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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
3章:暗殺少女と旅の空
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画家と、その依頼

「すみません、大変失礼いたしました。

 私はセルジュ、しがない画家をやっています」


 しばしエリーと盛り上がった後に。

 やっと落ち着いた男が、自己紹介をする。


 情けなく下がった眉、へらりと笑みを浮かべる口元。

 ……どうにも、画家というには覇気がない。


「……私はイグレット。こっちはエリー」

「エリーと申します、宜しくお願いいたします。

 で、セルジュさん。レティさんをモデルにとはお目が高いですね。

 ああ、それは先程語り尽くしました、そうじゃなくてですね。

 絵のモデルとはどういった?」


 また荒ぶりそうだった自分を抑え込み、営業スマイルを見せる。


 隙あらばレティ語り。


 なぜか、そんな言葉がレティの脳裏に浮かんだりしながら。

 エリーの問いかけ自体は自分も思っていたので、大人しくセルジュの言葉を待つ。


「ああ、はい、説明が足りなくてすみません。

 まず、毎年バランディア王国が主催する絵画コンクールがあるのはご存知ですか?」


 との問いかけに、二人は当然首を横に振る。

 それを見て小さく頷くと、セルジュは言葉を続ける。


「これまでは、騎士爵位以上の方しか応募することができなかったのですが、今年から平民にも門戸が開かれることになりまして!

 いやぁ、これも新しく王となられたリオハルト陛下のおかげでしょうか……。

 まあとにかく、私のような平民も応募できることになりまして。

 ……こんな年で今更、とも思いますが……万が一、でもあると思うと堪えきれず」


 訥々と語るその口調は、平静を装おうとしていたけれども。

 たじろぎそうになるくらいに、その目に籠められた熱。

 思わず背筋が伸びてしまう。


「なるほど、それで出展することにした、と。

 でも、どうしてレティさんをモデルに?」

「ああ、それは、ですね……」


 エリーの問いかけに、口ごもる。

 自身の感情を、時間をかけて言葉にしていく。


「お見かけして、この人だと思ったんです。

 こちらの方の湖を見つめる瞳が、私の探していたものとぴったり合致しまして!」

「……私、そんな大層なことはしてないと思うのだけど……」


 熱の入った男の言葉に、レティは思わずたじろぐ。

 と、その肩が、ぽん、と叩かれた。


 エリーである。


「何を言ってるんですか?

 レティさんがそこにいるだけで、それは詩的な芸術になるんですよ?」

「……うん、ちょっと落ち着こうか、エリー。

 大分おかしなことになっている自覚はある……?」


 どうしよう。

 自身の人生において、ここまで困惑することはなかった。

 今まで接したことのない、人の情念――――片方は戦術兵器だが――――それに晒されて、どうしたものか、わからない。


 ただ、一つだけわかるのは……ここまで突き動かす何かがある、ということだけで。


 困惑の中、それが少しだけ……本当に、少しだけ、眩しくも思えた。


「……モデルをやること自体は構わないのだけど……。

 具体的に、どうすればいいの?」


 結局、折れた。というか、受け入れた。

 途端に、二人の眼が輝く。


 ……なぜ、エリーまで……そう、心の中でぼやいてしまう。


「そうですね、具体的には……あちらに私のアトリエがあるんですが、そちらで一日二時間程度、数日間来ていただいて、椅子に座っていただければ」

「……それだけ、なの?」


 話を聞くと、そんなに大したことではなさそうだ。

 小首を傾げながら確認すると、セルジュは一度頷き、それから慌てて何かを打ち消すように手を振った。


「あ、多少ポーズの指定はしますけども。

 でも、そんなにきついポーズの予定はないので、ご安心ください。

 ……いかがですか?」


 そう問いかけてくる瞳の色には、どこか見覚えがある。


「マネージャーとして私が同伴していいなら、許可しましょう!」


 ああ。

 あの時。『ウィスケラフ』を眠らせることをお願いしてきた誰かさんの瞳に、そっくりだ。


 だったら。


「エリー……どうして、あなたが許可してるの……?

 まあ……いいのだけど……」


 呆れたような声を、作る。

 なるほど、人はこういう時に取り繕うらしい。


 そんな、余計な学習をしながら。


 二人へと頷いて見せた。



 ……直後、湧き上がりハイタッチをしあう二人を見て、後悔したけれども。

自分は何者であるか。

その問いは難しく、時に永遠の謎となる。

しかし、それは不意に与えられることもあり。


次回:汝は何者なりや


自分程、自分を知らないものはないのかも知れず。


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― 新着の感想 ―
[一言] 絵のモデル……。女性2人……。湖……。小屋…… 見た覚えが……、いやしかし、ここまでの話にデジャブはなかったはず 途中で切った作品か、それとも続編を待つうちに忘れた小説か…… ただの既視感か…
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