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暗殺少女は魔力人形の夢を見るか  作者: 鰯づくし
6章:暗殺少女の向かう先
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反省と、それから

 夜の闇に朱色を滲ませる暖炉の中で、パチンと木の爆ぜる音がする。

 カラリ、乾いた音を立てて薪が崩れるのを見て取ったエリーが、もぞもぞと身体を動かして隣で寝ていたレティを突いた。


「ほら、レティさん、そろそろ薪を足さないと」

「え、もう? ……いいけど……ほんとに、私がするんだね……」


 ぼやくように言いながら、レティは一糸纏わぬ姿でベッドから抜け出す。

 ……暖炉で火を焚いていても流石に寒く、ふるりと身を震わせ、投げ出していた肌着を一枚だけ羽織った。

 

 赤々とした明かりに照らされた姿は、抜けるように白い素肌に朱色の影が纏い付き、どこかこの世の物では無いかのように見える。

 儚いのか、底知れないのか。

 ともあれ、見ていたエリーには妖艶にしか見えず、目を離すことなどできなかった。

 

 その上、歩く度にひらひら、肌着の裾が揺れる。

 薪を取ろうと前屈みになれば、色々と際どいところまで見えてしまう。

 そんな光景から目を逸らすことなどエリーに出来るわけもなく、食い入るように見つめていた、が。


「……エリー、さすがにジロジロ見過ぎ」

 

 気配に敏感なレティが、その視線に気付かないわけがない。

 エリーに背を向けたまま、薪を片手に呆れたような声で窘める。

 気付かれているとは思っていなかったエリーは、びくっと驚いて一度身を竦ませるも、すぐにニヘラ、と緩んだ笑みを見せた。


「だって、レティさん、すっごく綺麗なんですもん。

 暖炉の明かりに染まった白い肌……普段とのギャップがまたたまらないです」

「いや、そんな解説をして欲しかったわけじゃないのだけれど……。

 まったく、マスターを顎で使った上にジロジロ鑑賞するだなんて、とんだマナ・ドールもいたものだね」


 ため息を吐くように言いながら、ひょい、と薪を暖炉にくべる。

 もちろん本気でマスターがどうのと思っているわけもなく、エリーもそのことは承知していて、ニコニコとした笑みを浮かべていた。

 

「あら、味見とか言いながら味見で終わらなかった誰かさんのせいで、ちゃんとご飯作れなかったんですよ?

 だったら、これくらいのペナルティはあってしかるべきじゃないですか」

「う……確かにそれは、私が悪かったけども」


 笑顔で痛いところを突かれて、流石にレティも反論できない。

 味見、と言いながらがっつりとエリーを味わってしまったのだ、むしろこれくらいで済んで幸い、というものだろう。



「けども、じゃありません!

 反省してない人は、お布団に入れませんよ?」

「いや、流石にそれは勘弁して、ね、エリー」

「え~、どうしよっかなぁ」


 いくつか薪を足した後、ベッドに戻ろうとしたところでの言葉に、珍しくレティが少し慌てた。

 対するエリーは、布団を胸元にかき抱いて、少しも譲るつもりがない、ように見える。

 とぼけた顔で布団を開けてくれないエリーに、レティはちょいちょいと布団を引っ張って。


「え、ちょっとエリー、入れてってば」

「ふふ、反省しました?」

「反省した、うん。……入れてくれないと、風邪引いちゃうよ」

「仕方ないですねぇ、はいっ」


 懇願するような声に、笑いながらエリーが布団を上げた。

 その中にいるエリーは、それこそ一糸纏わぬ姿。

 暖炉の明かりでぼんやりと照らされたその姿は、妙に鮮明で、扇情的にも見える。

 いや、実際レティはそれに煽られてしまって、思わず喉を鳴らしてしまったりするのだが。


「……レティさん? やっぱり反省してないように見えるんですけど」

「いや、反省してる、反省してるから」


 そんなレティをジト目で見ながら、エリーが布団をまた閉じようとする。

 慌ててレティは布団の中に潜り込み、ふぅ、と一息ついた。

 同じ布団に包まれば、どうしたって腕も足も、むき出しの素肌が触れ合ってしまう。

 その感触にもまた、安堵のような感覚を覚えて吐息が零れた。


「あ~、やっぱりちょっと、冷えちゃいましたね?」

「……誰のせいだと思ってるの……」

「え~、誰のせいだと思います?」

「くっ……反論してもまた言い負かされそう」

「あはは、ほらほら、こうやって暖めてあげますから」


 ぼやくレティに、エリーが抱き着く。

 布団で暖まっていた柔らかな体が押し付けられ、確かな熱が感じられた。

 ……伝わってくるものと、また内側から湧いてくるものと、二つ。

 やり過ごすか身を任せるか、思案しながらレティも抱き返す。


「……うん、やっぱりエリーは暖かい」

「それは、ずっとお布団に入ってたことに対する皮肉ですか?」

「違うってわかってていってるよね?」


 じゃれあう様に、間近の距離で言葉を交わす。

 笑いあいながら視線が絡み合えば、どちらからともなく唇も交わして。

 ふふ、と笑い出したのはどちらからか。

 ついばむような口づけを、幾度も繰り返す。


「……ねぇ、エリー」

「……だめですよ、明日は早いんだから」


 何かをねだるような声に、エリーはそっけない。

 そっけない、のだが、その腕はレティを抱きしめて離さない。

 繰り返される口づけも、拒まない。


「ほんとにだめ?」

「ほんとに、だめですってばぁ」


 問いかけに返す言葉は、少しずつ甘い熱を帯びてくる。

 だめ、と言いながら、その視線は誘うようにレティの顔から離れない。

 レティももう、それが意味するところがわからない程朴念仁ではなかった。


「じゃあ、もうちょっとだけ、ね?」

「もう、ちょっとだけですよ?」


 そう言いながら、エリーはまたレティの唇を受け入れた。


 そして、もちろんちょっとで済むはずがなかった。

奇手とは、思いつきでは生まれない。

調べ、深く考え、考え抜いた先にふと生まれるもの。

地道な作業を繰り返したその果てに、不意に訪れるそれは喉に食らいつく刃となるか。


次回:打たれる勝負手


彼は、負ける勝負はしない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 反省してないな! ならば良し! [一言] 二人きりにすると時間無制限で糖分を生産し続ける……これが永久機関か。
[良い点] 流石、誘い受けの女王エリーさん さすエリ 『スキル:だめよだめだめ』を手に入れた! [一言] 教皇「神託よ!『神罰対象者』の弱点を!」 (…ざざざっ…ヨメニ…ヨワイ…ざざっ…) 教皇…
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