を巻き込み爆発を起こした。
僕を、周囲を巻き込んだ巨大な爆発。
それは、間違ってもこんな場所で撃っていいものではないのだ。
「悪であるならば、滅ぼさなきゃあ、ならねぇ」
男はぽつり、と呟いた。
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