キラ星さんはいつも突然
「近くまで来たから」
キラ星さんが私の職場に顔を出してくれた。来てくれたのが嬉しくて思わず手を振る。でも、業務時間中なのであまり相手をしてあげることはできない。
そんなことは承知しているよ…という体でショールームを歩きながら展示品を眺めて行く。そして、その中の一つを手に取るとそれを持ってレジへ。
「これを買うんですか?」
「ダメですか?」
「ダメではないですけど、高いですよ」
「いいんですよ。これが気に入ったので」
そう言ってキラ星さんは満足そうに帰って行った。
仕事が終わると、私は早速キラ星さんにLINEする。
『今日はありがとうございました。あまり話できなくてすみませんでした』
すぐに既読が付いて返事が来た。相変わらず早い。
『姫の気配を感じているだけでいいんです。それに、姫が手を振ってくれたから、ボクも嬉しかったです』
思わず顔が赤くなる。誰かに見られていないかと辺りを見回す。続け様にキラ星さんから。
『もう、仕事は終わりですか?』
『はい、終わりです』
『では、お迎えに行きます』
えっ! お迎えって…。
「お疲れ様です」
建物の陰からひょっこり顔を出すキラ星さん。
「ここで、待っていたんですか?」
「そろそろ、終わるかと思って」
そう言ってにっこり笑うキラ星さん。その笑顔は卑怯です。
「お腹が空きました」
「ええ、私も」
「何か食べに行きましょう」
「はい」
私は近くのカフェへキラ星さんを案内する。
「陽気がいいのでテラス席にしましょう」
「はい、私もそう思っていました」
「ビールを飲みますか?」
「はい、ビールを飲みましょう」
運ばれてきたビールのグラスを併せて乾杯。すると、キラ星さんが鞄から紙袋を取り出した。私が勤めているショップの紙袋。それは先程、キラ星さんが買ったもの。
「どうぞ」
そう言ってそれを私に差し出すキラ星さん。
「えっ!」
「姫はこういうの好きでしょう」
「それはそうですけど…。こんな高価なものは頂けません」
「記念です」
「記念って…。なんの?」
「姫の笑顔が可愛いから」
うっ…。返す言葉が見つからない…。それに、そんなのはなんの記念でもないし…。キラ星さんの言葉にいつも私は驚かされる。面と向かってそんな言葉を言う人を私は他に知らないから。そろそろ、慣れないと。でも、ずっとこの新鮮な気持ちも大事にしたい。
「今日はこどもの日ですね。だから、ちょうどいいじゃないですか」
「あら、私はもう、いい大人ですよ」
「はい、素敵な女性です。でも、子供みたいにピュアな人です」
キラ星さんったらまた、そんなことを言う。微笑みながら私の顔をじっと見つめるキラ星さん。そんなに見られたら顔が…。
「今日はビールが濃いですね」
「えっ?」
「顔が赤いですよ。ボクも赤いです。姫が可愛いから」
「もう! キラ星さんったら」
相変わらず、仲良しの二人です。