藤谷あかりの自宅
時間もだいぶ遅くなり、先ずはあかりを自宅まで送るため、今は再び屋台街を歩いている。人通りも少なくなってきていて、閉店している屋台も増えて来た。
「お! あのカラフルなわたあめなら木村さん向きだよな、絶対」
途中目に付いたお店のものを、留守番している小林達へのお土産にでもしょうと立ち寄るのは拓真の役目だ。
イカ焼きとチョコバナナは既に購入済みである。
「ねえねえ、彼女たちぃー。暇ならさぁ、俺らと遊ばない?」
(ちっ、またかよ)
目を離すとすぐこれだ。
屋台でわたあめを買うために少し彼女達を待たせていると、すぐにナンパな野郎が声をかけてくる。
さっさと綿あめを受け取って、拓真は彼女たちのもとへ駆け寄る。
「やあ! 咲良さん、あかりさんお待たせ」
「ああ、拓真君!」
「チッ、何だ、男連れかよ」
拓真が彼女達に声をかけて連れ仲間と判れば、大概の男はすぐに立ち去っていく。
幸いにしつこく付き纏うような人に絡まれていないから良いようなものの、もしそうなった場合、自分一人では太刀打ちできそうにないと内心おどおどしていた。
相変わらず咲良とあかりはくっ付いて歩いていて、美少女二人がにこやかに話しながら道を歩いていれば、その華やかさと魅惑に誘われている男達の視線が気になって仕方がない。
「ったく、夜道は色々と物騒だな。ホント」
なので彼女達が変な奴らに絡まれないように、すぐ後ろを付いてゆく。しっかりと睨みを利かせながら。
◇
「そういえば藤谷さんの家って、門限厳しくないの? もうこんな時間だしさ」
「普段は厳しいですよ、最低でも八時前には帰らないとパパにすっごく怒られます」
今やあかりは、拓真と普通に会話してくれるようになっていた。これも咲良のお陰かな。
「おう? 八時って結構厳しくない? 今日なんてもうとっくに過ぎてるし」
「今日は大丈夫ですよ、ほたる祭りの日は大目に見てくれます。なんたって、町の一大イベントですから。でも、女の子達だけっていうのが今日の参加条件でしたけど」
あかりはそう言うと、軽やかに笑っている。それってやばくない? ご両親に嘘ついてますけど。
「でもすっごく助かりました。咲良ちゃんが一緒ですから、なんとか誤魔化せます」
なるほど。まさかとは思うが、咲良との再会の時からこの子はこれを狙っていたんじゃないだろうか。
「じゃあ、私の家に着いたら、玄関でパパに一言お願いね咲良ちゃん。えへへ」
「あはは……上手く出来るかな。ちょっと心配」
「大丈夫よ、咲良ちゃんならそこらの女子よりはしっかりとしているし、うんうん」
それは言えてる。なんてったって学年でトップの成績保持者だから。逆に、一番の嫌われ者でもあるけど。
「それと、井上君は絶対に見えないところに隠れていて下さい。なんなら先に帰ってもらっても構いませんよ」
「おいおい!」
冷たく遇らうようにあかりは言う。
さすがに咲良を置いて帰る訳にはいかないでしょう。帰る家は一緒とはいえ、暗い夜道をひとりで歩かせるのは危険すぎる。
「咲良ちゃん。家に泊まっていかない? 久しぶりだから、もっとお話ししたいなあ」
なるほど、咲良が泊まっていけば拓真がひとりで帰ろうが何も問題はないということだ。
「あはは……着替え持って無いし、それに今日は疲れちゃったからまた今度ね」
「えー、仕方ないな、また今度、絶対だよ、約束だよ」
「ええ、約束ね」
思えば今日一日、何回も浴衣を着せ替えられて、モデルさんのような仕事をしていたから疲れていて当然である。早く家に帰って静かに休みたいのだろう。
それにしてもあかりは恥ずかしがりやさんの筈なのに、結構押しが強い子だなあと感じた。
もしかして、亮太が彼女と付き合うようになった切っ掛けって、この押しのせいなのかと思ってしまう。
そんな感じで路地を歩いていて「ここが私のお家よ」と言ってあかりが立ち止まり、たどり着いた場所、それは……
「おいおい、ちょっと待てよ。この家って……」
拓真はあかりの家の前で呆然と立ちすくむ。
「あっ! 思い出したわ。そういえばわたし、あかりの家に何回か遊びに来たよね」
「そうだよ咲良ちゃん。今まで忘れていたなんてショックです」
「ごめん、ごめん。あまりに久しぶりすぎてね、うっかりと言うか……だけど」
「だけど?」
言葉を詰まらせた咲良に、きょとんとした顔で首を傾げているあかり。拓真は未だ呆然としていた。
「あかり、ちょっとごめんね…………拓真君、これってどうしましょうか?」
あかりの側に居た咲良も、困惑の表情のまま拓真に耳打ちをする。
「あ? ああ……今、話しておくべきなのか、迷うところだが。遅かれ早かれ、いずれは知られてしまうかもな俺たちの事」
「……ですよね」
「だったら、妙な誤解をされないうちに言っておくべきだな」
「じゃあ、わたしから話します」
「ああ、頼むよ」
お互いあかりに聞こえないように相談する。
結論としては誤解を招かないうちに告げるに一致。できるだけあかりを刺激しないようにと。
「え? なになに? ふたりでコソコソと何の話?」
あかりの家の外見は、別にこれと言って普通の一般家庭のありふれた家だ。
問題なのはその立地場所であって、彼女たちが幼馴染と言っていた時に気付けば良かったんだ。
親同士の交流があるってのも条件だとは思うのだが、小さな子供が気軽に遊びに行ける所なんてそんなに広くない。幼馴染ならば、それなりに家が近くないと成立しないはず。
咲良の元々の家は、山の中にある小さな小屋だ。
まあ、例えそれに気付いたとしても結果は一緒なんだろうけど。
そのあかりの自宅は、拓真の家とわずか五十メートルも離れていない、お隣さんの家だった。
◇
「おう、おかえり」
夜の坂道を小走りで掛け上る咲良、下駄を履いてるのだからあまり無茶をして欲しくない。
彼女は息を切らせながら「ただいま。待った?」と、玄関のスロープに座っている拓真へ近寄ってきた。
「全然待ってないよ。それより、どう? パパさんは上手く誤魔化せた?」
「はい、そっちはもうバッチリです。パパさん、わたしの事はよく知っているので」
よくそのメイクで信用してもらえたなと、不思議に思ってしまったが。
「それよりあかりさんに説明はできた? この家に住み込みで働いていること」
「ええ、一応全て話したけど……納得しているかどうかは怪しいですね」
「やっぱり……あっ!」
拓真があかりの家を見れば、二階の部屋が明るくなり、その窓に人影が映っていた。おそらくあかりがこちらを見ているのだろう。
咲良も振り返り、それを確認した。
「……見てますね」
「だね」
咲良が手を振ってみると、窓の人影も手を振って返した。間違いない百%あかりだ。
亮太の彼女に監視されている日常ってどうなのと思う。しかも近日中に報告を受けた亮太が、この家まで押しかけて来るのは間違いないだろう。
「今日は疲れただろ、早く家に入って休もうぜ」
「はい。お留守番の二人が休ませてくれるか不安ですけど」
「だよな」
その後、拓真たちの帰りを待ちわびていた木村が、お土産のわたあめ片手にそれから一時間ほど騒いでいたのは言うまでもない。
疲れ切った咲良は、お風呂からあがるや否や、ソファーに座りそのまま眠ってしまったのだ。
拓真は、今日一日おつかれさまと言って毛布を掛けてあげた。
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