↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
6章:暗殺少女の向かう先
248/256

つないだ手をそのままに

「どうですかレティさん!」

「当たった、でも砕けてない!」


 手応えのあったエリーが声を上げ、間近で観測していたレティが首を振りながら返す。

 ならばもう一撃、と魔力を集中したその時。

 ぞくり、と二人同時に、言い知れない悪寒を感じた。


「レティさん!」

「わかった!」


 エリーの声に、即座にレティが『跳躍』でエリーの傍まで移動して肩に手をかける。

 そしてすぐさまエリーが対魔結界を張った、次の瞬間。

 耳をつんざく轟音と共に、先ほどの爆発的な魔力を上回る、出力補正の掛かったエリーの結界ですら軋む程の圧力が襲いかかってきた。


「こ、これはっ……きついっ!」

「エリー、ごめん、頑張って!」


 結界に関しては役に立たないレティが、せめてもとエリーを励ます。

 それに心を奮い立たせたエリーは、結界が破られてしまわないよう、必死に制御して、踏みとどまった。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 時間の感覚もなくなる程の必死な抵抗の甲斐あって、なんとか二人は、まだその場に立っていられた。


「はーっ、はーっ……な、何ですか今の……」

「わからない、けど……どうやら、終わってないことだけは間違いない、ね」


 レティの視線の先を見れば、アウグストらしき人影が、呆然と立ち尽くしていた。

 らしき、と言ったのは、人の形をしていなかったからだ。


 後頭部、延髄の辺りには突き出した角のようなもの。

 首筋、腕、脇腹、脚……あちこちに、金属光沢を帯びたうろこのような何かが棘のように生えている。

 その場所には、見覚えがあった。……全て、レティが切りつけた場所だ。

 さらに指は太く節くれ立ったものになり、爪が、異様に鋭く伸びている。

 

「レティさん、あれ、まさか……」

「うん、異形化しようとしている、ように見える、けど……?」


 その割には、中途半端な変化だ。何より、今まで見てきたそれは、もっと短時間で異形と化していたはず。

 言い知れぬ違和感にしばらく観察していると、ピクリ、とアウグストが身じろぎをした。


「……まて、やめろ……やめろ、私の身体だ、お前のものではない!」

『無駄だ、再生の魔力が侵食した部位は、我の支配が及ぶ領域。

 首など切られた貴様に、抗う術は無い』


 アウグストとは違う、低く響く声。

 その言葉を見せつけるかのように、そして具合を確かめるようにゆっくりと手を開閉しているかと思えば、弱々しく首を横に振っている。

 それも随分と緩慢、かつ動かしている範囲は狭いもので、なんともぎこちない。

 

「何故だ、何故だ! 私のものだ、この身体は! この国は!

 神の国が私のものならば、この世もまた私のものであるはず!」

『ならば己が手一つで掴めばよいものを。我の力に縋ったばかりに、この様よ』


 身勝手な悲嘆と、傲慢な嘲りが同じアウグストの口から零れてくる。

 その様を、呆気に取られて見ていた二人は、ちらりと互いに視線を交わした。


「……乗っ取られかけてますね」

「だね」

「これ、今のうちに攻撃しちゃった方が……」


 エリーが呟いた瞬間。ぎゅるり、と異質な音がしそうな程に唐突にアウグストの目が動く。

 と、それを見たレティが、何か考える前にエリーを左手で突き飛ばした。


 刹那、ぎぃん、と金属質な音を響かせて、レティの小剣がアウグストの爪を弾く。

 

『クカカカ! やるではないか小娘ぇ!』

「煩い、耳障り」


 ぼやきながら、レティは小剣をいつものように構え直した。

 弾いた衝撃で若干手に痺れが残っているが、そんなことはおくびにも出さないし、言ってもいられない。

 あの一瞬でこの距離を縮めてきた跳躍力と俊敏性は、明らかにカーチスよりも上だった。

 その上、先ほどまでのアウグストの動きなどまるで感じさせない、鋭く洗練された動き。

 どうやら、完全に乗っ取ってしまったらしい。恐らく、封印されていた『魔王』が。


『フハッ! 煩いか、ならば黙らせてやろうか!』


 支離滅裂なことを言いながら、また『魔王』が迫り来る。

 鷲掴みするような形にしていた指を伸ばして爪を揃えれば、それがさらに伸びて剣のように変形した。

 と思えば、その刃が無造作に、レティの喉元へと向けて突き出される。


 無造作だからこそ動き出しがわかりにくい突きを、レティは小剣の腹で逸らし、踏み込もうと見せる。

 しかし瞬時に横に流れれば、直前までレティが居た場所を、左手に生やした剣が貫いていた。


「やっぱり、そっちも使えたか」

『この程度で不意は突けぬか、結構結構!』


 『魔王』から見て左側面へと回ったレティへと即座に反応し、突きを放った左手を、今度は横払いに薙ぐ。

 すぃ、と後ろに下がったレティはそれを空振りさせ、直後踏み込むも今度は右の剣が上から振ってきた。

 それを小剣で受け流し、勢いを付けて床へと打ち落とす。

 もちろん、爪から生えている剣がそれで取り落とされはしないが、体勢は僅かばかり崩れた。

 そこを狙ってさらに踏み込もうとしたのだが。


『フハッ! その程度ぉ!』


 ぐぎゅり、ごぎゅり、と嫌な音がする。

 強引に手首を、肘を捻り、膝を無理矢理動かして右の剣を跳ね上げてきた。

 それを剣の腹で受けると、その勢いを利用してレティは自ら飛び、剣の威力を殺しながら距離を取る。


「……まさか、今のわざと身体が壊れるような動きした?」

『良い読みをしているではないか。腕だけでなく頭も回るか、実に良い!』


 先ほどまでの、アウグストと『魔王』の会話を考えれば、身体の壊れた箇所を直す度に『魔王』の魔力がアウグストの身体を侵食していくはず。

 だから『魔王』は、わざと身体が壊れるような無理な挙動をして、それを急速に治しながら身体を侵食したのだ。


 であれば、次は。


 僅かばかりの動きの起こりが見えた瞬間またレティは横へと滑るように流れ、その後を追いかけるように『魔王』の剣が振るわれる。

 その動きは、先ほどよりもさらに速くなっていた。

 

 さらに、横へと流れたレティへと『魔王』は迫り、左で突きを繰り出す。

 またレティはかわすが、今度はそれをわかっていたかのように突き出された剣が横へと、レティを追って振るわれる。

 後ずさって避ければ、直後、右の振り下ろし。

 それを小剣で受け流し、左で追撃できぬよう『魔王』の右側面へと回りながら、顔面を狙って払うような一撃を返すも、しかしそれは魔王の左剣が割って入り、防がれた。


 直後、下からすくい上げるように右剣がレティの腹部を狙って振るわれ、それを後ずさって、なんとかかわす。

 ふぅ、と小さく息を吐き出しながらまた小剣を構え直すレティを見やることしばし、『魔王』がにまりと嫌な笑みを見せた。


『いい。その動き、実にいい。この老いぼれの身体など比べようもない。

 どうだ、我の力をその身に宿してみぬか。

 貴様の身体と我の魔力があれば、この世に敵はおらぬぞ』


 比類無き魔力と、アウグストの身体でもこれだけ動ける運動性能。

 身につければ間違いなく無敵となろうし、力を欲する者であれば、垂涎の的だったかも知れない。

 だが、レティはあっさりと首を横に振った。


「お断り。そんな身体になりたくない」

『ほう、何故だ。その技、その動き。貴様とて力を追い求める者ではないのか』


 拒絶に激高することもなく、むしろ興味深げに『魔王』が問いかける。

 それに対してレティは、またあっさりと首を横に振った。


「私に取って剣は、目的のための手段。

 あなたの力なんて受け入れたら、その目的が達成できなくなる」

『何だ? この力があれば、どんな目的も達成できるであろうに』


 心底不思議そうに、首を傾げる『魔王』。

 この力で達成できぬ目的など、彼には想像もつかない。

 そして、だからこそレティは、彼を受け入れることなどできるわけがない。


「無理だね。私の目的は、エリーと落ち着いて暮らすこと。

 そして、エリーに絵を描いてもらうこと。

 できるだけ綺麗でいたいのに、そんな身体はまっぴらご免」


 そんな、と言いながら、小剣の先で指し示す。

 醜く歪んでしまった、かつてアウグストだった身体を。


 その返答に面食らってぽかんと口を開けた『魔王』は、しばしの沈黙の後に顔を歪ませた。

 それは侮蔑のようでもあり、憤怒のようでもあり。

 少なくとも、レティの返答が彼にとって面白いものでなかったことだけは確かだった。


『くだらん、そんなことのために、そこまでの腕を磨いたのか。

 そんなくだらん目的が、どれだけ大層なものだと言うのだ!』

「あなたのせいで、大層なことになってるのだけど。

 いい加減、邪魔しないでもらえるかな」


 静かにそう言い捨てると、今度はレティから踏み込んだ。

 迎え撃つように『魔王』の右剣が突き出され、しかしそれを小剣の腹で右側、『魔王』からすれば左の方へと押しやるように逸らす。

 身体が捻られ、左剣での追撃が封じられた魔王は、左剣で顔と頭部を守りながら右剣を払って間合いを取り直そうとしたのだが。

 今度は、その払いを、下に潜られてかわされてしまった。


 それを狙っていたかのように、エリーの声が響く。


「マナ・ボルト!」


 無防備に身体が開いた体勢になった直後、その四肢を狙って光弾が飛び、過たず撃ち抜いた。


『ぐおぁ!? 人形ごときが、この程度でいい気になるなっ!」


 流石に『魔核』程の防御力は四肢に無かったのか、それぞれが弾け飛びそうになるも、即座に再生が行われる。

 エリーへと睨みを利かせた『魔王』は、魔力を込めて腕を振るおうとする、が。


「よそ見してる暇はないよ」


 振り上げた腕が、懐に入ったレティによって切り払われた。

 途端、切断面から魔力が、肉が伸び、飛ばされた腕を掴んで歪な形でまた修復する。

 

『貴様、貴様等っ、調子に乗りおって!!』


 焦りながら横に振るった左剣は、しかし、がつりと違和感を覚えるほどの力強さで受け止められた。

 全力で放つ突きの応用、踏みしめた両脚で、股関節で、体幹で生み出した力を込めての、受け。

 それは、カーチスをも上回る『魔王』の一撃すら、受け止める。

 完全に動きが止まった一瞬。


「マナ・ブラスター!」

 

 エリーの狙い澄ました一撃が、また『魔核』を捉える。

 無防備なところへのそれは、いかな『魔王』といえども痛烈だったらしい。


『ぐおぁぁぁ!? 何故だ、何故貴様等は、こうも我の邪魔をする!』

「だから、言ってるじゃない。

 私達が邪魔をしてるんじゃない、あなたが私達の邪魔をしてるの」


 言いながら、レティは今の一撃でも砕けないならば、と思考する。

 あれを上回る一撃を入れるには。


『我が、邪魔? 我が邪魔だと!? 我を路傍の岩かのように!』

「まだ岩のほうがましかな」

「岩の方が、かわいげがありますから、ねっ!」


 また放たれるマナ・ブラスター。

 流石に続けて食らうのは嫌ったか、右剣をかざし、そこに結界の力を込めて弾く。

 直後、その手首を聖印の力を発動したレティに切り落とされ、また肉が伸びて歪な再生が行われ。

 レティを睨んで左剣を振るえば、今度はマナ・ボルトが刃を撃ち落とす。


 刃が砕け、また再生する、その一瞬。


「エリー、マナ・ボルト!」

「はいっ!」


 レティの声に応じて迸る光弾。

 それは、指示が無くともレティの狙い通り、『魔王』の四肢を撃ち抜いた。

 再生のための一瞬。

 その一瞬で、レティは『魔王』の目を払い、潰す。


『なぁっ! 目つぶしなど、小賢しいっ!」


 視界を奪われて突然現れる漆黒の世界に動揺した、再生するまでの僅かな間。


 その瞬間に、レティはエリーの傍へと『跳躍』し、その右手を握った。


「いくよ、エリー」


 レティの言葉に、エリーはこくりと頷く。

 エリーの左手には、予測していたかのように魔力が溜められていた。

 

 そして。


 『感覚共有発動』


 レティの魔力感知が捉えている『魔王』の核の場所が、そしてその損傷具合が正確にエリーに伝えられた。

 ここを射貫けば、という場所まで見えて。


 『共感覚補正発動』


 マナ・ボルトの時のような正確さで、マナ・ブラスターの狙いが付けられる。

 そして。


 『出力補正+600%』


 今までに無い出力補正がかかっていくのを、数値だけでなく実感として感じた。

 自分の意思が、魔力へと完全に伝わっていく。

 これで砕けないものなどない。確信とともに、力を解き放つ。


「マナ・ブラスター!!」


 最大限集束させた全力全開のマナ・ブラスターが、やっと視力を取り戻した『魔王』の核を捉えた。


『馬鹿なっ! 馬鹿なぁぁ!!

 我が、『魔王』たる我がぁぁぁ!!」


 砕かれまいと、『魔核』に全ての力を注ぎ込む、が。

 綻びが広がっていくように、ヒビが走り、割れ広がって。

 ついに砕けて、マナ・ブラスターの光に飲み込まれていった。

旅が終わる。

二人の少女が出会い、共に歩んだ道のりが、一つの結末を迎えた。

喜びも悲しみも、笑いも涙も、きっとその先のために。


次回:暗殺少女は魔力人形と夢を見る


だから彼女達は、また歩き始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。