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亮太とあかり


「あれ? 拓真じゃね」


 よく知るクラスメイトの声に、咲良は繋いでいた手を瞬時に離した。

 拓真も慌てて手を引っ込め彼女から少しだけ離れる。


「今日はお祭りに来ないんじゃなかったのか?」

「う、うん。そのつもりだったけどね」


 バツが悪そうに頭を掻きながら、苦笑いをする拓真。

 こちらに近づいてくる亮太を見れば、その後ろをぴったり付いてくる女の子が居るのに気付く。


 そう言えば、今日のお祭りは彼女と一緒に楽しむと言っていたので、その女の子が藤谷ふじたにあかりなのだろう。


「亮太はあかりさんとお祭りって言ってたけど、もしかして背中に隠れている人がそうなの?」

「ああそうだ。本当はちゃんと紹介したいんだけど、恥ずかしがって……この通り」


 亮太は後ろを振り返ったり左右に動いてみるも、隠れている人影はそれに合わせてちょこちょこと動き決して離れない。


 さすが噂通りの恥ずかしがりやさんだけあり、亮太を盾にしっかりと隠れていて、こちらからはその顔が一切見えなかった。


「ほらね」

「まあしょうがないね、また次の機会に期待するよ」

「悪いな、拓真」


 亮太も困った顔をして頭を掻いていた。


 男子二人で向かい合い同じような仕草をしているものだから、側で見ていた咲良が口に手を当ててクスクスと笑っている。


「おう? 拓真。可愛い子連れてるじゃん。しかも浴衣でお揃いって、すげえな!」

「浴衣は小林さんが用意してくれたんだ。俺のは必要なかったけどな」

「いやいや、似合ってるぞ。いつもよりシュッとしていて、男らしく見えるわ」

「そうかな」

「俺が言うから間違いないぞ! 保証する」


 そう太鼓判を押した亮太は、顎を撫でながらニヒルな笑みを見せている。咲良も隣でコクコクと頷いていた。


「ほらな! そこの彼女も納得しているぞ」


 その通りと言わんばかりに、咲良は微笑を浮かべながら亮太にお辞儀で返していた。


「やあどもっ。それにしても拓真のお連れさん可愛いなああ゛っ、いててっ! ごめん、ごめん」


 突然痛がる亮太は、自分の背中に手をまわしているので、あかりが何かしらの攻撃を仕掛けたようだ。

 おそらく他の女の子を可愛いと言ったのが気に入らなかったのだろう。やきもち妬きですね。


「ところで、拓真さんよ。その子は誰? うちの生徒じゃなさそうだな、見たことない顔だから」


 どうやら木村のメイク魔法は完璧であると亮太の証言により確定した。これだけクラスメイトに晒しても咲良と判らないのであれば、今後また何かの機会で役立つ筈だ。


「ああ、紹介するよ。俺の地元のいとこで名前は、えーっと……」

「ん? どうした」


(あれ? 名前なんだったけ)


 咲良がその正体を隠すために名乗っていたその偽名を、ついさっき屋台の休憩所で聞いた筈なのに、すっかり忘れてしまっていた。


 思い出そうにもなかなか偽名が出てこない。咲良本人とばれていないなら適当に名前を付けて紹介してもいいのかもしれないが。

 でも後々、先に紹介した連中と一緒になって問い詰められた時に、名前が違えば余計に面倒くさい事になりそうだ。それはそれで困ってしまう。


 すると咲良が、すいと前に出て自己紹介をし始めた。もちろん偽名で。


「初めまして、わたしは井上翔子といいます」

「へえ、翔子ちゃんか。いい名前ですね。俺は鈴木亮太です、よろしく」

「亮太さんですね、拓真君から聞いていますよ。いつもお世話になっているって」

「いやあ、お世話だなんてそんなこと全然」

「いいえ、亮太さんが転校してきた拓真君の親友になってくれたお陰で、色々と助かったって言ってますよ。感謝してもしきれないって」


(いやいや、咲良さん! 俺そこまで思っていないから。ていうか、そんなこと言ったっけ?)


「その通りですよ翔子ちゃん。拓真も仏頂面せずに、もっと普段から感謝の気持ちを表現してくれても良いと思うんですよ」

「ほんと、そうですよねー。わかります」

「うんうん」


 何故か意気投合する咲良と亮太。拓真は意味がわかないといった感じで首を傾げる。


「翔子ちゃんは、ほたる祭りのために来たんだよね?」

「ええ、そうです」

「へえ、何で来たの、電車? それとも高速バスかな?」

「……ええ、そうですね……電車……かな」

「朝来たのかな、それともお昼頃? 勿論あずさだよね」

「あ、あずさ?」

「そ、あずさ。特急あずさ。カッコいいよね」

「は……はい」


 亮太の質問ラッシュの返答に困る咲良。そこまでの作り話は用意していなかったらしい。


「帰りも電車? ああ、もう今日は遅いから拓真ん家泊まるとか」

「え、ええ……まあ」


 お泊りというか、既に住み込みで働いているのだから、間違ってはいない。


「うひょー! いとことは言え、こんな可愛い娘がお泊りとは。拓真よ! なんて幸せな奴だあ゛あ゛いてて゛ッ!」


 どうやら亮太が他の女の子を可愛いと言えば、背中に張り付くあかりの攻撃が発動するシステムらしい。


「おいおい、あまり翔子さんをいじらないでくれよ。彼女困っているだろう」

「ごめんごめん」

「いいえ、わたしは全然大丈夫ですよ」


 咲良が若干の苦笑いで答えると、今まで身を隠し沈黙を守っていた人物、藤谷あかりが口を開いた。


「あの……」

「お! どうした、あかり。あかりも会話に参加したくなったか」

「……いいえ……その……」


 亮太の二の腕をしっかり掴んで、陰からひょっこりと顔をのぞかせていたあかりの瞳は、真っ直ぐ咲良を見つめていた。

 

 咲良も少しの間彼女の顔を確認していたのだが、その目は直視できずに何故か泳いでいたのだ。

 半開きになった口から絞り出すように、震えた声であかりに話しかける。


「……あ、はじめまして、あかり……さん。わたし、井上翔子っていいます」

「ち、違いますよね」

「……」


 ジッと睨んでいるあかりから直ぐに否定され、咲良は目を伏せてしまった。


 拓真も亮太も、この張り詰めた空気がどういった状況なのか全く理解できていおらず、ただただ息を呑んでいた。


 睨むように咲良をとらえるあかりの瞳は、まるで獲物を捕らえようとする肉食獣の様だ。

 さっきまでの恥ずかしそうにしていたのが嘘のように、亮太の背中から前に出てきたあかりは、堂々と咲良の前で向かい合っている。


 ガン見されている咲良は、何とか誤魔化そうと「えっと……どうされました? あかり……さん」などと言っているが、目の前のあかりと全然目を合わせられていなかった。


 さらに顔を近づけてまじまじと咲良の顔を見まわすあかりは「む、む、む」とうなりを上げていた。

 対する咲良は気圧され後退る。



 その時、拓真の中に嫌な予感が走った。

 咲良の顔を真剣に見入れられるとなると、その答えは決まっている。


 咲良を見つめるあかりの瞳には、だんだんと目尻に涙が溜まっていって、ちょっとした切っ掛けで崩れてしまいそうな物悲しい表情に変わってく。


「あの、あかりさん。翔子さんが困っているから、あまり……その」


 拓真はそう言ってあかりの接近を拒もうと、間に入ろうとする。

 だが、あかりは拓真の静止を振り切り、そして口を開いた。


「……咲良ちゃんだよね!」

「――――!」


 思った通り、彼女は正体を見破っていた。

 でもクラスは違うし、接点なんて殆ど無さそうなのになぜ?


 あかりが咲良の名前を叫ぶと同時に、大粒の涙が見る見る零れ落ちた。

 名前を呼ばれた咲良は、息を詰まらせている。


「やっぱりそうだ。その声、そのお顔! 間違いない、さくらちゃんだあああっ!!」


 たじろぐ咲良に、がばっと抱き着いたあかり。


「じんぱい゛しだんだよぉーー」


 咲良の胸の中で大粒の涙を流して泣いていた。



 号泣するあかりの頭を撫でながら「あかり、ごめんね」と、咲良はやさしく宥めていた。




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