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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
3章:暗殺少女と旅の空
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トラブルは突然に

「レティさん、困ったことになりました。」


 トーマス宅での晩餐の後。

 絡みついてくるエリーをなんとか支えながら宿へと戻り、ベッドに転がり込んだ、翌朝。


 ちょこん、とベッドに正座したエリーが真面目な顔で見つめてきた。


 ちなみに、昨夜は力尽きて、同じベッドで寝てしまっていた。

 ただ、寝ていただけである。


 体を起こしたレティは、不思議そうに小首を傾げる。


「……困った、こと……?

 一体、どうしたの……?」


 見たところ、昨日と何か変わったわけではない。

 もちろん、部屋に侵入されたとか、そんなこともない。


 では、何が? と見つめていると。


 しばらくもごもご、話しにくそうにしていたエリーが、やっと口を開いた。


「その……どうも、マナ・ボルトが使えなくなりました……」

「え。」


 とても申し訳なさそうな告白に、目をぱちくりと瞬かせてしまった。



「……使えなくなった、って一体どうしたの?」


 突然すぎる告白からようやっと持ち直したレティが不思議そうに尋ねる。

 それに対して、困ったように頬を掻きながら。


「それが、そのぉ……マナ・ボルトの照準を付ける情報処理回路が、ちょっと壊れちゃったみたいで……。

 『ウィスケラフ』のところで操作してた時に、無理な負荷がかかったらしく……自動修復機能でもちゃんと直せないみたいで」

「情報処理回路。 ……なんとなく、わかった、ような、わからないような……」


 その言葉やそれに類する言葉は何度か聞いた。

 多分こんな役割なのだろう、程度には理解……と言っていいのかはわからないが、解釈はしていた。


 だが、その意味するところを考えると。


「……え、ちょっと待って。

 ということは……エリー、頭大丈夫なの?」

「……ごめんなさい、心配してくれてるのはわかるんですけど、その表現はちょっと……。

 ともあれ、一応、こうして会話はできますし、記憶も大丈夫なんですけど……一部の回路が、という感じです」


 しばらく考えて、どうやら人格だとかそういう部分は大丈夫らしい、と理解すると、ほっと安堵のため息。

 申し訳なさそうに俯いてるエリーの頭へと手を伸ばして、そっと撫でて。


「ん、そう……エリーがちゃんとエリーなら、良かった。

 心配しちゃった、よ……」

「……だからぁ、そういうところ、なんですってばぁ」


 道具として劣化してしまった自分と。

 それでも、きっとそう言ってくれるだろうという信頼と。


 色々と満たされてしまって、ぎゅ、と抱き着いてしまう。


 レティはそれを優しく抱き留めると、落ち着くまでぽむぽむと、頭を撫で続けた。




「まあ、大体荒事は終わったし、生活費も当面どころでなく大丈夫なわけだし……

 危ないところに首をつっこまなければ大丈夫だよね」

「そうやって冷静に分析されると……さっきまでの私の感動を返してくれませんか?」


 ようやっと落ち着いたところで、そんなやり取りをしながら。

 ……微妙に離れがたく、まだ二人は抱き合っていたりしつつ。


「でも実際……大体なんとかならない?

 マナ・ブラスターは使えそうなの?」

「あ、はい、それは多分、大丈夫です。

 まだ撃ってないから、断言はできませんけど……」

「じゃあ、後で試しに行こう。

 適当な、森の中でも」

「そうですね、確認はしておいた方が良さそうです」


 そんなことを言いながら、二人でうだうだ。

 朝ごはんを食べるまでに、大分時間を使ってしまった。




 それから、朝ごはんを食べて、外に出る。

 しばらく歩いて、森の中。


 ……以前、秘密の取引に使われていた広場へと出た。


「ここならほとんど人も来ないし、大丈夫じゃないかな」

「確かに、ここなら……標的もたくさんありますし」


 そう言いながら、周囲を見渡す。


 人気のない森の中にある広場。

 当然、手ごろな低木などもたくさんあって。

 これならば、的には事欠かないことだろう。


「じゃあ……まずは、マナ・ボルトの確認、かな?」

「はい。 ……レティさん、私の後ろに立っててくださいね」


 言われて、レティが素直に背後に立ったのを感じると、すぅ、と一呼吸。


 いつもよりも慎重に、発射の手順を踏む。……踏もうとする。


 標的の認識、はもちろんできるのだが。

 照準を付けようとすると、いつもの白い円は出て来なかったり、照準をしてはキャンセル、すぐ別のところを照準、と、まともに照準を付けさせてくれない。


 この状態で打つと、どうなることやら……。

 とは言え、確かめないわけにもいかず。


 出力を最小限に、最小限に、絞って……。


「マナ・ボルト」


 そっと、小声で。


 途端、ぽひゅ、と小さな音で、小指程の大きさの魔力の弾丸が……。

 発生は、したけれど。

 完全に目標を見失っていて、あらぬ方へと飛び去っていった。


 それを、しばし無言で見つめて。


「……うん、マナ・ボルトは難しいね……」

「うう、すみません、ごめんなさい……何この羞恥、わかっていたのに、恥ずかしいっ」


 そう、この結果はわかっていたし、確認のためだったわけだが。

 それでも、上手くやれなかったことは、なんとも恥ずかしい。


「じゃあ、次、マナ・ブラスターにいこう」

「そういう淡々としたところ、嫌いじゃないです……。

 ……では。 マナ・ブラスター」


 虚空炉ヴォイド・ジェネレータから生じた魔力を、伝達回路を通して手先まで。

 十分に集まるまで溜めて、いつもの手順で……放出。


 ぶぉん、と空気を震わせながら魔力の奔流があふれ出し、木々をなぎ倒す。


 何本も、なぎ倒す。



「……エリー?」

「あ、あはははは……び、微妙に、出力の制御も上手くいってない、かな~?」


 もう少し抑えていたつもりだったのだが、どうにも、思ったよりも出力が上がってしまっていた。


「ん……出力制御も情報処理回路絡みだろうし、仕方ない、かな……。

 ああ、後は結界かな」

「あ、それもそうですね。

 ……とりあえず、対物理結界を張りました」

「ん、じゃあ……ああ、これは大丈夫、だね」


 詠唱も無しに結界を発生させると、レティが軽く手で叩こうとして、それが遮られる。

 コンコンとノックすると、その手ごたえは十分そうで。


「対魔法は、ゲオルグとかに協力してもらわないと確認できないから、また今度、かな。

 ……一応、わかった上で立ち回れば問題なさそう」

「……だから、なんでそんなに冷静なんですか、もう」


 各種確認を終えて、うんうんと満足そうに頷くレティへと、むくれたような顔を見せる。

 不思議そうに振り返られて。


「え、だって……どういう風に一緒にいるかを考えるだけでしょう?」

「…………レティさん。 

 後で宿に戻ったらお話があります」


 色々と我慢して抑え込んでいるエリーを、不思議そうにレティは眺めていた。

起こったことは仕方ない。ならば次を考える。

何が起こった、その把握から。


次回:確認、そして、対処法


往々にして、何とかなる、こともある。

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