表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
3章:暗殺少女と旅の空
97/256

永遠の宿題

「とうちゃん、すげぇなぁ……これが、とうちゃんの絵かぁ」


 素直に感嘆したような声を、テオが漏らす。

 クオーツの街の公会堂。

 コンテストで大賞を受賞した作品が公開されるということで、大勢の人々が詰めかけていた。

 ましてそれが。


「はぁ~……セルジュのやつ、こんな絵を描いてたんだなぁ」

「こんなことなら、もうちょいおまけの一つでも付けてたら良かったよ」


 この街で、ついこの間まで生きていた、馴染みの人間が描いたものとあれば。

 人々の興味を引かないわけがない。


 大半は物見遊山。

 そんな中で、彼を知る人々から漏れる、惜しむような声。

 少しだけ、知ろうとしなかった後ろめたさを滲ませて。


 いずれにせよ、人々は興味関心を持ち、実際に絵その目で見て。

 ああだこうだ、思い思いに感想を口にしている。


 そんな光景を、レティ達は遠巻きに眺めていた。


「イグレットちゃん、エリーちゃん。

 ありがとうよ、本当に。

 あいつの絵が、こうしてちゃんと見てもらえて……胸がいっぱいっていうのはこういうことなのかねぇ」


 マチルダが、ぽつりとそうこぼした。

 隣に立っていたレティとエリーは一瞬顔を見合わせて。


「ううん、私が、そうしたかったから。

 だから、礼を言われることじゃないよ」

「そうですよ、あるべき形になっただけなんですから」


 微笑みながら、そう返す。

 マチルダも、そう返ってくるのがわかっていたのか、呆れたような笑みを返して。


 ……互いの笑みに、少しだけ物寂しさが滲むのも仕方ないと、互いに割り切って。


「それでも、さ。

 こうして……あいつの絵が、あいつの絵として皆に見てもらえる。

 テオにも見てもらえる。これは幸せなことだって、思うよ。

 ……あいつにも、見せてやりたかったなぁ……」


 少しだけ、声が震える。

 どうしようもない感傷と、わかってはいるけれど。

 それでも、どこか遠くから見ていて欲しい、とそう願わずにはいられない。


「そう、ですね……師匠の絵が、ちゃんとこうして、評価されたんですから……」

「届いていると、いいのだけれど……」


 確かめる術などないから、願うしかできないけれど。

 それでも、きっと、とそう祈る。


「ま、あたしとしては……テオの奴に届いていたら、それでいいさ」


 ふ、と見せる笑みは、母のそれ。

 その柔らかさに、一瞬目を引かれる。


「……テオくんを画家にしたい、とかは?」

「ああ、それは思ってないよ。テオが自分から言い出したら別だけどね。

 なんせ、よっぽどでないと食っていけないのは良く知ってるからさ」


 エリーの問いを、明るく笑い飛ばす。

 たくましく力強く、それでいて優しい笑みにふと、『母は強し』なんて言葉が浮かんでしまう。


「そういや、そっちでも二人には感謝しないと、だね。

 セルジュの賞金、あたしらがいただけるようにしてくれたんだろう?」

「ん……私たちが、というと少し違うけれど。

 私たちがもらう筋ではないし、セルジュもその方が嬉しいだろうし」


 大賞受賞者へ与えられる賞金。

 その受賞者が亡くなっていた上に、身寄りのない独り身。

 さてどうしたものか、と思案していたところに、レティ達が口をはさんで。

 離婚した元妻とその息子に与えるべき、と流れがそうなっていった。


「月に大金貨2枚、が100か月……8年ちょっと、か。

 確かに、一度に大金もらうと泥棒とか怖いから、ありがたいんだけどさ。

 色々、気を使ってもらいすぎな気もするんだよねぇ……」


 元来は、一度に賞金を授与されていた。

 だが、今回のように平民が受賞した場合、慣れない大金でのトラブルが考えられる。

 そのため、この受賞をきっかけに制度が変更されたのだ。


「いいんじゃない? 陛下も、色々検討するいい機会になったって言ってたし」

「……さらっと国王様との話をされると、恐れ多い気分にもなっちまうんだけどね?」


 国王陛下と親しくしている冒険者。

 明言されたわけではないが、どうやらそれが、目の前の二人の正体らしいことは、噂や言動から伺えた。

 なのにそれを鼻にかけるわけでもない二人と。

 そんな二人から師匠として、画家として敬意を払われている元夫が誇らしくもある。


「ふふ、あくまで陛下とは色々とお仕事上の付き合いがあっただけ、と思っていただけたら。

 今まで通りにお付き合いいただいた方が、私たち嬉しいです」


 にっこりと笑うエリーと、それに頷くレティと。

 そんな二人に、微笑みを返す。


「イグレットちゃん、エリーちゃん。

 ありがとうよ、本当に」


 少しだけ、その瞳は潤んでいた。




 しばし歓談を続けて、やがてマチルダがテオと共に家路について。

 その後も、二人は絵を眺めていた。

 傾くのが早くなった日の、斜めに差し込む薄紅の光が公会堂の中を染め上げていく。

 

 赤を纏うその絵は、また別の情感をも生み出すようで。

 無言で眺めることしばし。


「……違和感、ない、ですよね?」

「うん、大丈夫、だと思う。

 それこそ、セルジュだったら何か気づくかも知れないけれど」


 小声で、そんな言葉を交わす。

 エリーが加筆した場所は、二人は良くわかっているけれども。

 意識して見ても、そうとはわからないくらいに、馴染んでいた。

 あるいは、そう思いたかったのかも知れないけれど。

 少なくとも、見ていたギャラリーは誰も指摘していなかった。


 安堵したようなため息と。

 しばしの、沈黙。


 やがて、ゆっくりと口を開いて。


「そう、なんですよね……間違った加筆じゃない、と思うんです。そうも言ってもらってますし。

 でも、正解かどうか、は……セルジュ師匠に聞かないとわからないんですよね~……」

「さすがにそれは、無理、だよね?」


 いかに古代兵器であろうと、いかに探査魔術の使い手であろうと。

 死んだ人間と会話をすることなどできないのだから。


「ええ、だから……私、絵を続けます。

 いつか、師匠に追い付いたと思えた時に、この絵をもう一度見て……そうしたら、きっと」


 きっと、答えが出るのだろう。

 それがいつになるかは、わからないけれど。


「ん……いいと思うよ。

 私も、そうして欲しい、な……」


 答えが、出ますように。

 彼の人生に。彼女の問いに。

 それは、長きに渡る問答になるだろうけれども。


 きっと、挑む価値があるから。


「ええ、任せてください、私、頑張りますから!」


 『ここから』始めよう。前へ進もう。

 その先にあるものを信じて。


 改めて見上げた絵に、そう願い、誓った。

会議は進む、されど踊ることなど許されない。

一歩踏み外せば首が飛ぶ秘密の会議。

そして彼らは暗躍する。


次回:闇に蠢くナニカ


物語は、ここから動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ