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天狗姫のお夕食

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 拓真は、スプーンに掬い取ったカレーライスを口に運ぶと、その一口をゆっくりと味わった。


「……どうですか?」

「うん、おいしいよ! 山崎さん」

「よかったぁ」


 今夜の夕食は、咲良の作ったカレーライスだ。

 初めて他人のために作った料理らしいので、拓真の感想を聞くまでは妙に表情を強張らせていた。


 付け合わせに野菜サラダが一品添えられている。今後はもっと種類を増やしたい、今日はこれだけですみませんと、咲良は申し訳なさそうにしていた。


 そもそも咲良ができる料理のレシピは数えるくらいしかなく、とりあえず一週間分位のレシピは小林がメモ書きで残していったようだ。

 咲良が作るものなら同じメニューが続こうが、今の拓真には何の問題も無い。学校一の美少女とふたりきりで食事を楽しめるなんて、これ以上の幸せは無いと感じていたからだ。

 

 幾ら咲良が拓真の家にお世話になっていて、住み込みで働くと言ってもお互い学生の身である。拓真にしてみたら、ふたりで共同生活をしてく感じだと思っている。

 だから食事の準備だけでなく、家事全般を当番制でも良いので、割り振って互いに助け合いながら生活していけばと考えていた。


 拓真の感想を聞いてホッと胸を撫で下ろした咲良は、フォークを手に取り野菜サラダから食べ始めていく。


 お互い向かい合う形でテーブルに座っているので、拓真は正面の彼女の事がどうしても気になってしまう。


 とにかく、ふたりだけというこの状況に、どうにも拓真は落ち着かない。


 こういう時に、たわいも無い話や面白い話題などが浮かんで来れば良いのだが、生憎なことに今の拓真は緊張気味で、心に余裕を持たせることなど出来ないでいた。

 目の前の少女は平然としているのに、何か話さなければと思えば思うほど、無口になってしまう自分が情けなくなる。


 昨日は拓真たちを何かとからかっていた小林の存在を、鬱陶しいとさえ感じていたのだが、今日になってその有難みを痛感していた。言動こそアレだったが場の空気は穏やかだったので、それはそれで良かったと拓真は感じていた。


「誰かとお食事するって、楽しいですね」

「あ、……ああ、そ、そうだな」


 とんでもなくぎこちない返事をした拓真は、我ながらのヘタレっぷりにへこんでしまう。

 優しい笑顔で話しかけられると、余計に意識してしまって。心臓の鼓動が尋常じゃ無いくらいに鼓膜を震わせていた。

 しかも目の前の少女は、可愛いフリルの付いたピンクの真新しいエプロンを掛けていて、新妻の雰囲気を存分にかもし出していた。


(これってもしかして、世間で言う同棲ってやつなんじゃ……)


 そんな余計な考えが頭を過ると、更に目の前の少女の顔をまともに見られなくなってしまう。


(い、いけない。先ずはカレーに集中しよう)


 先程は緊張しているうえに味の感想まで求められていて、自分に盛られたカレーライスが殆ど目に入っていなかった。改めてその器を見ると、結構な量が盛り付けられている事に驚く。

 

(うーん。さすがに多いぞこれ……)


 胃袋の大きさは普通の男子とそれ程差は無いと思っているし、食欲だって人並みだ。それを考慮しても、目の前のカレーを拓真はちゃんと食べ切れるか不安になっていた。


 咲良が、男子で食べ盛りだから気を使って多めに盛り付けたのではないかと思い、彼女の器に盛られたカレーライスを見る。しかし、そこには拓真と変わらぬ量が盛られていた。


(まさか、山崎は全部食べられるのか?)


 昨日の咲良は極限にお腹が空いていたので、普段より多く胃袋に詰めたのだと拓真は思っていた。


 だがこの後、驚きの事実を目の当たりにする。


 食べ進むにつれその差が明らかになった。食べるペースは拓真よりも早い訳ではないが、ただ淡々と同じペースで食べ進める咲良は、拓真が半分の量に到達した時には、もう一皿目を食べ終わりそうになっていた。


「山崎さん、食べるの早いね」

「え、普通だと思いますけど」


 キョト顔で首を傾げる咲良。拓真の顔色を伺えば、少し表情を曇らせ。テーブルに視線を落とし、互いの量の差を見てはっとする。


「あ……あの、やっぱり、お口に合いませんでした?」

「いやいや、すごく美味しいよ」


 拓真のお腹はそろそろ限界に近付いていて、それが表情となって表れていたのかもしれない。それでも彼女が初めて自分のために作ってくれた料理なので、盛られた量は全て食べ切るつもりでいる。


「あの」

「ん?」

「お代わりしてもいいですか?」


 その後、咲良は3杯のカレーをペロリと平らげる。まだ平気そうな顔をしていたので、もしかして未だお腹いっぱいになっていないのか。


 拓真はというと、ぎりぎり平らげお腹をさすりながら天を仰いでいた。


「うぅー、お腹いっぱい。うっぷ」


 さすがに拓真に気を使ったのだろう、咲良はそこで食べるのを止めたようだ。





 食後は、リビングのソファーで拓真は暫し横になっていた。咲良はキッチンで後片付けをしている。


 拓真も片付けを手伝うと申し出たものの、どう見ても今の様子では使い物にならない。いいからあっちで休んでいて下さいと咲良に言われ、素直に引き下がったのだ。


 少し休んだ後、拓真の満腹中枢は徐々に治まってきた。むくりと起き上がりソファーに座り直すと、そこから咲良の居るキッチンを見渡す。もう後片付けは終わっている筈だが、どうやら彼女はメモを見ながら何かの作業をしているようだった。


 ピンクのエプロン姿であちこちに動き回り、たまに考え込む彼女を遠巻きにして眺めていると、なんだか可愛らしいその仕草に釘付けになってしまう。


 ぼーっと見ていた拓真に気付いた咲良は、自らの手を止めて拓真に呼び掛けた。


「あの、なんでしょうか?」

「……え、な、何やってるのかと思って」

「明日のお弁当の下ごしらえというか、準備ですね」


 何という事か、咲良の手作り弁当まで食べられるなんて。

 

(これは! 明日の昼休みが楽し……み、だな?)

 

 昼休みまで考えて、ふとある事を思い出す。そう、亮太が結成した『屋上の会』の存在だ。


 今日の拓真は弁当持ちだったので、明日も同じように持って行っても何ら怪しまれることは無いはずだ。そうなると問題となるのが、その中身である。

 作り手が違うと、中身の雰囲気まで変わってしまわないだろうか。今まで咲良がどういった感じのお弁当を学校に持ってきていたのか見た事はなかったので、予想だにできない。

 

「あのう、やまざ……」


 咲良にお弁当の中身は何なのか訊こうと、声を掛けようとした拓真だったが、その声は途中で区切れることに。

 あまりにも楽しそうに準備をしている彼女を見ると、弁当の中身まで詮索するのは気が引けて、逆にそんな男は嫌われてしまうのではと思ってしまう。


「ん? 拓真君なんか言った」

「いや……あ、お弁当凄く楽しみだなって」

「そうでうす? ふふっ、楽しみにしていて下さいね」


 やっぱり訊けない。

 まあ、小林の残していったメモを見ているようだったので、驚くほどの変わり映えはしていないだろうと、拓真は楽観的に考える事にする。

 あの美月さえ上手くかわせれば、なんとかなるだろうと思っていた。




お読み頂きありがとうございます。

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どうぞ宜しくお願いします。


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