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悪魔の家


 外観とは裏腹に、内部は随分と大きく、小綺麗だった。

 玄関から廊下、その先にあるのは小さな寝室。

 ベッドは一つ。

 左右に見たこともない浴室と、意味の分からない小部屋があった。

 僕はアスモデウスに誘われるがまま、部屋の奥へと進んだ。


「ここは、私の一番お気に入りの部屋」


 見たこともない素材で作られた桃色で一色統一された部屋だ。

 僕の記憶に、そんな風な家具で装飾された部屋は存在しない。初めての体験だ。

 どこかふんわりとした花のような匂いが鼻孔を擽る。

 頭の中がくらくらして、思考が纏まらない。

 ぼくは、えっと、どうして、この部屋に……?

 ああ、いや、そうだ。

 ぼくらは、野宿するのが嫌だから、この小さな小屋を。

 アスモデウスの、部屋。


「うん。随分と放置してたけど、大丈夫そうね」

「あ、アスモデウス、これは?」

「私のおうちだってば。別の次元にある、私だけの部屋」


 悪魔の語ることだから、そういうものだ、と僕は納得した。

 

「ほら、こっちに来なさい」


 アスモデウスがベッドに座り、ぽんぽん、と敷かれた布団を叩く。

 僕はふらふらとそちらに誘われる。

 その足取りは不確かで、けれど僕の意識は大丈夫。

 アスモデウスの隣に座る。

 ふかふかな布団の感触が臀部越しに伝わってきて、それがとても心地良くて安心した。


「ここでは誰もあなたを害さない」


 アスモデウスの言葉がすっと頭の中に入り込んでくる。

 僕の中に溶けていく。


「ここでは誰もあなたを侵さない」


 アスモデウスの言葉が僕の心を溶かしていく。

 

「あなたは私のもの……」


 そっと、アスモデウスの唇が近付いてくる。

 僕は――ぼくは――









「朝……?」


 僕は目を覚ました。

 頭の中がくらくらする。僕は、昨日、何をしたんだっけ。

 ベッドから身体を起こす。

 身体の調子は悪くない。むしろ、これまでで最高と言ってもいいかもしれない。それは、ふかふかのベッドでゆっくりと寝て、体力を回復したことにあるかもしれない。

 

「起きた?」


 声がした。

 びくりと身を震わせて、そちらを見ると、何時もの恰好のアスモデウスがこちらを覗き込んでいる。


「うん」

「そう、それじゃ、出発しましょう?」

「そう――だね」

 

 僕はベッドから這い出した。

 服はそのままだし、おかしなことをした訳じゃないようだ。

 僕は部屋から出て、廊下を進んで、入り口の扉を開けた。

 向こうに見えるのは、昨夜と同じ森の景色。


「行こう、アスモデウス」

「そうね」


 振り返って見た、アスモデウスはぺろりと舌なめずりをしたように見えた。

 どことなく、僕の知らないどこか怖い表情をしたように思えた。

 けれどそれは一瞬で、彼女はすぐに僕の元へやって来た。


「行きましょう?」


 僕は彼女に従った。


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