表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
2章:暗殺少女は旅に出る
38/256

鉄壁少女と人の言う

 レティ達と別れたエリーと、その護衛の騎士10名は、王子の巻き起こしている騒動から隠れるように走っていた。


 途中、時折見とがめた宰相の手下に駆け寄られたが、数人の兵士程度、手練れの騎士達にかかれば一瞬で斬り伏せられる。

 ほとんど走る速度を落とすことなく、王城の裏手へ向かって駆け抜けて。

 徐々にエリーの感覚は、漏れ出す魔力を感知し始めていた。


「この先、ですね……もう少しです、急ぎましょう!」


 そう騎士達に声をかけると、力強い頷きを返される。

 角を、曲がって。


「危ない!!」


 騎士達が一斉に盾を構え、エリーの前に立ちふさがる。

 がん!!がん!!と立て続けに響く、鋭くも重い音。

 その音は、良く知っている。


 騎士達の盾に、矢が何本も突き立っていく。

 曲がった先、開けた場所には20人ほどの兵士が集まっていた。

 その手には、短弓ショートボウが握られていて、良く訓練された動きで、一斉に斉射を行ってくる。


 直ぐに状況を確認、視線を走らせる。

 騎士達は、まだ持ちこたえているのを横目で確認して。

 兵士達に、照準が合った。


「マナ・ボルトぉ!!!!」


 全力で、魔力の矢を解き放つ。

 普通の魔術師の使うマナ・ボルトよりも遥かに強い光を放つ矢が、一瞬網のように広がった後、一気に兵士たちに襲い掛かり、鎧ごと撃ち抜き、上半身を吹き飛ばしていく。

 照準から逃れた数人が、そのあまりの光景に茫然と、弓を引く手を止めてしまい。

 そこに追い打ちのように、また魔力の矢が襲い掛かる。


 時間にして20秒も経っていないだろうか。

 あっという間に制圧してしまったエリーの火力に、壁となっていた騎士達が恐る恐る振り返る。

 如何に修羅場になれているとは言え、その光景はあまりに衝撃的だった。


「えっと……エリーちゃん……いや、エリーさん、あいや、エリー殿?

 い、今のは一体……」

「え? ただのマナ・ボルトですよ?」

「いや、ただのじゃねーよ、どう考えても!!

 何者だよ、ほんとにさあ!」


 次席魔術師の攻撃魔術を防ぎ切ったとは聞いていた。

 強力な結界を張れるとは聞いていた。


 ……こんな攻撃力を持っているとは、とんと聞いていなかった。


 考えてみれば、強力な結界を張れるのであれば魔力も強いはずなので、攻撃魔術が強いのも道理ではあるのだが……。

 それでも、この淑やかに見える外見からは、想像もできなかった。


「ほらほら、ぼ~っとしてないで、先にいきましょ?

 もうちょっとで着くはずですよ!」

「イエス・マム!!」


 ……その態度の変わり方に解せないものを感じながらも、再び走り出した騎士達の後ろについていく。

 どうやら魔術のマナ・ボルトと誤魔化せてはいるようだ。


 途中でも襲い掛かってくる兵士はいたが、エリーの火力を認識した騎士達が斬り伏せ、数が多ければ受け止め、エリーが仕留める。

 この辺りの呼吸の合わせ方、臨機応変さはさすがゲオルグの部下というべきだろうか。

 勢いを止められないままに、駆け抜けて、駆け抜けて。


 いよいよ、『雷帝の庭』への入り口がある広場へと到着する、直前。

 最後の曲がり角を曲がろうとしたところで、学習した騎士達が止まり、エリーへも止まるようハンドサイン。

 そっと、角の向こうを覗き込んだ騎士が呆れたような顔で振り返る。


「この数はさすがに予想してなかったんだが……。

 50人くらい、待ち伏せてやがる……いくら何でも必死すぎだろ」


 それを聞いたエリーは、そっと手鏡を差し出して曲がり角の向こうを確認。

 確かに、相当な数の兵士が弓や槍を手に待ち受けている。


「……エリーちゃん、いや、エリー殿、手馴れてんな、そういうとこ」

「これくらい、乙女の嗜みってやつですよ。

 それはそうとして、どうしますかね……」


 騎士達を振り返る。

 一般的な物よりも堅牢な作りをしている盾ではあるが、数本の矢を受けてところどころにヒビも入っており、強度の部分で心もとない。

 先程の二倍以上の矢を受けて、耐えられるものか……。


「盾、保つと思います?」

「正直、厳しいとは思う。

 ……まあ、この鎧だったら、あんたに矢を届かせないくらいはできるぜ」

「どうしてこう、騎士って人たちはそうなんですかね……」


 全くぶれない声音で、自分たちの鎧と体で盾になると暗に告げてくるのを見ると、そう愚痴らざるをえない。

 つまりは、それだけ彼らは、ふざけているようで真剣なのだ。

 であれば。

 そんな男気を見せられて、みすみす死なせるわけにはいかない。


「別の方法があります。

 私が対物理結界を張って突っ込みます。

 ついでにマナ・ボルトで攪乱しますので、後から皆さんで突撃してください」

「いや、それは……ああ、だが……。

 あれか、対物理の結界もやっぱり硬いのか?」

攻城弓バリスタだって止めてみせますよ?」

「よぉし、わかった、すまんが任せた」


 自信満々、などではない。

 あっさりと当たり前のように言うその姿に、騎士のプライドには寝ててもらうことにした。

 意地を張ってここでしくじるわけにはいかないのだ。


 では、とエリーが詠唱をする、振り。

 魔法の使えない騎士達でも、何かが空気を震わせて発生したことを感じ取れた。


「……これなら、一度なら斉射に耐えられるか?」

「多分、大丈夫だと思いますよ?」

「よし、じゃあ、済まんが一度だけ耐えてくれ。

 そのタイミングで俺たちも突っ込む」

「はい、わかりました♪」


 自分の身を囮にするというのに、まるで気負いのない気楽さで頷くエリーをまじまじと見つめて。

 うん、と騎士達はお互いに頷きあった。

 絶対に、このお嬢ちゃんを死なせない。

 そう、互いの目が語っていた。


「じゃあ、3つ数えたら行きます。

 三、二、一っ!」


 騎士達が頷いたのを確認すると、カウントダウン。

 数え終わったところで、ばっと曲がり角の向こうへ身をさらす。


 途端に襲い来る、矢。矢、矢。

 一瞬視界が矢で埋められたような錯覚さえ覚えた。


 そして。

 エリーの張った対物理結界は、期待通り、その矢を全て受け止める。

 同時に視線を走らせて、照準。


「マナ・ボルト!!!」


 吹き出すように爆発的に広がる光。

 迸る幾筋もの光の奔流が襲い掛かり、男たちを吹き飛ばしていく。


 は?と呆気に取られる兵士達。


 その光が収まった途端、騎士達が一斉に飛び出していく。

 半数近くに数が減り、何よりも……無残な姿になった仲間の姿を目の当たりにした兵士達は、大半が抵抗する気力を奪われていた。

 そこに騎士達が襲い掛かり、エリーのマナ・ボルトの二射目も放たれて。

 程なくして、制圧が完了した。



「よっし、これでオールクリアだ。

 後はいよいよ……エリー殿にお任せするしかないわけなんだが」

「はい、ここまでありがとうございます。後はお任せください。

 ……ですから、皆さんも無理にとどまらないでくださいね?

 危ないと思ったらすぐ逃げること!

 どうせ、私のいるところまで侵入できる人はそういないんですから」

「そうだなー、適当なところで撤収するさ。

 こっちのことは気にせず、やることやってくれ、頼んだぜ」

「はい、では、行ってきます!」


 そう言うと、エリーは入り口を開け、濃厚な魔力が噴き出すのに、一瞬顔を伏せて。

 にっこりと笑うと、入り口から中へと駆け出していった。


「さて。

 適当なところで、ってことは、どこまでが適当か自分で決めるわけなんだが。

 ……うん、お前ら、全員同じ考えだな?」

「そりゃそーだろ。あんだけ活躍されて、あんだけ体張られてだな。

 ほっとける奴は、ここにゃいねぇだろ」

「そりゃそーだ」


 お互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑いあう。


「ほんじゃまあ、覚悟決めて意地張りましょうかね!!」


 こちらへと向かってくる足音が聞こえる。

 転がっている弓と矢を拾い集めて、半数が構え、半数は盾を揃えて構え。


「来やがれ! ここは通さねぇぞ、コノヤロウ!!!」


 裂帛の気合を吐き出した。

受けた依頼は数知れず。果たした依頼はその数だけ。

依頼完遂率100%の女が、その片鱗を見せつける。



次回:その女、ミスリル銀貨100枚につき


もちろん、お安い女でありはしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ