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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
2章:暗殺少女は旅に出る
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掴んだのは、一握の砂

 巨大な構造物が崩れていく大きく重々しい音が、遠くで聞こえる。

 時折、何かが破裂するような音も、聞こえて。


 遠くで聞こえる音、遠くなった耳では、どこか別世界の音のようにも聞こえて。

 夢現に、それを聞いていた。


 ふわり、風が吹く。


 ……風?


 そして感じる草と土の匂い。


 ふと、違和感に気づく意識に。



「し、死ぬかと思った……」



 そう、ぼやくように呟く声が、聞こえた。

 それは、紛れもなく。

 聞き間違えることもなく。


 多分、すぐ傍にいる。

 幾度か抱きしめられ、何度も感じた香りがする。


 ああ、手までしっかりと握られている。


 その姿を確かめようにも、地面に投げ出された体は、魔力酔いの影響か、仰向けのまま碌に動けない。


 だから、ぎゅ、と握り返した。


「……良かった……エリー、生きてた……」


 握り返されたことでそのことを実感したのか、心の底から安堵した声。

 それは、聞きたくてたまらなかった声で。

 感じたくてたまらなかった体温で。


 だから、思わずこぼれた言葉は。



「良かった、じゃないですよ、ばかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

 なんで、どうして、来れるわけないのに、来ちゃいけないのにぃぃぃぃ!!!

 アホですか、アホですね、アホなんですねぇぇぇぇぇ!!!!」

「……うん、やっぱり理不尽だよ、エリー……」


 力いっぱい罵倒された、というのに。

 返ってくるのは、安堵したような声。

 まだほとんど目は見えないが、どんな顔をしてるか、想像できる気がした。


「理不尽じゃないです!!

 来れるはずないのに……人間が、耐えられるはずないのに、なんで来ちゃったんですか!」

「……えっと……その、ね……。

 だって、会いたかった、から……離れたく、なかった、から……」


 そんな直球の言葉に、エリーが固まる。

 ぎゅぅ、と強く、手を握った。

 言葉を、考える。考える。……考え、られない。


「私だって会いたかったですよ、ばかぁぁぁ!!!

 会いたかった、会いたかった、会えたぁぁぁぁぁ!!!!」


 少しだけ、身体が動いた。

 何とか、身を捩って、ごろり。

 芋虫よりもゆっくりな動きで、隣で寝転がっていたレティにしがみつく。


 多分、レティも碌に動けないのだろう。

 それでも、ゆっくり、ゆっくり、手を動かして……抱きしめ返す。


「レティさんだ……レティさんだ!

 レティさん、レティさん、レティさん……」


 しがみついた体温は、身体に馴染んだもので。

 その香り、身体、指先。

 全てが、懐かしくて、愛おしい。


「……もう、エリーったら……。

 ふふ、子供みたい……」


 聞き慣れた声で、聞き慣れない、声音。

 がばっと顔を挙げようと、して、身体が動かず、うめき声が出てしまう。


「れ、レティさん? あの、今……」

「ん……何か、おかしかった……?」

「おかしいというか、いつもと違う、というか…ですね」

「……そう、かもね……ふふ、なんだかね、凄く……気分が、高揚、してる、みたい……」


 間違いない。

 それは、かすかではあるものの……間違いなく。

 笑って、いた。


「生きてて、良かった。

 エリーも、私も、生きてた……いつもの、エリーだった。

 そう思ったら、なんだか……なんだろう、これ。

 ……楽しい、とはちょっと違う……」

「……えっと、多分、ですね。

 それは、嬉しい、とか……そういう気持ち、だと思います」

「……ああ、これが……嬉しい……ふ、ふふ、そう、だね、きっと私は……嬉しい、んだ。

 エリーが生きてて。私が生きてて。……いつもの私たちが、嬉しいんだ……」


 くすくすと、小気味良く聞こえる笑い声は、どこまでも心地よく、耳に馴染んで。

 いつまでも聞いていたい、そんな気持ちにさせる。


 ああ。

 生きて、帰ってきたんだ。

 連れ帰ってくれたんだ。


 そう理解して、実感が押し寄せてきて。


「レティさんのばかぁぁぁぁぁ!!!

 嬉しい、じゃないですよ、こんな無茶してぇぇぇぇ!!」

「……だって……仕方ないじゃない、会いたかったんだもの……。

 それに、できちゃったんだし」


 それが照れ隠しの言葉であることは十分わかっているのだろう、不機嫌になるどころか少し機嫌良さそうに。

 まだ碌に動かない手で、ぽむ、ぽむ、と宥めるように背中を叩く。


「できちゃったって……。

 ……あれ? そうだ、なんで、私たち、ここに……ここ、どこです?」


 見回す、にも首が動かない。

 視線だけを動かして、まるで見覚えのない草原を眺める。


「……さあ、どこだろう……咄嗟だったから、座標の指定がめちゃくちゃで……」

「咄嗟って……え。……あの、どうやって、ここまで……?

 『跳躍リープ』って、二人でできましたっけ……?

「……できた、みたいだね……」


 さすがに気まずかったのか、「やったことなかったけど」とはとてもとても小さな声で呟かれた。

 そして、エリーの耳は、それをしっかりとキャッチしていた。


「ぶっつけ本番じゃないですかぁぁぁぁ!!

 そんなのを、あんな、あんな……下手したら、一緒に焼かれてたんですよ?!」

「ああ……まあ、そうだったかも、ね?」

「ね? じゃないですよ! 可愛いですけど! 可愛いですけど! 

 でもそれとこれとは別問題ですから!!!」

「えっと……褒められてるの? 貶されてるの?」

「罵倒してるんですよ、ばかぁぁぁぁ!!!」


 段々と、何があったのか理解できてきた。

 それは、それは……生還して、少し頭が回るようになった今考えると、とんでもないことで。


「……いや、そもそも、どうやってあそこまで来たんですか……多分、あの状況だと、探知魔術効かないですよね……?」

「うん、全然、わからなくて、ね……。

 でも、行きたくて、エリーのことしか考えられなくなって……。

 急に『そこ』って閃いて……そのまま、跳んだの」

「それ、あてずっぽうですよねぇ?!!」

「でも、ちょうどそこに、エリーが居たんだよ?

 だから慌てて抱きかかえて、すぐに跳んで……さすがに、ちょっと……大分、しんどかったけど……」


 普通の人間ならば、1秒居ただけで体が焼き尽くされかねない濃度の魔力だった。

 現代の人間としては飛び抜けて魔力が高いレティだからこそ、ほんの1秒かそこら、耐えられた程度。

「死ぬかと思った」は決して大げさではない。


「もっと離れたところに出ちゃったら、どうなってたと思うんですか!」

「ちょっと、それも考えたんだけど、ね……いっかぁ、って」

「良くないいいぃぃぃ!!もしそんなことになってたら、私、私っ!!

 レティさんが死んでくとこ、見る羽目になってたんですよぉぉ?!!」

「……あ。……ごめん、それは……本当に、ごめん……そこまで、考えてる余裕なかった……」

「だから、ばか、っていうんですよ……私、所詮道具なんですよ?

 大事にはして欲しいですけど、どうしようもない時は、捨てちゃってください……」


 ずるいことを言っている自覚はあった。

 そんなことを言われたら、彼女がどう返答するか、薄々とわかっていたから。

 でも、今は、それが欲しかった。


「やだ。

 絶対、捨てない。

 私は、あなたのマスターだもの。捨てちゃうなんて、筋が通らない」


 きっぱり、はっきり。

 欲しかった言葉が、告げられる。


 ああ、やっぱり、そうだった。

 この人は、そういう人だった。


 そう思うと、しがみつく腕に力がこもる。


「レティさんの、ばかぁ……ばか、ばかぁ……

 でも、だから、大好きぃ……」

「ん……ありがとう、でいいのかな……。

 ……ごめんね、エリー。私は、こんなだから、はっきりとは言えないのだけれど……。

 きっと、私もエリーのことが、好きだよ」


 ぎゅ、と、まだ力の戻らない腕で、それでも力いっぱい、抱きしめる。

 しがみつかれる力が、どうにも、心地良い。

 まだ、よくわかっていないけれど。

 この感情に名前をつけるならば、きっとそうなのだろう。


 なんだかくすぐったくて、くすくすとまた笑みがこぼれてしまう。



 見上げると、いつの間にか空は少しずつ、青から赤へと変わっていて。

 抱き合ったまま見上げた空は、やけに暖かく輝いて見えた。


事は成った。だが、これは終わりではない。

全てはここから始まる。始めるのだが。

だが、その前に。


次回:王として


片付けるものは、山積みで。


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