悪魔憑きのペーター
「やい悪魔憑きが出たぞー!」
「触るな近づくな、悪魔が移る!!」
「石を投げて追い返せ!」
小さな街に、子供たちの賑やかな声が響く。それは勿論、僕に向けられた怨嗟の声だ。
僕が街道を歩けば石が飛んでくる。
恐怖に慄き、石を投げつける。
がつん、と額に当たった石が、鋭角だったのだろう。僕の額から出血した。
「悪魔の血だ!」
「呪われるぞ!」
「逃げろ逃げろ!!」
楽しそうに、僕から距離を取る。
そうしているのは当然。僕が悪魔憑きだからだ。
僕が覚えていない、およそ三歳の頃、僕は両親を殺したらしい。とは言えそれは人伝てに聞いた話で、真実は定かではないけれど、そういうことになっている。
聞いた話によれば、僕は三歳児とは思えない腕力で、父と母を絞め殺したらしい。
悪魔祓いに来たシスターさんは余りの惨状に気を失い、神父さんでさえ鎮めるのがやっとだったみたい。
だから僕は悪魔憑き。
悪魔を封じた子供だ。
「お、ペーターが出歩いてやがるぜ」
「早く死ねばいいのにな」
また別の子たちから罵倒が飛んでくる。石やら木の枝やら、投げつけられるものは片っ端から投げつけられた。
それでも周りの大人たちは見て見ぬ振りだ。
なるほど、よっぽど関わり合いになりたくないと見える。
それでも、幼い頃は良かった。まだ石やら木の枝やらで済んだから。
「おら死ね! エクスプロージョン!!」
何時しか魔法まで飛んでくるようになった。
同い年の子は学校に行き、魔法や生きていく術を学ぶ。
年齢層が上がるにつれ、僕に対する殺意は上がっていく。
その度に、大人たちは眉を潜め、沈黙を貫く。
僕のことが怖いのだ。
足下で爆発した魔法に吹き飛ばされ、僕の身体は地面を転がった。
痛くないと言えば嘘になる。けれど僕はあまりにも痛みに慣れ過ぎてしまった。
下卑た笑いが降り注ぐ中、僕はゆっくりと立ち上がる。言ってしまえば程のいいサンドバックだった。
僕に向けて魔法を放つ事は学校の復習で、己の魔法の上達を認識する。僕に向けて暴力を振るう事で己の力量を認識する。
それに対して、僕が何かをすることはない。
いっそのこと死ねたのなら楽だった。
けれど。
「見ろよ、ペーターの傷がもう治ったぜ!」
「悪魔だ! 悪魔の力だ!」
「とっとと死んじまえ!」
僕の傷は恐ろしく治るのが早い。
それはまるで時間を巻き戻しているかのようだ。
どうやら僕の中の悪魔はそう簡単に僕を殺してくれないらしい。
僕はそんな罵倒と魔法と石やら木の枝やらに晒されながら、食料を買いに来た。
幸いにも僕の両親の遺産は、僕一人で生きていくのに充分だった。
「ひっ……い、いらっしゃい」
「…………」
食品店のオジさんは、僕に怯えながらも接客をしてくれる良い人だ。
確か彼は、生前の両親と仲が良かったのた。
それでも僕に対する目は、怯えと恐怖が抜けきらない。
何時その牙を向くのかと戦々恐々としている。
馬鹿らしい。僕にできることなんて、何もないのに。
「…………」
僕が無言で示した食品をオジさんは速やかに袋に詰めて、突き出した。
言外に、早く帰れた言われているのが分かる。
僕はそれを受け取ると、そそくさと退散する。
それが、僕の日常。
そんなクソッタレで死にたい僕の、死なせてくれない日常。
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