「裸足の少年と赤い男」
街中を裸足で歩く少年に男が声をかけた。
「なんで君は裸足なんだい?」
少年は不思議そうな顔。
「え?逆になんでみんな靴を履いているの?」
質問に質問で返すとはまだまだ子供だな、男はなるべく分かりやすく教えてあげる事にした。
「ん?だって、そうだな、裸足じゃ足が痛くなるじゃんか」
「そうかな、アスファルトは平らで歩きやすいよ」
アスファルトだけならそうかもね。
「何か落ちてるかもしれないから危ないぜ」
「え、こんなに平らだもん、危ない物が落ちてりゃすぐに気付くよ」
気付けばいいけど気付かなけりゃ危ない。
「割れたガラスとか落ちてるかもだよ?」
「え?どこにもガラスなんて見当たらないけど」
男は腕を組んでウーンと考え始めた。
少年にはそんな男の様子が全く不思議だった。
「話がそれだけなら僕は行くよ」
「え?ああ」
男は不服そうだが、少年にはやっぱり意味が分からない。
スタスタと少年が歩き始めるのを見て、男は諦め「ま、一杯飲んで帰るか」と呑み屋さんに入ろうとした時、店先に積まれたビール瓶を見つけた。
「そうだ、これなら分かるだろう」
そこから瓶を一本抜き取り少年の前に蹴り飛ばしてみた。
それに気づいた少年が立ち止まると、男はしたり顔で言った。
「ほら、そういうのが落ちてるかもしれないだろ?」
少年が転がるビール瓶を見つめ黙っていると、さらに男はしたり顔。
「な、裸足でそんなの踏んだら危ないだろ?」
フー、と少年は長いため息をついて振り返った。
「何を言ってるんだ?危ないのはビール瓶じゃなくてお兄さんの方だよ」
少年はビール瓶を拾い店先に戻した。
男の顔が真っ赤に染まるのを少年はじっと見ている。
「そんな事より、お兄さんも裸足になってごらんよ、自分が何者か分かるからさ」
男の顔は赤いままだが、少年はまた歩き出した。
その背中を見つめる男は、思い出した様に少年に声をかけた。
「またどっかでな!」
少年は振り返る事なく片手を上げてその場を去った。
おしまい。