悪魔と少年と悪魔
「ちょっと~? ご主人様~?」
アスモデウスが僕の背後を飛び回りながら抗議の声を上げる。
その姿は、もちろん僕の見慣れた華奢な少女の姿だ。
断じて大人の女性のものではない。
「あんな急におっぱい触るなんて~、ご主人様も男のコねぇ」
「うるさい。僕は気に入らなかっただけだ」
「またまたぁ~」
にんまりとした顔で僕を覗き込んでくるのが堪らなく鬱陶しい。
「私の大人の魅力に魅了されちゃったのかな~?」
「うるさい。また喰うぞ」
「やだこわ~い」
何が楽しいのか、僕の周りを飛び回り、きゃはきゃはと声を上げる。
その手にクラウソラスはない。あの姿は、はっきりいって気に喰わないのだ。僕の前でいさせてやるものか。
そうな風に言い争いを続けている内に、僕らは魔窟の出口へと辿り着いた。
向こうから光が漏れていて、悪名高きグラス=ヘイム大陸に相応しくないくらい神々しく感じた。きっとそれは、暗闇に慣れた僕の勘違いなのだろうけど。
整地された魔窟と違い、まるで怪物の口を内側から眺めているような光景に、少し怖くなる。
なんだかんだ、恐怖などないように装ってはいたが、ここは魔の巣窟なのだ。
自分が喰われてしまうように感じてしまう。
けど。
「どうしたの?」
こちらを覗き込むアスモデウスが力を貸してくれるのだ。そんな不安など必要ないのかもしれない。
「なんでも、ない。行こう」
僕は魔窟の出口へと身体を潜らせる。
この先でなにがあっても大丈夫だと、根拠のない自信を胸に。前へと。
『排気し燃焼せよ』
目の前が光に包まれる。
同時にやってくるのは酷い熱波。肌を焼き、皮膚を焦がし、身体中の水分という水分が蒸発する。
肺腑を熱が揺らし、吐く息さえも熱い。
叫び声さえ上げられない。
喉が苦しい。
僕は地面を転がったまま、指先一つ動かすことができなかった。
「怒れる炎……なんの用よ、サタン」
「いやなに、懐かしい気配がしたものでな」
声だけが、焼けることを免れた鼓膜に届く。
声音だけ聞けば優しい声。慈しみさえ感じる。僕に母親がいればきっとそんな声を聞かせてくれたことだろう。父親かもしれない。そんな、どちらとも取れる優しい声音。
心地良くて眠ってしまいそうだ。
「懐かしい気配とそれに混じる雑音が鬱陶しくてな、つい」
「つい、で済むか!」
「何を怒っている。たかが人間だろう?」
「だけど! ああもう、めちゃくちゃじゃない!」
「まったく、久しぶりに姿を見せたと思えばそのような少年にご執心とは……色欲も大概にしろよ」
なんだろう……いったい、二人とも、なんのことを。
「そんなんじゃないって! とにかく、今この子を殺されるのは駄目なのよ!」
「ふむ……まあ、いい。どうせまた、ロクでもないことを考えているのだろう?」
「私が何したってあんたに関係ないでしょ?」
「それもそうだ」
くつくつと笑う声が耳朶を打つ。
「早急に顔を見せたまえ、皆、待っているぞ」
「そうね」
「ではな」
遠ざかる気配。
こちらに駆け寄る気配。
その両方を感じながら、僕の意識は闇に溶けていく。
なんだか、とても眠い。
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