噂の佐野美月さん
今日も終わりのチャイムが鳴り響く。
その日の課業が終わり挨拶の終了と同時に、咲良は鞄を手に取り直ぐに教室を出ていってしまう。
あの日以来彼女と話す機会は無かった。
今すぐ後を追いかけ校門さえ出てしまえば、会話できるチャンスは幾らでもあるのではないかと考えている。
気持ちではそうしたい拓真だったが、クラスに馴染むため放課後は友達と駄弁るのも大事だし、なにより彼女の後を追うと逆に目立ってしまうだろう。
なので、どうしても追いかける行動には移せなかった。
バスケをレギュラーで活躍している亮太は、練習で忙しい為それ程長く教室には居残らない。
いつも暇な拓真は、どうして暇なのか謎な男子数名につきあい、大体居残って雑談などをしている。
転校してきて間もない拓真は、ほぼ聞き手役での参加だったが。
話の内容はというと、ほとんどどうでもいいような内容だ。
たまに咲良も話題に上がるが、決まって天狗姫の振舞いを妬む内容である。いい話など一つも出てこない。
「そういえばさ。B組の佐野美月さんて、フリーになったの知ってた?」
噂好きの男子が美月の話を持ち出した。昼休みに亮太が言ってた子だ。
「そうなのか! 同じ男子バレー部の奴と付き合ってただろ」
「そう。そいつけっこう性格キツイ奴だったらしくてさ、なんでもGW中に別れたらしいぜ」
「ええ! マジかよ!」
「だってさ、あいついけ好かない奴だったろ。スカした野郎でさ」
「だよな」
「そうなると佐野さんて、いろんな奴からコクられんのかな」
「もうすでに撃沈した奴らが、ごろごろ居るらしい」
「だろうな」
「んじゃ、オレっちにもワンチャンあるんじゃねえの?」
「「「いや、無理無理」」」
皆で一斉に大笑い。拓真も一緒になって笑い飛ばしていた。近くに居た女子達に白い目で見られていたが。
今日は余計に雑談していたせいか、いつもより遅くに下校となった拓真。もう昇降口には生徒が殆どいなかった。
そろそろ部活を選定して、入部先を決めなければいけないのだが、あまり乗り気はしなかった。
とりあえず体育館にでも寄ってバスケでも見学しようかと思っていると、
(そういえば、夕食つくろうにも冷蔵庫の中、空っぽだったけ……)
いよいよ冷蔵庫の食材達が心細くなってきたのを思い出し、今日はこれからスーパーの買い出しに行く事とした。
急いで靴を履き替えて表に出ると、一人の少女が立っていた。
「こんにちは」
その少女は、さっきも話題になっていた佐野美月。
拓真と目が合うと、綺麗な笑みで軽く会釈をしてきた。
「あ、どうも」
「井上君ですよね? いつも鈴木君と一緒にいる。いまからお帰りですか?」
「うん。え、佐野さんは? 部活じゃないの」
「あぁっ。私の名前知っているんですね」
目を細め嬉しそうに答えた美月。彼女と近くで並ぶと目線の高さがほぼ一緒だった。
流石バレーボール部のエースにして、学年のアイドルである。背丈は拓真と一緒か、もしかするとそれ以上かもしれない。
「まあ一応……有名人だから知ってる」
タイムリーに彼女の事を知れていたので、そこは内心ほっとしている拓真だった。
「有名だなんてそんな事……私は普通の女の子ですよ」
美月は両掌を軽く振り謙遜していた。可愛い笑顔と彼女の控えめな態度は、一番人気になるのも頷ける。
「今日の部活は切り上げてきました」
「へえ、なんで?」
「今日は友達と一緒に帰る約束していて、今待っている所なんです」
「ああそう。じゃあ俺はこれで」
これといって特に彼女と話す事も無く、それよりもスーパーの買い出しを急ぎたいので立ち去ろうとしたが、
「あのっ!」
「ん?」
「今度……お昼一緒にたべませんか。鈴木君も一緒に」
「あー。いいよ。亮太に言っとくよ」
美月は胸に手をあてて、小さな声で「よかった」と呟く。拓真はそんな仕草に気付く事無く彼女を背にした。
「じゃ、さよなら」
右手をヒラヒラさせて、拓真は校門に向って足早に去っていく。
大きく手を振り「さようなら、またね」と元気よく叫ぶ美月だった。
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