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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
1章:暗殺少女は夢をみるか
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人ならざるモノ

 落ち合った時、テッドは真っ青な顔をしていた。


「なんだよ、ありゃ……本当に人間なのかよ?」


 いきなり愚痴から始まり、それから収集した情報、見てきたもの、それらを話す。


「途中までは普通に進んでるだけだったんだよ。

 そりゃ、あんだけガチガチの武装したパーティにちょっかいかける賊は普通いないだろうさ。

 ところが、途中で山賊に見える……んだが、装備や動きが妙に洗練されてる連中が出てきてな

 で、連中の気を引いてる間に後ろから襲う算段だったらしいんだがな……」


 いわく、装備や動きから、どこぞの貴族お抱えの私兵ではないか。

 次期公爵、あるいは王族への婿入りすら期待される若者を、今のうちに摘んでしまおうという算段にも見えた。

 大方、公爵家に反目するどこぞの貴族の手の者だったのだろう。

 だが、その目論見はあっさり裏切られることになる。


「完璧な奇襲に見えたんだ。どう考えたってあの隠れ身からの、あのタイミングで気づける奴はいない。

 なのに、奴は完璧に反応してみせた。背後からの完璧な奇襲だぞ?

 なのに、あっさり仕掛けて来た一人をずんばらりんだ。

 正直な、俺には……奴が全く相手を見ずに剣を振るったようにしか見えなかった。

 そんなことできるわけないだろ?だけど、奴はやっちまったんだよ……。

 人間が、紙切れみたいにあっさりと真っ二つになってな……。

 その後はもう、一方的さ」


 その時の光景と……かなり遠くから見ていたというのに、一瞬視線を向けられたような気がした時の恐怖を思い出して。

 テッドは小刻みに体を震わせた。


「テッドがそこまで言うのなら、相当なんだね……」

「なあ、ゴースト。悪いことは言わねぇ、奴に手を出すのは止めねぇか?

 ほっときゃ遺跡で自滅するかも知れないんだろう?」


 心の底から心配しているテッドの言葉に、彼女はしばし考えて…首を横に振った。


「あなたの言うことが本当ならば、彼が無事に踏破して帰還する可能性は高いように思う。

 手ごわい魔物がいる気配はあったけれど……敵わないかも。

 放っておいたら失敗することになるから……やるしかない」


 悲壮感は全くない。

 いや、そもそも感情がほとんど無い。

 そんないつもの淡々とした様子に、テッドはため息をついた。


「お前さんならそう言うんじゃないかとは思ったんだけどさぁ……。

 わかったよ、もう止めやしない。

 だがな、無理はすんなよ? お前がいなくなったら、うちの組織はおまんまの食い上げなんだ」


 テッドはしばらく心配そうな顔をしていたが、諦めた様にそう言うとおどけた笑みを浮かべ、片目をつぶった。


「最大限努力はする。

 ……じゃあ、行ってくる……多分、あれくらいの遺跡だと踏破に一週間くらいはかかるんじゃないかな……」

「おう、わかった。

 こっちは例の山小屋で待機してるから、何かあったら知らせてくれ。

 ……本当に、無茶だけはすんなよ?」


 そう言い聞かせると、テッドはまた街へと戻っていった。


 それを見送ることもなく、あっさりと背を向けると。

 また、森の中へ……遺跡へ向かって歩き始めた。



 それから、入り口付近で一日張り込んだところで、彼らは到着した。

 ……既にすっかりくたびれてしまっているお供と、やたらと楽し気で元気が溢れているカーチスの落差が激しい。。

 なるほど、遠目にもその活力……生物としての力強さを見せつけられるような気がした。

 貴公子然とした整った顔立ち、明るい茶色の髪を伸ばして一つにくくり、背中に垂らして。

 よく手入れされた金属鎧に腰の長剣、と見た目は騎士物語に出てくる騎士の様だが……明らかに目つきが違う。

 その目には、野獣のような凶暴さを宿していた。



 ……と。

 不意に、カーチスがこちらを見ようとした。

 す……と慌てることなく、木陰に身を隠す。


 ……気づかれるような距離ではない。

 そしてそんなヘマもするはずがない。

 隠れたまま、ゴーストはそう考える。

 しばらく呼吸を抑え、気配を伺い……こちらに向かってくる様子はないのを確認した。


「どうやら……厄介な相手、というのは本当らしい、ね……」


 彼女にしては珍しく、ため息をついた。


 こちらに気づきそうになった勘の良さ。

 遠目にもわかる、常人とは一線を画した身のこなし。

 重力を感じさせない軽やかな歩み、無雑作そうに見えて油断のない態勢。

 

 何よりも、彼の感覚に引っ掛かるような錯覚を覚える、周囲に漂う薄っすらとした、しかし明確に感じる寒々しい空気。

 ここまでの相手は、幾多の仕事をこなしてきたゴーストでも初めてだった。


「まあ、それでも……人間、だよね」


 刃は通る。それも間違いない。

 そうであれば……幽霊の類でないのならば。

 『ゴースト』の名を持つ自分に狩れない相手ではない。そう、小さく頷く。

 

 それは、彼女にとっての当たり前。

 自負やプライドといったものではなく……人が歩けるように。物を掴めるように。

 そんな感覚なのだ。


 しばらくの後、動き出したらしい。

 少しずつ寒々しい空気が薄まり……消えて。


 そっと、木の陰から視線をやる。

 ……どうやら、遺跡へと向かったようだ。


 本番はこれから。

 十分すぎるほどの距離を置いて追跡を再開しながら、あの規格外の人間をどう仕留めるかの算段を始めた。

来た。見た。屠った。

あまりに凄惨な、人の形をした暴力。

死をまき散らし、荒れ狂うそれはさながら竜巻。

そしてたどり着いた先で思う。お楽しみはこれからだ、と。


次回:「勇者」が見せる惨劇


それはまるで、人の皮を被った野獣のごとく。

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