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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
4章:暗殺少女の目指すもの
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再びの旅立ち

「本当に行くのかい?

 このままここに住んじまってもいいじゃないか」


 あれから数日後。

 様々な後始末を終えた二人が、旅装を整えてマチルダの家まで挨拶にきていた。

 話を聞いていたとはいえ、なんだかんだと縁のあった二人だ、別れてしまうのがどうにも惜しい。

 少しだけ、感傷的になっている自分がそんなことを言っていると自覚はあるのだけれど。


「うん、悪いけど……どうしても、済ませないといけない用事があるから」

「ごめんなさい、マチルダさん。終わったら、また戻ってきますから」


 感傷的なのはお互い様、いつもより歯切れの悪いレティと申し訳なさそうなエリーがそこにいて。

 互いに、ああ、と納得したような苦笑をかわす。


「まあ、あんたらがそこまで言うなら、仕方ない、か。

 あの家はあたしがちゃんと見とくからさ、安心して行っておいで」

「うん、ありがとう。後はよろしく、ね」

「すみません、宜しくお願いします」


 先に吹っ切れたような笑みを見せたのは、さすが年の功か。

 その笑みに促されるように、ぺこり、と二人で頭を下げる。


「うん、任せておきな。

 なんせ……随分なお給金までいただいたからねぇ。

 本当にいいのかい? もらいすぎだと思うんだけど」

「まあ、正直なところ……気持ち、というものも入ってはいるのだけど。

 支払うだけのことをお願いしている、とも思うから」


 依頼したのは、かつてセルジュのアトリエだった家の、清掃等を含む保全業務一般。

 あの後、本当に購入手続きを踏み、晴れてあの家は二人のものとなった。

 だが、その家に今は落ち着くわけにもいかず、考えた末マチルダにそれを頼むことにしたのだ。


「だからって、月に大金貨1枚、それを3か月先払いってのは大げさだと思うんだけどねぇ」

「実際、それくらい留守にしそうなんだもの。

 もしかしたらもっとかかるかも知れないし……」


 目指すコルドール王国の王都まで、徒歩なら片道3週間ほど。

 今回は馬を借りるが、それでも1週間以上かかる道のりだ。

 往復だけで1か月近く、王都での用事に2か月かかっても全くおかしくはない。

 既に説明を受けていたマチルダは、それでもため息をついてしまう。


「まあ、わかるんだけど、ね。

 もらいすぎってならないよう、ゆっくり行っておいでよ」

「あ、戻るのが遅くなったら、その分は後から払いますからね?」

「……こういう場合、しっかりしてる、って言うべきなのかねぇ」


 ゆっくり行き来すれば、その分こちらの好意で保全をすることもできる。

 そんな思惑は、あっさりと流された。

 にっこり、裏のないような笑顔が、お見通しだと告げているようにも見えて、苦笑する。


「こういうことは、しっかりしておきたいし。

 それに、私たちにとっても大事な場所だもの。

 それを守ってもらうのだから、筋は通したい」


 真顔で、照れもなく。

 そう言い切るレティを見るとそれ以上言えなくなって、肩を竦めるしかできなくて。


「わかったよ、ちゃんといただくことにするさ。

 こっちは任せて、二人とも、気を付けていってくるんだよ!」


 二人の、冒険者という肩書。

 それを考えれば、いつも無事に帰ってこれるとは限らない。

 だからこそ、少しでも心残りの無いように。


 マチルダは、二人を笑顔で送りだした。




 予約していた馬宿で馬を借り、手綱を引いて西門へ。

 門番相手に所定の手続きを済ませ、カポリカポリと馬を引く。

 行きかう人々の邪魔にならないように少し脇へそれて。

 くるり、街を振り返る。


「……しばらく、お別れ、だね」

「そう、ですね……。

 かなり、寂しいというか、名残惜しいです」

「そう、だね……」


 街の横に広がる、広大な湖。

 随分と見慣れた、見慣れない角度から見るそれと、街並み。

 門を行きかう人々は相変わらず雑多で、騒々しい。

 

 また別の場所に行く。

 それ自体はいつものことだし、慣れたことでもあるし、何より、やらねばならないことではある。


 それでも。

 この一か月余り、あまりに多くのことがありすぎた。

 大きなものを手に入れ、大きなものを失った。

 その痛みと、それ以外の何かは二人の心にはっきりと刻み込まれていて。

 この街から離れようとすると、ずきん、と妙な痛みを与えてくる。


「……ダメですねぇ、直さなくてもいいかな、とか思っちゃう私がいます。

 直らなくても、日常に影響はないから、って」

「気持ちはわからなくもないけれど。

 ……それでも、万が一があるから。そうなったら、私が、嫌だ」


 日常に影響があるわけではない。

 無理に冒険者として活動しなくても、当面食べていけるだけの貯えもある。

 だが、それはあくまでも、今の話だ。

 いつか、何かがどうにかなる可能性は、否定できないのだから。


「だから、ちゃんと直そう。じゃないと、心配だもの」

「……わかりました、そう言われたらもう、反論できません」


 そう言いながら、降参、とばかりに軽く両手を挙げる。

 おどけるようなエリーをしばらく見つめていたレティは、その手を握ってじぃっと瞳を見つめた。


「エリーはもうちょっと自分を大切にして。

 じゃないと、私が嫌だよ」


 心配そうな、むくれているような表情で、間近で。

 ……途端に、顔が熱くなってしまうような感覚を覚えてしまう。


「わ、わかりました、わかりましたから!

 ちゃんと自分を大事にしますから!」

「うん、わかったならいいのだけど」


 慌てて言いつくろうエリーに、うん、と一つ頷いて見せて。

 安堵したように穏やかな微笑みを見せるレティに、エリーが抗議する。


「だから、そういう、そういうところなんです、この女たらし~!!」

「……ふふ、なんだか久しぶりな気がする、ね」


 騒ぐエリーの声に、くすくすと笑って返した。

コルドール王都へとつながる街道は人通りも多く比較的平穏だ。

そう、聞いていたのだが。そこで油断するとたまにあること。

備えていても、たまにあること。


次回:時に、よくあること


降りかかる火の粉は、払うしかなく。

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