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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
3章:暗殺少女と旅の空
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彼女と彼女の選択

 数回検証して、どうやらエリーの推測が正しいらしい、と判明して。

 マナ・ボルトは集団制圧用ではなく、精密射撃が必要な時用にしよう、と合意。


 ……そんなシチュエーションはあるのか? と二人して首を捻ったりしながら。


 現状のおおよそは確認できた、と一度宿に戻ることにした。




「ということで、皇国首都は昔はこの辺りだったんですが……」


 宿に戻り、ベッドに二人並んで腰かけて地図を広げる。

 エリーの修理に必要な部品がある、可能性がある場所を、地図上で指さす。

 その場所には、しっかりと都市があることが記されていた。


「ここ、コルドール王国の首都だね……。

 大きな古代遺跡があるはずだけど」

「え。じゃあ、大当たりの可能性が?!」


 あまり期待していなかったエリーは、思わず顔を輝かせる。

 だが、レティは微妙な表情をしていて。


「……有名な遺跡だから、大分発掘されてるはずなんだよね……」

「え~……じゃあ、探しにいっても、ない、かも?」


 その答えに、がくり、とうなだれる。

 ぽんぽん、と頭を撫でながら、レティが言葉を続ける。


「まあでも、発掘されたものは、売られてたりするらしいし、探すのもありだよ」

「う~……でも、そうやって並んでる古代の魔術器具って、高くないですか?」

「え……? 別に、今ならミスリル銀貨250枚は出せるわけだし」

「……うん、レティさん、そこに正座」


 なぜ? という顔をしながらも、言われた通りにちょこんと正座する。

 その様子が可愛くて、なんだかまた色々と我慢して苦悶の表情を浮かべながら、エリーも向かいに正座した。


「いいですか、レティさん。

 お金は大事です。確かにいきなり手に入ったあぶく銭ですが、だからこそ大事に使うべきです」

「うん、だから、大事なことだよ?」


 お説教しようとしたところに、痛烈なカウンター。

 呆気にとられた顔で、口をぱくぱくと開閉させるだけで、何も言えなくなってしまう。


 段々と、顔が赤くなっていくのを感じる。

 だから、なんでこんな機能があるんだと場違いに文句を頭の中でぼやきながら、コホンと咳払い一つ。


「レティさんが大事に思ってくれているのは嬉しいのですが……。

 その、なくてもなんとかなる、ということは今日確認しましたよね?」

「うん、そうだね」

「だったら、今後の生活のことも考えて、残すものは残すべきだと思うんですよ」


 顔が真っ赤のままでは説得力がないな、とも思いながら。

 なんとか真面目くさった顔をひくひくとしながらも維持して、説得を続ける。

 だが。


「わかるけど……全部使うと決まったわけではないし。

 それに……生きていくお金なら、二人で稼げば大丈夫だよね?」


 さも当然に。

 いや、元々表情に乏しいからそう見えるのかも知れないが。

 けれど、エリーにはさも当然に見えてしまったわけで。


 その意味するところを深読みしてしまい、突っ伏して撃沈した。


「……エリー?」

「あのですね、レティさん……さっきもなんですけど……心臓に悪いこと言うのやめてください……。

 いえ、私心臓ないんですけど……」


 多分、というか間違いなくそんな意図はない。

 それでも、レティの考える未来に自分も当たり前のようにいることが、どうしようもなく嬉しい。


 間違いなく、今自分はとても気持ち悪い顔をしている。

 突っ伏して顔を伏せたまま、エリーはそんなことを考えていた。



「とりあえず、そもそも発掘されて店に並んでいるのかを確認しないと、話になりませんよね」


 ぐるぐると考えて、考えて。丘の上の白い壁の小さな家で二人、などと妄想に耽りかけていたところを何とか自力で引き戻し、コホンと咳払い。

 何とか立ち直り、改めて仕切り直す。


「そうだね……じゃあ、当面の方針としては……。

 またバランディアに行って、殿下とかゲオルグに話を聞いてみて、なかったらコルドール、かな」

「そういうことになるかと。

 ……あ、歩きだと一週間以上かかりますけど、どうします?」


 ふと思い出したように尋ねるエリーに、こてん、と小首を傾げて。

 しばし、沈黙。


 やがて、口を開いて。


「ん……歩きで、良いんじゃない?

 エリーが早く解決したいなら、馬を借りるけど」

「や、私は歩きでいいですよ、大丈夫です。

 気分が悪いとか、そういうのはないですし」


 大丈夫です、と軽く手を振られると、ほっと小さなため息が漏れた。

 おや? と不思議そうにエリーが見やると。


「そう……なら、良かった。

 あの時はバタバタしてたから……ゆっくり、エリーと歩いてみたかった」


 うんうん、と満足そうにうなずくレティを見て、もう我慢の限界だった。

 エリーはぷるぷると震えながら、じり、じり、と正座のまま近づいていく。


「レティさん、あのですね、わかっててやってないのはわかってるんですけども。

 色々言いたいことはありますがとりあえず抱き着いていいですか?」

「……え?

 それはもちろんいいけど……変なエリー」


 そう不思議そうに言いながら、おいで、と両手を広げる。

 森の中から色々とため込んで我慢していたエリーは、居てもたまらず飛び込むように抱き着いた。


 勢いが良すぎて、二人してベッドに倒れこむ。


「……本当に、変なエリー……」


 くすくすと小さな笑い声をこぼしながら。

 抱きつかれるがままに、抱きつかれていた。

この場所を離れ、次の場所へ向かう。

いつだって旅立ちは切なさと期待感が紙一重。

道中に見えるは、一度見知ったはずの新しい景色。


次回:旅路に、見えるもの


同じ道が、違うものに見えるのは良くあること

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