そして始まる日常
※結婚式後の短編になります。一応この話だけで完結している、はず……?
色々な意味で盛大だった結婚式の、翌朝……というには日が高くなってしまった頃。
「ふぁあ~……あれ、レティさん……?」
一糸まとわぬ姿のエリーが、ベッドの中でやや寝ぼけた様子で身体を起こした。
なお、彼女が本来は魔導兵器であり、睡眠も然程しない存在である、ということを気にしてはいけない。
シーツをたぐり寄せて隠された胸元の上、鎖骨や首筋などあちこちに赤い痕が付いているのも気にしてはいけない。
何しろ昨日は新婚初夜だったのだ、事実上婦婦同然の生活を送っていた二人であっても、普段と違った気分で燃え上がってしまったのも仕方のないところ。
そのため、エリーは疲労困憊となってこんな時間まで寝てしまっていたのだ。
「ああ、エリー、起きた?」
エリーがまだベッドから抜け出られないところに、そうさせた張本人がいつもの表情が薄い顔で声を掛けてきた。
そちらへと目を向ければ、エリーは目を見開き小さく喉を鳴らす。
下着姿にシャツを羽織っただけの姿は、ほっそりとした肢体をより鮮明に見せるかのよう。
日に焼けたことがないかのような肌が、手足だけでなくシャツの隙間からちらちらと見える様はどうにも今のエリーには目の毒だ。
思わず目を逸らそうとして……全く視線は動かない。
いや、忙しなく小刻みにあちこちを見ようと目は動いているから、動かないと言うと語弊はあるが。
対象物がレティに固定されている、という意味では間違いでもないだろう。
「……起きてる、よね? 大丈夫?」
視線をこちらに向けたまま固まっている様子に、小首を傾げながらレティはエリーの元へと近づく。
軽く彼女の目の前で手を振って、じぃ、と見つめて。
「おはよう」
淀みない動きで、ちゅっとエリーの額に軽くキス。
途端、エリーの頬に赤身が差す。
「なっ! い、いきなりなんですが、レティさん!」
「なんですかとはご挨拶だね。朝の挨拶じゃない」
済ました顔で言えば、今度は頬へと口づけるレティ。
もちろん、エリーの頬はますます赤くなるわけで。
「んなっ!? い、今までこんな朝の挨拶してなかったですよね!?」
「そう?」
エリーの抗議に、はて、と小首を傾げるレティ。
しばし考えれば……こういった形でのおはようのキスはしていなかったかも知れない。
「……言われてみれば?」
「ほらぁ!」
「大体、同じくらいの時間に目覚めて、布団の中でキスしてしばらくおしゃべりして、それから起きてたし」
「詳細に描写しなくていいです! っていうか普段の方が恥ずかしいことしてたかも!?」
普段の朝のまどろみと戯れが脳裏に浮かび、エリーは思わず頭を抱えてしまう。
と、レティが一瞬だけ動きを止めて。
「……なるほど? もしかしてエリー、誘ってたの?」
「ふぇ? ……あ。」
あまりに予想外な台詞に、エリーはキョトンとした顔になって。
それから、イグレットの視線を追えば……間の抜けた声が漏れ出てしまった。
胸元に引き上げていたシーツから手を離して頭を抱えたのだ、当然たわわな膨らみが露わになって。
そこには、首筋や鎖骨などにも負けぬほどの昨夜の痕跡が残っていて。
「そうだね、新婚なのだからそういうのもあり、とリタも言っていたし……」
「何変なこと吹き込んでるんですかあの人!? い、いえ、なしじゃないんですけど、ないんですけど!」
ベッドへ乗り込んで来ようとしているレティへと向けて、押しとどめるように両手を突き出すエリー。
普段であれば嬉々として迎え入れるだろうに、とレティは小首を傾げる。
この至近距離、格闘戦能力において遙かに優るレティがその気になれば、エリーを組み伏せるなど造作もないこと。
だがそれをしないのは、エリーの意思を尊重しているからだ。
……たまに無理矢理風にすることはあるが、それはあくまでもお互いの合意があってのことである。
なのでエリーの意思を確認するため律儀にレティが待っていると、どうやら襲いかかってはこないらしいと見たエリーが口を開く。
「……やっと、色々と一段落付きましたし……明るいうちに、絵の練習をしておきたいなって」
「……ああ、なるほど……」
言われて、レティも納得したように頷いて返した。
太陽が天高く登った昼時、今から始めてしまえば終わる頃には日も傾き、そもそもエリーに絵筆を手にする体力が残っているかも怪しい。
……いや、ベッドから出られなくなってしまっていることはほぼ確実である、と妙な確信を持つレティ。
であれば、ここは引かないわけにはいかないところだろう。
「そう言われたら、私も引かざるを得ないね。何しろ……」
ベッドから身を引き、すっくと立ちながら室内を見回し……そして、戻って来た扉から向こうを見やる。
かつてと違って、きちんと整理された画材道具、かつて住んでいた男が残した数々の絵。
彼は、短い間ではあったが、エリーの師匠となった男でもあって。
それらを前にしてエリーがそう言えば、レティの胸にも様々な思いが去来する。
彼女に取っても、決してその男の存在は軽くないのだから。
「ここを買い取ったのは、そのためだし、ね」
「ええ、ここは、残しておきたかったですし、僭越ながら……引き継ぎたいと、思いましたし」
彼……セルジュの残した絵の方を見ながら、エリーは気恥ずかしげに笑う。
師事した短い期間で、彼の全てを受け継いだとは到底言えないし、言うつもりもない。
ただ、何か大事なものは受け取れたとだけは、言い切れる。
それが何であるかは、これから形にしていかなければいけないけれど。
「うん、私も、それはそうしてもらいたいし……集中出来るように、って家に手も入れたし」
レティが旅をしている間、マチルダに大工を手配してもらい外壁などの修繕をしてもらっていた。
おかげで外観はかなり綺麗になったし、隙間風などもまるでない。
内装も、台所回りなどはかなりよくなっていた。
「あ、それで思い出した。簡単なものを作ったから朝ご飯に……いや、もう昼ご飯だけど、とにかく、食べない?」
「わ、レティさんが用意してくれたんですか!? ありがとうございます、いただきま……っすう!?」
ベッドから抜け出そうとしたところで、足に上手く力が入らず、かくんとエリーの体勢が崩れてしまう。
だが、まるでそれを読んでいたかのように、すっとレティが身体を寄せて抱き留めた。
「……確かに、ちょっと自重した方が良さそうだね、これは」
「もうっ、誰のせいですか誰の!」
顔を真っ赤にしてエリーが抗議するも、レティは涼しい顔で聞き流している。
更にはそしらぬ顔で今夜はどこまで加減するかの算段を胸の内でしているのだが……それを見抜いたかのようにエリーはジト目でレティを見るも、まるで効果はないようだ。
しばらくそうしても変わらない様子に、はぁ、と溜息を一つつくと、エリーは適当に衣服を身に着けてからダイニングへと向かうのだった。
※3章の内容をまとめて、修正して挿絵をつけたものを電子書籍にまとめました。
以前と同じく、kindleにて販売しておりますので、もしよろしければご購入いただけると大変嬉しいです。
今回も表紙、挿絵を「道割草物語」や「万葬不踏の欺神迷宮」をお描きになっておられる、武川慎先生にお願いできました!!
超絶美麗な絵となっております、是非ご覧いただければ!
特に、「絶対これは要るよね」と先生も私も意見が一致したあの場面は、場面は必見です!!
……4章以降も……もっと早めにまとめられましたら……と思っております……。




