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亮太の彼女は恥ずかしがり屋さん

 

 休日明けの登校日。


 やはりというか、学校での咲良の態度は相変わらず孤立を貫いて、誰も寄せ付けない雰囲気を放っていた。


 拓真に対しても全く同じで、コミュニケーションを取ろうなどという雰囲気は微塵も感じられなかった。

 休日の山奥での出来事が、まるで嘘のように思えてしまう。



 わたしを見るなと言われていても、やはり拓真は授業中などに横目でちらりと隣席の咲良を見てしまうのだ。


 すると、どうしても滝壺で佇む彼女の姿を思い出してしまって、その度に顔がカーっと熱くなる。そんな自分が気恥ずかしくもあり、情けなくもなってしまう。


 滝を落下する水が霧状となって裸体の彼女を包み込み、太陽光に照らされて色鮮やかな虹色の羽衣をまとう姿。

 普通では考えられない情景と幻想的な空間が、あの場所では確かに存在していた。


 拓真は一人静かに目を閉じれば、虹の羽衣をまとう艶やかな咲良の姿が瞼の裏に浮かび上がり、脳裏へ強烈に焼き付いている事を改めて自覚する。


(はぁ……山崎さん綺麗だったよなー。あんな所で裸でいるなんて……反則にも程がある)


 学校では話しかけるなと咲良に念を押されそれを承諾した手前、当然のごとく話しかけることなど出来ない。

 そのため拓真は少し面白くなかった。


 簡単に約束を破る度胸など端から持っていない、なにか上手いきっかけは無いものかとチャンスを伺っているのだが、特別これといったイベントは発生せず時間だけが経過していくことに。





 昼休みはいつも亮太と屋上で昼食である。いつもは売店でパンやおにぎりを購入していた拓真だったが、この日は転校してから初めてのお弁当を持ちだった。


「おっ、拓真。今日は弁当かよ! 誰の手作り?」


 いままで弁当など持ってきた事が無かったので、少し気恥ずかしそうにしていた拓真。

 その横で拓真の顔とお弁当を交互に見比べて、亮太がにんまりとした表情でからかっていた。


「小林さんが家に来て、作ってくれたんだよ」

「なに? それって拓真の彼女?」

「ちげぇよ。……あの俺さ、一人で暮らしてるって言っただろ」

「いや、それ初耳だから」

「あれ? そうだっけ」

「ほう、そんで彼女がお泊まりしてムフフしてお弁当作ってくれたのか」

「ちげーよ! ちょいちょい家に来てお世話してくれるおばさんが作ってくれたんだ」


 昨晩から拓真の家に小林が来ていて、家事などの面倒を見てくれていた。

 拓真は料理や洗濯物など、家事はある程度は一人でこなせている。しかし女性目線で見るとまだまだ目に余るところがあるらしく、色々と世話を焼いてくれているのだ。


 時折言われる小言が、母親より母親らしいので何とも頭が痛いのだが。


 夜遅くまで世話を焼いてくれた小林は、眠気と疲労を訴えて、昨晩泊っていくことになった。

 今朝目覚めると、宿泊のお礼として朝食とお弁当が用意されていたわけだ。


「すげえじゃん。拓真ん家って家政婦さん雇える程お金持ちなんだ!」

「いやいや。色々な事情があってだな……うん、今は一人暮らししてそうなっているけど、決して裕福な家ではなかった。むしろお金には困っていた位だったぞ」


 拓真は少し俯きながら答えていた。

 声のトーンを低くして語っている素ぶりは、あまり人には話したくない内容なのが伺える。


 つい最近まで母親と二人でアパート暮らしをしていた拓真。

 もの心が付いたときから母子家庭の環境で育ってきたため、生活が苦しくてもそれが当たり前のだと思っていた。

 当然母親が相当苦労していた事は、今でも十分理解しているつもりだ。


 だが今は生活環境ががらりと変わってしまい、高校生でありながら一人暮らしをする身分に。

 毎月仕送りされるお金も、生活していくには十分すぎるほどの額が与えられている。


「ふうん。その事情とやらは追々聞くとしてだな」

「はあ」

「一人寂しく暮らしている拓真の家に、近々遊びに行ってもいいか?」

「うーん、どうしようかな? 来てもいいんだけど……」

「いいんだけど? 何?」

「亮太の彼女教えてよ。そしたら遊びに来てもいいかな」

「えぇー、紹介はちょっとなー。彼女と要相談しなきゃだし」

「なあんだ、それなら期待しないで待ってるよ」

「悪いな、こっちにはこっちの事情があんだよ」

「ふーん、いいねえ、亮太は青春してるなあ」

「おやおや、拓真ってばホントは羨ましいんだろぅ、彼女が居る俺の事」


 亮太はにんまりと得意げな顔でリア充アピール。拓真はそれを苦笑いで牽制していた。


 最初こそお互い名字で呼んでいたが、一週間ほど経った今では、名前で呼び合う仲に。

 転校生の世話役として買って出た亮太は、明るくさっぱりとした性格だったので拓真と馬が合ったようだ。休み時間はほぼ二人でつるんでいる。


 プライベートの話もするようになり、亮太は積極的に自分の身の上話をしてくる。つい先日には、亮太の彼女の話も飛び出てきたのだ。


「別に、羨ましくはないけど気になるじゃん」

「えー、んーどーかなぁ? あかりは恥ずかしがり屋だからなぁ」

「ほほう。あかりさんと言うのか」

「あっ、こら! 探すんじゃねえぞ!」

「はいはい」


 亮太の彼女あかりは同じ学年ではあるが、クラスが違うらしい。付き合い始めてまだ間もないらしく、今のところ拓真だけがこの話を知っているようなのだ。


 その彼女は極度の恥ずかしがり屋さんで、亮太と付き合っている事を皆に知られたくないと言っているとか。

 なので、拓真も他言無用でお願いされている。


「そういえば、今度の休日にお祭りがあるってホント?」

「ああ、ほたる祭りな」

「亮太は彼女と行くの? ほたる祭り」

「行くよ、約束しているし。蛍が観れる所って真っ暗だから、顔を見られないから行きやすいんだぜ」


 そうか、お祭りでデートなのかとやっぱり羨ましく思ってしまった拓真だった。


「あとは、部活の連中と行く約束もしているから、その辺りどうしようか悩んでいる所だ」


 亮太は運動神経抜群で、明るい性格。背も高いほうで割と顔が整っているイケメン部類だ。世の女の子は放っては置かないと思うのだが、どういう経緯で極度の恥ずかしがり屋さんと付き合う事になったのか興味はある。


 全校生徒数がそれ程多くない田舎の高校なら亮太に紹介されなくても、きっと近いうちにあかりと遭遇するだろうと拓真は考えていた。


「だから拓真と行ける時が無いんだよなー、残念!」

「俺の事は別に気にするなよ。本々行こうとも思っていなかったし」

「いやいや、あれは行っておいた方がいいぜ。なんせ蛍様がメインだからな。きれいだぞー。それに、町の中もすげー賑やかだぜ」

「へえ。そういうもんなんだ」


 そんな情報を聞いてしまった拓真は、一体どんなお祭りなんだろうと興味が出てきてしまった。


 亮太とお祭り参加はできそうにないので、少し残念である。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

誤字・脱字等ありましたらご報告お願い致します。

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