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悪魔の存在


「うう~……助かりましたぁ……」


 のそのそとゴミ箱から出てきた彼女は、すでに羽などなかったかのように自然体だ。頭にゴミをへばり付けたまま、僕の足元でぐったりしている。


「助けた覚えはないけど」

「それでもです!」

「……そう」


 こちらに詰め寄りながら、顔を近付ける少女に対して、思わず素っ気ない返しをしてしまう。しょうがないだろう。アスモデウスと比べると、他人なんだから。


「それにしても、この街は随分と悪魔を嫌っているみたいだね」

「……はわぁ!? そういえばあなたは人間なんですね!?」

「はわぁ、って……まぁいいけど」

「人間なんて初めて見ましたよ! 海の向こうに存在してるって言われてたので、存在は知ってましたけど……」

「ふぅん、そんなもんなんだ」


 僕はこの世界をよく知らない。僕が知っているのは、自分の周りだけだ。

 それ以外は、心底どうでもいい。

 僕は僕の復讐が完遂できれば、それで。


「そんなに悪魔が嫌いってわかってるなら、どこかへ出て行けばいいのに」

「……人間さん、最近来た人ですか?」

「僕はペーターだ。そうだけど」

「ペーターさん、ここ城塞都市なのにあっさり入れたと思いません?」


 確かにそうだ。

 アスモデウスも、僕らと同じ姿形だけど、悪魔だ。それなのに、あっさりと疑うこともなく入ることができた。

 僕はてっきり、争いなんかないから簡単に受け入れたと思ってたけど。


「ここは入れない為の城塞じゃないんです。逃がさない為の城塞なんです」

「それってつまり」

「悪魔を殺す為にあるんです」


 ばっ、と思わず周囲を見た。誰もが僕たちを見ていないかのように歩き去っていく。


「……誰も見てないけど」

「それはそうですよー、私たち悪魔なんて、あなたと変わらないじゃないですか。見た目じゃわかんないんです」

「そもそも、君らはどうしてそんな風に殺されたり、恐れられたりしているわけ?」

「あ、そこも知らないんですね」


 ふふん、と胸を張った少女の様子にどこか苛立たしさを感じる。けど知らないのは事実だし、知らなければ始まらないのもまた事実である。


「知らないよ、そんなこと」

「そうですかそうですか! では教えますが、悪魔は文字通り"悪''の魔です。わかりますか?」

「そりゃ意味はわかるけど」

「"悪"が何を意味するかといえば、ただ一人。この世界でかつて大戦争を引き起こした魔王を意味するのです」

「お伽話の?」

「です」


 なんだそれ。


「悪魔は魔王の使いである。悪魔は魔王の復活を望んでいる。だから根絶やしにしなければならない、とそういうことです」

「……でもそれおかしくないか? だって十年前はこの街、悪魔でも大丈夫たったんだろ?」

「それは……っ、ちょうどいいですね。演説の時間です」

「演説? 誰の?」

()使()()ですよ!」


 言って、少女は駆け出した。

 僕も後を追って走り出す。


「申し遅れました! 私! アラティと言います!」

「僕はペーター、よろしくね!」



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